トッ


小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会
原告・中原のり子さん声明 2010.7.8 
 
 今年はサッカーのワールドカップイヤーです。サッカーが大好きだった夫・利郎が元気でいたら大躍進の日本チームに惜しみない声援を送り続け、寝不足の日々だったろうと思います。「日韓杯を観なければ死ねない!」と言っていた彼が突然逝ってから11年経ちました。

 亡夫の書き遺した「少子化と経営効率のはざまで」を世に伝えたい一心で活動を始め、労災認定を得るまでに8年かかりました。民事裁判の結果に納得できず、最高裁判所に上告受理申立をしてから約1年半になります。

 今年の春になって、最高裁判所から「より良い日本の医療を実現するための和解を考えてみませんか」との勧めを受けた時は驚きました。高裁判決の破棄のための最高裁判所の上告受理こそが私の求めていたものであり、和解をイメージしたことは一度もなかったからです。夫がこの場にいたらどう判断するだろうかと考えました。その結果、夫が最後に書き遺した文書の中で「わが病院」と表現していた佼成病院との裁判を、ここで終結させようと決心しました。この解決こそ、夫が命をかけて訴えたかった日本の小児医療改善、医療崩壊阻止に繋がると信じるからです。過度な対立は望まないという夫の生き方に添う結論を、皆様にご理解いただけたら幸いです。

 裁判所で夫の過重な労働による労災が認められたように、いまの日本のたくさんの医療者は、いつ生命が終わっても不思議ではない「異常な労働環境」下にあります。この働き方は、医療者の生命を危険に晒すと同時に、患者の生命と安全を脅かすものです。全国のどこの病院のどの科の医師が、いまこの瞬間、死の瀬戸際に立つ危機的状況であっても不思議ではありません。病院の経営者、指導の立場の方には、二度と同じ不幸が繰り返されないよう、最大限ご配慮くださいますようお願い申し上げます。

 最高裁判所には、毎月通って、「公正な判決を求める」署名と「高裁判決に異議あり」というメッセージを届けました。裁判を応援していただいた皆様からは約33,000筆の署名と356名の声が寄せられました。申立事件の 95%以上が棄却される最高裁判所の段階での異例の和解勧告に至りましたのは、ひとえに多くの方々のご支援のおかげと心より感謝申し上げます。

 サッカーの楽しさとワールドカップの醍醐味を教えてくれた夫でした。以前のように家族五人で応援することは叶わなくなりましたが「終了のホイッスルが鳴るまで、諦めずにプレーしよう」という亡夫の言葉が、遺された家族の合言葉のように響き合っています。

 私たちの裁判はひとまず終止符を打ちました。これからは、この11年間出来なかった母への孝行と、小児医療の現場で頑張る娘の生活支援をしながら、改めて「より良い日本の医療を実現するため」に活動しようと思っております。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

             
平成22年7月8日        中原 のり子  



Homeへ
記事・画像の無断転載・引用をお断りします