姫君と人形師


 ユラリ…と、風も無いのに蝋燭の明かりが揺れる。
「……ゼフェルですか?」
 部屋の中で静かに本を読んでいたルヴァはそのままの姿勢で天井へと呼びかけ、その声に反応するかのように一つの影が音もなく部屋の片隅に舞い降りてきた。
「ご苦労様でした。よく無事に戻って来てくれました。お茶でもいれますからいつまでもそんな暗い所にいないでこちらに来たらどうですか?」
 年の頃なら十六・七の、まだまだ少年と言って良いその人物に、ルヴァは笑顔でお茶を煎れはじめた。
 ここ光彩藩内の全ての忍びを統べるルヴァは、その立場とは対照的に穏やかで人当たりの良い人物であった。
 そのため手の者達の数人は、本来ならば上役である筈のルヴァに対し、ぞんざいな言葉遣いで接していた。
 今ルヴァの目の前で、差し出された座布団の上にどっかりと腰を下ろし、湯飲みを口に運んでいる、ゼフェルと呼ばれた少年もそんな一人だった。
「ルヴァ。帰ってくる途中、隣の水上藩から深編笠をかぶった侍が藩内に入るのを見たけど何かあったのか?」
 一気にお茶を飲み干したゼフェルが、帰りがけに見かけた街道の様子を話す。
「そーですか。水上藩で何かあった……誰ですか?」
 穏やかな口調で話していたルヴァが、一瞬だが厳しい表情を見せる。
「私よルヴァ。お話中ごめんなさいね。」
 障子が開けられ、主に藩内の情報収集を行っているオリヴィエが、艶やかな衣装を身に纏って入ってきた。
「オリヴィエ。何か変わった事でも?」
「そっ。水上藩の家臣が藩内をうろついてるのよ。」
 ルヴァの問いにそう切り出したオリヴィエは、水上藩の侍達が十五・六位の年頃の若い娘を探して藩内を歩き回っている事をルヴァに伝えた。
「そうですか。…私はこれから殿の所へ行って来ます。ゼフェル、今回の報告は後でお願いしますね。」
 ルヴァは立ち上がると、呆然とする二人を残して部屋を出ていってしまった。
「どうしたんだ? ルヴァの奴。」
「何か起こるんじゃない? こ・れ・か・ら。楽しみねー。」
 ゼフェルの問いにオリヴィエは艶やかな笑顔を見せた。


「ゼフェル! お帰りなさい。おもしろい事あった?」
 城の中庭で鳥達に囲まれたマルセルがゼフェルの姿を見つけて笑顔を見せる。
 たった一人の世継ぎとあってマルセルは、城の外へ出る事を滅多に許されず、ゼフェルが遠出仕事から帰ってくる度に同じ質問をしていた。
「別にたいしておもしろい事なんかなかったぜ。」
 そう答えたゼフェルは、チョイチョイと自分を呼んで耳元で囁くマルセルの話の内容に唖然とした。
 それは、自分の縁談の相手とされている水上藩の姫君の腹違いの姉姫が、城を抜け出し光彩藩内に隠れ、その姫を探して水上藩の家臣が藩内にいると言う、先程のオリヴィエの話を補足するものだった。
「おめえ……その話、どこで手に入れたんだ?」
「鳥さん達が教えてくれたんだよ。」
 情報通のオリヴィエよりも更に詳しい情報を、城中にいながらにして持っているマルセルに、ゼフェルはあきれつつも納得してしまった。
 何故か、幼い頃マルセルはルヴァの元で生活をし、その時習った忍びの術の一つ、鳥寄せの術と呼ばれるものを、情報収集の手段として活用していたからである。
「僕もね、まだお嫁さんもらう気無いからどうしようかと思ってたんだ。だからルヴァ様がこの事を父上に話してくれたらきっとこの話は無しになるだろうって思ったんだけどな……。うちの父上、そう言うのにうるさい人だから、いくら本人じゃないって言っても城を抜け出す姫君の妹を僕の相手になんか絶対しないと思わない?」
 問われてゼフェルが藩主の事を思い出す。
 確かにマルセルの父は、家柄や武家としてのたしなみ等、きまり事に非常に厳しい人物であった。
 おそらく隠密理に進めていた縁談は、姉姫が城を抜け出した時点で白紙に戻ったと考えて良いだろう。
「ゼフェル。僕さ、お城を抜け出したお姫さまが心配なんだ。だって女の子一人じゃ物騒じゃない? 危ない目に遭ってなければ良いんだけど……そう思わない?」
 マルセルの言葉に、御城下を外れると未だに物捕りや追い剥ぎが横行する藩内の治安を思いだし、ゼフェルが苦い顔する。
「ゼフェルも心配だよね!」
 強い断定口調で自分に尋ねるマルセルに、ゼフェルはついコクコクと頷いてしまっていた。
「良かったぁ。あのね、ゼフェルの家の近くで女の子が道に迷ってるって鳥さん達が言うんだ。多分、水上藩のお姫さまだと思うから、今回の縁談が確実に壊れるまでゼフェルの所で面倒見てあげて。必要なものは僕が何とかしてあげるから。じゃ、お願いするねゼフェル。」
「へっ? ……あ、おいっマルセル。ちょっ………。」
 一気にまくしたてた後、部屋の中へと姿を消してしまったマルセルを、ゼフェルは呆然と見ていた。


「ん……………。」
 見知らぬ部屋で布団に横たわっていた少女は、衝立の向こうから聞こえてくる聞き慣れぬ音に、ゆっくりと身体を起こし、音のする方へと視線を向けた。
「よお、目ぇ覚めたのか?」
 気配に気がつき振り返ったゼフェルは、まだぼんやりとしている少女に声をかける。
「俺はからくり人形師のゼフェル。おめえは?」
「私はアンジェリ……アンジェと申します。あの……。あの……私はどうしてここに?」
 ゼフェルは城下からの帰宅途中に、気を失って倒れていた少女を見つけ、家に運んだ事を告げた。
「見た所、木こりの娘みてーだけど……家出か?」
 そう言うゼフェルに少女は無言で俯く。
「お願いです。しばらくの間、私を匿って下さい。」
 少女はゼフェルに、意にそまぬ相手と無理矢理一緒にさせられそうになり家を出た、と話した。
「今帰れば即座に祝言を挙げられてしまいます。お願いです。父が諦めるまで私をここに置いて下さい。」
「……はぁ〜。しかたねえな。ついて来いよ。」
 溜息を一つして、ゼフェルは少女を曲がりくねった廊下の奥の部屋へと案内した。
「この部屋が一番奥の部屋だからここを使え。必要なもんは言えば大体そろえてやるよ。さっきの部屋は俺の仕事場だからあんまウロチョロすんなよな。いいな。」
 目を丸くする少女にゼフェルはそれだけ言って背を向けると仕事部屋へ戻ろうとした。
「…あの、お邪魔じゃなかったら見ていてもよろしいですか? 私、からくり人形って見た事無いから……。」
「へっ? ……おめえ…からくり人形を見た事ねえのか? ……しょうがねえな。好きにしろよ。」
 後ろからかけられた声に、驚いた顔で振り返ったゼフェルは、あきれた顔で仕事部屋へと歩いていった。


「では、この着物を着ていた娘はお前の娘と着物の交換をしたと言うんだな。」
 頷く木こりにオスカーは苦笑した。
『まったく。うちのお姫さまにも困ったもんだぜ。』
 姫君護衛役として二人の姫の側仕えをしていたオスカーは、今回の行方不明騒ぎの責めを取りその任を辞し、捜索隊の一人として光彩藩内に身を置いていた。
 たまたま立ち寄った古着屋で、見慣れた着物を見つけたオスカーは、店の者の話から、木こりの元までようやっと辿りついたのであった。
「それでその娘がどちらの方に行ったか解らないか?」
 しばらくの間、首を捻っていた木こりは山の奥を指さし、そんな木こりにオスカーは、いくらかの金子と礼を言って山を登り始めた。


「縁談の話、完全に無くなったって? オリヴィエ。」
「そっ。城を抜け出すような教育をしている藩と縁戚関係を取るわけにはいかぬ……だぁって。良かったじゃない。あの娘もこれで城に帰せるし……ちょっと、どうしたの? 元気ないわよ。ははぁ〜ん。さては惚れたな?」
 藩主の口調を真似て話すオリヴィエが、沈んだ顔を見せるゼフェルをからかうが、ゼフェルは全く反応を示さなかった。
「ちょっとちょっと。もしかして本気なの?」
「ま……まさか。やっとあいつのお守りから解放されて清々すらぁ。それより、寄ってくだろ?」
 真顔で聞いてくるオリヴィエの言葉を否定しながらもゼフェルは複雑な心境でいた。
 アンジェと過ごしてきた日々は、親の顔も知らず忍びとして生きてきたゼフェルに、心地よい安堵感と面映ゆい程の穏やかさを与えていたのだった。
「帰ったぜ。」
 いつもなら大急ぎで出迎えるアンジェが、今日に限って来ないのを不審に思ったゼフェルは、奥の部屋に人の気配を察し、急ぎ足で家の中に入っていった。
「何やってんだ!」
 人形が所狭しと並べられている奥の部屋で、アンジェは人形の埃をはたいていた。
「あっ、お帰りなさい。人形の埃があんまり凄いので、お世話になっているせめてものお礼にと思って……。」
 そう言いながら一つの人形に手を伸ばすアンジェを、ゼフェルが大声で制止する。
「ば……馬鹿野郎! そいつに触……………。」
 アンジェが人形を手に取ると、ジィーと言う独特の音をたてて歯車が動き出し、パックリと口を開けた人形を不思議そうに見つめるアンジェの視界が突然暗くなる。
「痛……。」
 小さな呻き声が聞こえ、視界の明るくなったアンジェの目に、腕に無数の針を刺したゼフェルの姿が映った。
「きゃああああっ!?」
 アンジェの悲鳴が家中に響く。
「ゼフェル! 大丈夫? これ、毒は……?」
「しびれ薬が塗ってある。命は何ともねーけど、三・四日は手が動かねーだろうな……多分。」
 震えるアンジェのすぐ脇で、腕の手当てをしながら二人が冷静に話をする。
「この大馬鹿野郎! あんまりウロチョロすんなって言っといただろ。こいつもそうだけど、俺のからくりには物騒なモンもあるんだからよ。おめえへたすりゃ針が目に刺さって失明するトコだったんだぞ。」
「ゼ……フェル。ごめんなさい。ゼフェル。」
 左腕をさらしで吊ったゼフェルに怒鳴られたアンジェが、その左腕に手を添えポロポロと大粒の涙をこぼす。
 焦ったゼフェルが助けを求めて隣を見ると、オリヴィエはいつの間にか姿を消し、『ごゆっくり』と書かれた紙だけがその場に残っていた。


「姫! ご無事ですか?」
「オ…オスカー……。」
 木こりから教えられ山を登っていたオスカーは、アンジェの悲鳴を聞きつけて家の中へ飛び込んできた。
「おい、落ちつけよ。こいつが帰りたくねえって言うから置いてやってただけだぜ。アンジェ……じゃねーや。水上藩のお姫さま。オリヴィエの話じゃマル……若殿の縁談は無しになったって言うからよ、城に帰れよ。こうしてお迎えも来たようだしよ。」
 ゼフェルに向け刀を構えるオスカーを静かに見据えながら、後方で呆然としているアンジェに声をかけるが、アンジェはそんなゼフェルの言葉に首を横に振る。
「水上藩のお侍さんよ。本人が嫌だって言ってるぜ。このまま帰るって訳にはいかねーのかな。」
 帰りたくないと言うアンジェを何とか説得しようとするオスカーをゼフェルが押し留める。
「それとも、どうしても連れて帰る。ってんなら俺もそれなりに黙ってないぜ。」
 ギリッと歯ぎしりをして自分を睨むオスカーに、ゼフェルはどこから出したのか一本の小刀を構える。
「……忍びか。そんな手負いの身体で、俺に勝てると思っているのか? 小僧。」
 スラリと刀を構え直したオスカーが、ゼフェルへと切りかかり、ゼフェルは素早い身のこなしで刃をかわす。
 鍔の競り合う音が室内に響く。
『こいつ………強え。』
 オスカーの刃をかわすゼフェルが心の中で呟く。
 そうしている内に、利き腕を負傷しているゼフェルが徐々に追いつめられていった。
「もらった!」
 声と共に振り下ろしたオスカーの切っ先は、ゼフェルの着物を赤く染める。
「ゼフェル! 止めて! オスカー。もう止めて。お願い。城に……帰…る………から。」
 床に倒れたゼフェルに止めを刺そうとするオスカーにアンジェがしがみつく。
「………解りました。では、城へ戻りましょう。この者ならば急所は外れておりますので大事には至りません。ご安心を。」
 オスカーはそう告げると、ゼフェルの側を動こうとしないアンジェを促して、水上藩へ戻っていった。


「あ〜楽し。今頃何してんのかしらあの二人。」
 ゼフェルの家からの道すがら、笑いながら呟くオリヴィエの視界に、若君側仕えのランディの姿が映った。
「あら、珍しい。はぁーい。ランディ。お元気ぃ。」
 オリヴィエが苦手なランディは、若君の使いでゼフェルの所へ行く途中だと、顔をひきつらせながら話した。
「あんら、そうなの? んーでもねぇ、今はちょっと…。あんまり野暮な事はしない方が………。」
 言葉を濁すオリヴィエを不思議そうに見ていたランディは、続くオリヴィエの言葉に仰天して走り出した。
「冗談じゃ無いですよ。忍びが一国の藩主の姫君となんて身分違いにも程があります。」
 走るランディを何とか引き留めるオリヴィエは、玄関口から僅かに匂う血の臭いに気がつき、もの凄い勢いで家の中へと入り、血まみれの床に倒れ伏すゼフェルの姿を見つけた。
「ゼフェル!」
 急所は外れているものの、出血多量で瀕死の状態のゼフェルの手当てを始めるオリヴィエに、遅れて入って来たランディが、ゼフェルの仕事道具の上に置かれていた女文字で書かれた書面を見つけて手渡した。
 そこには、アンジェからゼフェルへの感謝と謝罪の言葉が書かれてあった。
「姫君の迎えが来たんですね。」
「そう見たいね。」
 書面を覗き込むランディが、オリヴィエに呟きながらゼフェルの方へと視線を落とす。
「! ……オリヴィエ! これは……………。」
「ん? ああ、それならゼフェルが赤ん坊の頃から身につけてるやつだけど。それがどうかしたの?」
 突然、叫び声をあげるランディに、オリヴィエがあっさりと答える。
「そんな……まさか……………。」
 ブツブツと呟きながら部屋を出るランディを、オリヴィエは怪訝そうな顔で見ていたが、小さな呻き声に視線を布団に横たわるゼフェルへと戻した。
「気がついた? あの娘なら帰ったみたいよ。何でこんな事になっちゃった訳?」
 訳を聞くオリヴィエにゼフェルは無言のままだった。


「この度は、姫君のお輿し入れが決まったそうで、おめでとうございます。」
 父の名代として水上藩を訪れたマルセルは、藩主リュミエールに深々と頭を垂れて挨拶をした。
「こちらはお祝いの品でございます。よろしければ姫君様方とご一緒にご覧になって頂きたいのですが。」
 マルセルのそんな言葉にリュミエールは、二人の姫を呼び、身の丈程の大きさの桐の箱が開けられる様子をじっと見つめていた。
「こ…これは……見事な。」
 箱の中から現れた物に、感嘆の声があがる。
 そこには美しい着物を身につけた、人の大きさと同じ位の一体の藤人形が入っていた。
「こちらには、この様な仕掛けがございます。」
 マルセルに背を押され、踊り始めた藤人形の顔を見て、周りにいる家臣から驚きと感嘆の声があがる。
 その藤人形はアンジェリークと瓜二つであった。
「お気に召して頂けましたでしょうか? 実はこの人形を作った者が別室に控えておるのですが……。」
 マルセルの言葉も終わらぬ内に、立ち上がったアンジェリークは、どよめきが起こる中、別室へと走っていってしまった。


「…ったく、一体ここは何処なんだよ。」
 人形を作り終えたゼフェルは、マルセルの元でお茶を飲んでいた所で記憶が途切れ、見知らぬ部屋で着馴れぬ堅苦しい着物を着せられた状態で目を覚ました。
 そうこうしている内に、バタバタと廊下を走る音が聞こえ、ゼフェルは崩していた姿勢を正して身構えた。
「ゼフェル!」
 廊下から飛び込んできた思いも寄らぬ人物に、呆気にとられたゼフェルはその場に固まってしまった。
「大丈夫ですか? 傷の具合は? 左腕もちゃんと………。……ゼフェル? どうかしましたか?」
「……ちょっと待て。ここは何処なんだ?」
 呆然としていたゼフェルに尋ねられたアンジェリークが、きょとんとした顔で水上藩の城内である事を告げた。
「マルセル……あの野郎。」
 傷の具合をしつこい位に聞いてくるアンジェリークに返答をしながらゼフェルが呟く。
「……何をしているのですか? ゼフェル。」
「何って……帰るんだよ。」
 堅苦しい着物をその場に脱ぎ捨て、身軽くなったゼフェルの言葉を聞き、アンジェリークが着物の袖を掴む。
「あのなぁ……………。」
「ゼフェル。帰っちゃ駄目だよ。」
 抗議の声をあげるゼフェルを、廊下の向こうから現れたマルセルが引き留めた。
「こんな不肖の兄で申し訳ないのですが……。」
「姫は好いている様子ですので私は構いませんよ。」
 ゼフェルとアンジェリークの二人を無視して、マルセルとリュミエールが話を進める。
「おーい、マルセル。誰が不肖の兄だって?」
「……ゼフェル。これと同じ物を持っているよね。」
 答える代わりにマルセルは、懐の中から一つの守り袋を出して見せた。
 上等な布で作られた特別あつらえの品と見られるその守り袋を見るなり、ゼフェルが顔色が変え、いつも首から下げている守り袋を取り出した。
 見比べるそれは、ゼフェルの物の方が若干色あせてはいるが、全く同じ物だった。
「僕に拐かされた兄上がいるって話は以前したよね。父上は生まれた赤児が健康に育つようにお守り袋を必ず身につけさせていたんだ。ランディからゼフェルが同じ物を持ってるって聞いてね。で、眠ってもらっている間に調べたけど、間違いなくゼフェルは僕の兄上だよ。」
 マルセルの話を聞いている内に、ゼフェルは目の前の床がグルグルと回転を始めたような感覚に襲われた。
『俺が………マルセルの……………?』
「ああっ、ゼフェル! ランディ、あの薬、量を間違えるとぶり返しがあるってオリヴィエが言ってたよね? やっぱり多く飲ませちゃったのかなぁ。」
 アンジェリークの腕の中に崩れるように眠り込むゼフェルの様子に、慌てたマルセルが叫んでいた。


 それから数年後、年若い城主とその奥方は共に城下育ちであったため、水上藩の藩政は庶民にとって生活しやすく、城下の人々や家臣達は親愛の情をこめて、水上藩の城をからくり城と呼ぶようになった。


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