をりふし短歌

〜2010年〜

今見れば内紛予想するごとくJALを切り裂く紅き刃よ

妻よりも生徒が先に「おめでとう」アラ還前のMyBirthday

つり革につかまる老い人前にして若者かざす携帯が印籠となる

知らぬ間に屈伸してゐる待ち時間列車くるまで今日五十回

駅ソバのだしの香漂ひドア閉まり次の駅まで残り香味わふ

芸術か技術なのか氷上舞は歓喜の涙はソチまで持ち越し

腑に落ちずパラリンピックの開会式はどこの局でも放送されず

片足でスキーの板を操りて大和魂とともに滑ってゆく

声つまり答辞の空白を三年の思ひが埋めて涙あふるる

考査中ティッシュ放せぬ女子生徒ああそうなんだ花粉の季節か

白梅を背にして咲ける紅梅図尾形光琳をカメラで切り取る

梅の香に誘はれ歩くその先に瀬戸の小島が見え隠れす

妻通ふソーイング教室の作品を我はせっせとブログに取り込む

花散らしの雨を恨みて籠もり居て散りゆくさまを心に描く

平成の大修理を前に登閣する長蛇の列を桜が見下ろす

優美なる白鷺城に襲ひかかる巨大クレーンとのコラボレーション

散るを待ち巨大クレーンが城に迫り恐る恐るのお化粧直し

白鷺の城が再び羽ばたくを見むその時は我もう還暦

伊勢の地に新婚当時住みし家にすももの木のみ実を結びをり

「かわいいね」その一言を聞きたくて買い物せずに店内散歩

つぶらなる瞳で我を見つめゐて小首かしげて尻尾まで振る

頬染めし薄暗がりのハナミズキそのしとやかさが心に残る


今朝もまた太陽光のモニターが音楽奏でてエコを喚起す

カタカナの名が花盛りのバラの中に「栄光」「紫雲」が胸を張っている

アンジェラが咲くと鼻唄ついて出ていつも決まって「15の君へ」

薔薇の花の雫は涙か露なのかこぼれし後にはほのかな香り

我が庭に巣作り始むヒヨドリが飛びたる後に卵が三つ

いつの間にか二つに減りし巣の卵無事に孵れと切に願はん

覗き見て卵も親も姿なく屋根の上ではカラスが笑ふ

新学期意気込み感ずるシャーペンの音軽やかに答案を滑る

鉛筆を捨て無念無想の子もをれば枝毛とりに勤しむ子もゐて

現代の子ら文は武よりも強きこと切に感ずる時は来るのか

「マジっすか」が口癖だった君も早や大学生となる「マジっすか」を返そう

「いいでつか」「散歩行くでしゅ」愛犬と交わす言葉はつひ幼児語に

開発の波に洗はれ家島は緑削られ赤き肌見す

夏は夜 味はふために蛍見て帰りの雨をかしとは思へず

福祉とは素性の知れぬ言葉なり施設はまるで姥捨て山か

蕎麦猪口をアレルギーにもかかはらず集めし数は早や150

水溜まりに両の手会はせ咲ける花心通はせ生きてをります

イタリアの首都を真顔でパリといふこの生徒ら生くるに不都合はなきか

こみあぐる涙こらへて答辞聞き「蛍の光」で涙せきあへず

答辞読む生徒の声が司会者の原稿滲ませ感嘆符となる


再任用と悩むことなく同僚は早期退職すこの潔さ

大相撲、選挙と重なるこの日には我が村夏越しの祓への準備

4年間で5人も首相が替はる国G8でも端から2番目

父逝きて25回忌の法要に叔母一人のみ焼香を上ぐ

もぎたてのキュウリ・トマトを籠に盛り一等賞の完熟を引く

袖でこすり磨きを掛けたる「桃太郎」かじった瞬間新鮮飛び散る

水茄子に田楽味噌で化粧して簪挿して口に運べり

甲子園をめざす頭に刈り上げて青き頭上の白球を追ふ

こうのとり球場での初戦を控へともに祈らん福運び来たれと

「携帯は自転車置き場で電源オフ」それを忘れて定時にメロディー

問題を眺むる後に笑む君にやってくれると期待を掛くる

その顔は山を当てたか外したか監督中には判断つかず

答案を集めて見れば空欄の余りの多さに補充の心配す

宵山の祭り囃子のコンチキチン音も弾みて盛夏を呼び込む

山鉾を鉦音とともに引き回すこの日の京は「はんなり」以上

城下では「ゆかた祭り」が催され風情をよそに巡回補導

ブブゼラを味方につけて疾走し本田のシュートがゴールに刺さる

早晨の蝉噪高まりゆく世界禅の修行の読経に似たり

文月に「御田祭り」に出くわせる植女三人笑顔絶やさず

『羽衣』を奉納せし後植女らが神稲持ちて拝殿を回る

父親の肩に乗りたる三植女早苗を直ぐに持てるはうつくし

愛らしく手を振り応ふ三植女担ぎたる壮夫に汗滴り落つ

愛犬と京の風情を感じたく嵐電の一駅いつしか過ぐる


「フレッシュ」の蓋開くる音するや否や三つ指つける二匹座れる

打ち水に石青みたる美保館に大正ロマンの明かりが点る

もどり来る漁船の音で目を覚まし烏賊が並びて日光浴す

空の青に負けない碧に浮かぶ島先には秀峰大山聳ゆ

美保関出雲神話の旅を終へ妖怪ロードに車を走らす

鬼太郎と記念写真を撮れる時無口なヤンクがワンと一喝


白糸が幽玄世界に放たれて一大スペクタルの「土蜘蛛」に酔ふ

能にして能にあらずと評され「翁」の呪文はとうとうたらり

城を背に能舞ふ楽師が幻想のかがり火の中に見え隠れす

中秋の月を求めて好古園今宵はクレーンが月を吊り上ぐ

「妙法」が見えないと言ふ贅沢にホテルの屋上でカメラを構ふ

送り火が大の字となり輝ける一瞬の静寂が歓声に変はり

名月と悲哀を映す猿沢の池往く二隻の管弦の船

船上の月に思ひを馳せながら活かされてゐる尊さを知る

朝靄のかかる入り江の舫船光と影のターナーを想ふ

窓辺にて繕ひせる妻に斜陽射し描き出したるフェルメールの絵

熱風と睡魔に襲はれまた一人倒れ伏しゆく課題考査に

朝五時の空気の空気に秋を感じつつ愛犬に引かれて暗がりをゆく

日の出前の風は確かに秋なれど今年はこの後猛暑襲来す

東の空かぎろひてリード持つ手を休むれば秋の雲立つ

見上ぐれば如雨露の先に鰯雲猛暑を沈めて悠然と泳ぐ

三十三の命がひとつまた一つ地上をめざして吸ひ上げらるる

地上では奈落の底から生還せるヒーローたちに拍手喝采

命上ぐる五十三センチの円筒の中で彼らは何を思ひしか

生還せるスターの横で甲斐甲斐しく付きそふ市長はマネージャーのごと

屋台上ぐる腹底からのヨーイヤサーかけ声と屋台が宙に吸ひこまれゆく

鉢巻きの朱色が法被に染まりゆき血潮滾りて屋台を押し上ぐ

信長や清少納言を人間より眺むる我に時代の風吹く

息を飲む螺鈿紫檀の五弦琵琶天平の音色が聞こえてきたり

時忘れ螺鈿の琵琶を眺むれば想ひは絲綢之路へと続く

「天平の甍」に隠れし「漆胡樽」記憶の糸がやつとつながる

中国の反日デモを視てをれば大方のひとが楽しんでゐる

日本橋で家電をあさる中国人デモについては「聞かないでください」

神無月値上げの効果か校門に集ふ教師が四人も減れる

秋空にコスモス色の冴え渡りハンドル片手に山口百恵