序 文
高血圧は日本の成人において最も頻度の高い疾患であり、その結果生じる心血管病は医学的、社会的および医療経済的にも大きな問題であります。特に、人口構成の高齢化が急速に進む日本では、高齢化とともに増加してくる高血圧の発症を阻止するとともに、高血圧を早期に診断し、心血管病の発症を阻止することが極めて重要な課題であります。しかし今なお日本における血圧の管理は良好とはいえません。 これまで高血圧治療のガイドラインとして、日本では厚生省/日本医師会編の「高血圧診療のてびき」が1990年、日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン(JSH2000)が2000年に発行されました。JSH2000は藤島正敏委員長・阿部功事務局長の下で、日本高血圧学会が総力を挙げて作成したガイドラインで、多くの臨床医に認知され、使用されてきました。しかし、その後、優れた降圧薬が開発されてきたこと、降圧薬の効果に関する大規模臨床試験が多数報告されてきたこと、多くの先生方からJSH2000に関して種々の意見が寄せられたこと、さらに2003年に世界保健機関/国際高血圧学会(World
Health Organization/International Society of Hypertension:
WHO/ISH)あるいは米国合同委員会(Joint National Committee on Prevention,
Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure:
JNC)により、あるいは国際高血圧学会の承認を得て欧州高血圧学会/欧州心 臓病学会から新しいガイドライン(European
Society of Hypertension-European Society of Cardiology:
ESH-ESC)も発行され、また、2004年には英国高血圧学会から高血圧治療のガイドラインの改訂版が発行されました。このような状況において日本高血圧学会では高血圧治療ガイドライン作成委員会を組織し、JSH2000を改訂することを計画しました。 本ガイドラインの作成で特に留意した点は、(1)日本人特有の心血管病にも重点をおくこと、(2)日本人に適した非薬物療法および降圧療法を考慮すること、(3)血圧の日内変動を十分に考慮した治療
を心掛け、家庭血圧の日常臨床への応用に配慮すること、(4)高血圧の治療は長期間にわたることから医療経済にも配慮しました。なお、このような改訂にあたって、日本人を対象とした高血圧関連論文をできるだけ参考としました。 本ガイドラインは、日本における現時点での標準的な治療を目指したものでありますが、今後、高血圧学会をはじめ、他の関連学会や医師会などの評価を受け、さらに、次々に発表される大規模臨床試験の結果に基づき修正・改訂されるべきものであることは言うまでもありません。本書が高血圧治療に携わる臨床医の一助となること願っています。
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会
委員長 猿田享男 |