〜FINAL FANTASY 8〜

【万聖節前夜】

〜SEM1999HITキリ番リク。不知火さまへのプレゼントSS〜

   

 「明日、エスタ国大統領、ラグナ・レウォール氏が来園されます」
 バラムガーデンの学園長室で、伝説のSeeDと称される、ガーデン一凄腕のSeeDであるスコール・レオンハートは、部屋の主の前で渋い顔つきになっていた。
 今朝になって唐突にバラムガーデンの学園長であるシド・クレイマーに呼び出されたのだが、現在抱えている案件で学園長に招集されるような内容のものはなく、緊急事態でも起こったのかと急いで足を運んできてみれば、学園長の第一声がこれだった。
「明日・・・ですか?」
学園長がそう口にした以上それに間違いはないのだが、今耳にしたことを認めたくなかったスコールは問い返していた。
「ええ。明日の昼頃お見えになるそうです」
いつものおっとりとした口調と穏和な笑みを浮かべたまま、学園長はさらりとそう告げると、さらに言葉を重ねる。
「非公式に訪問されるそうで、特に身辺警護の方はお連れにならないとのことでした。そこで君に案内係兼警護を頼めないかと・・・・・・」
大丈夫だとは思うのですが、何か間違いがあってはと言葉を続けるその声に耳を傾けながらも、スコールは思わず額に手を当てて俯いてしまった。

 最悪のタイミングで、最悪の人間がやって来ることが判明してしまった指揮官は、頭の痛い思いでその日一日を過ごすこととなった。

 

 

 エスタ国大統領の来園日当日。
 今日はハロウィン当日ということもあり、幼年、年少組は勿論のこと、ガーデン全体が一体となってお祭り騒ぎに興じる日なのである。そのため今日は朝からガーデン内は右往左往の大騒ぎで、スコールもイベントの準備で大忙しだった。
 そんな嵐のような状況のなか、問題の大統領が到着したのである。

 「よお!スコール」
お忍びだという前振りだったため、目立たないよう変装してくるだろうと思っていたのだが、姿を見せたラグナは以前執務室で見かけたラフな格好をしていた。
 それを認めた瞬間、スコールは思わず額に手を当ててしまった。一国の大統領とあろう者が、あんな気安い格好で一人ふらっと歩いているなんてと思ってしまう。
 今のラグナの姿を見て、誰が謎に包まれた神秘の国エスタの大統領だと気づく者は、執拗にラグナを狙う不心得者たち以外にはきっといないだろう。
 スコールは軽くため息をつくと、姿勢をきちんと直し遠方よりの客をじっと見つめ、
「ようこそ、バラムガーデンへ」
ガーデン流の敬礼をした。
 一瞬、不思議そうな顔になったラグナだったが、苦笑を浮かべると、
「今日は一日、よろしく頼むな〜」
いつもの自分流の挨拶をくだけた口調のまま告げる。
「・・・・・・了解」
何と返したらよいのか逡巡した後、スコールも微かな苦笑とともにそう答えていた。

 

 

 ラグナがガーデンの施設を色々見て回りたいと希望したため、スコールは仕方なく内部を案内することにしたのだが、案内をする前にどうしても言わなくてはならないことがあることに気がつき、一旦その場で足を止めた。
  それを怪訝に感じたラグナは、問いたげな視線をスコールへ注いだ。
「?」
自分とは色を異にする碧翠の視線に臆することなく見返したスコールは、だがしかし、
「・・・・・・。ラグナ、あんた、何を見ても驚くなよ」
どこか諦めの色が滲んだ声音で、そっと口にした。
  徹底的に言葉が足りない忠告は意味が通じず、ラグナはずいっと一歩スコールに近づき、さらなる説明を要求する。
  どう説明したらよいのか少し考えてしまったスコールは、口にするより実際目にして貰った方が早いと判断し、無言のままガーデン内へラグナを招じ入れることにした。

「う、うわ〜」
以前スコールの誕生日パーティーで訪れた時とはまるで違う装いに、ラグナは思わず叫んでいた。
  ガーデンの至る所にオレンジ色に染色されたカボチャが、これでもかという風に置かれいる。そのカボチャは総てお化けのような顔が刻み込まれ、大きいものになると中身が取り出されものまであり、空洞と化したその内部にロウソクが明かりの灯った状態で立てられている。その様子はまるでランタンのようだ。
  今まで世界のあちこちを旅してきたつもりだったラグナだったが、こういう様式には遭遇したことがなく、物珍しい様子で周囲を見回していると、不思議な扮装を身に纏って子供たちが右往左往している様子が見て取れた。
  その叫び声が聞こえた訳でもないだろうが、少し離れた所に佇んでいた人物が入り口に佇む二人に気がつき、慌てた風に小走りに走り寄ってきた。
「スコール!」
走り寄ってきたのは私服姿のキスティスだった。
  そのあまりの勢いに何かあったのかと一瞬身構えかけたのだが、キスティスは一瞬のうちに呼吸を整え、スコールの手に綺麗なラッピングの袋をひとつ押しつけ、
「コレを持っていなさい。持っていないと、みんなから何をされるか判らないわよ」
今日は祭りと言うことで無礼講なんだからと小声で忠告めいたことを口にした。そしてすぐに綺麗な笑みを浮かべ直すと、淑やかにラグナへ挨拶の言葉を残し、来たとき同様疾風の如くその場を去っていった。
  苦笑を浮かべつつ手渡された袋を開けるスコールの手元を覗き込んでみると、中には可愛らしい包みのキャンディがいくつも入っている。しかし今現在ここで行われている行事について知識が全くない状態のラグナには、それが何を意味しているのかさっぱりだった。
  とりあえずキャンディから視線を上げ、直ぐ目の前の顔を見つめる。
  視線に籠められた意味を察知したスコールは、真っ直ぐラグナの視線を受け止めた。
「今日はガーデンあげてのハロウィンパーティーなんだ。あんた、間の悪いときに来たな」
「ハロウィン、パーティー?」
初めて耳にした言葉は不思議な響きを宿し、それが一体どういうものであるのか、想像のつけられない音の連なりだった。
  そんなラグナの戸惑いを敏感に感じ取ったスコールは苦笑を深め、包みから数個のキャンディを取り出すと、近くを通り過ぎようとした子供たちの一団に目線で声をかけてくるよう促した。
  一団のなかから、白い布を頭から被った子供がおずおずと近寄ってきたと思った瞬間、
「トリック・オア・トリート!」
大きな声でそう叫んだ。
  成り行きを温和しく見守っていたラグナは、突然の大声にびっくりし、やや及び腰になってしまった。
「ト、トリック、オア、トリート?」
そんなラグナの呟きを一旦無視したスコールは、両手を差し出してきた手の平に、キャンディを落とし込んでやった。
  憧れの人物から渡されたキャンディを大事そうに胸に抱え込んだお化けの子供は、大きく頭を下げてから仲間たちのところへ戻っていった。それを見届けたスコールは、傍らで疑問符を浮かべているラグナへと視線を引き戻した。
「トリック・オア・トリート。訳せば、お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ、だ」
苦笑混じりに語られた言葉に今のやりとりを納得したラグナだったが、根本的な知識が欠如しているためやはりよく理解できなかった。
「本来は、10月31日の夜は万聖節前夜と言われ、あの世から死者がこの世に舞い戻って家族の家を訪ねたり、精霊と呼ばれる存在がこちら側にやってくる日だとされていた。だからその日はそれらから身を守るために仮面を被り魔よけの焚き火をしていたのが始まりだったらしい」
スコールはそこで一旦言葉を切りラグナの様子を窺い、きちんと説明に耳を傾けていることを確認してから言葉を続けた。
「長い間にその本質が歪められてしまい、現在では、31日の夜にはかぼちゃをくりぬいた中にロウソクを立て、子供たちがお化けの仮装をした姿で『トリック・オア・トリート』と唱えながら家を一軒一軒訪問してお菓子を貰って回るという行事になってしまっている」
手にしている袋の中に入れられたお菓子は、子供たちに配布するためのものとして、先日購入した品物だった。

 万聖節前夜。
 それはあの世とこの世、死者の世界と生者の世界が限りなく近くなり、死者と生者が交わることの出来る日。

 万聖節前夜がどういうものであるのか、乞われるままに再び説明をすると、不意にラグナの目が少しだけ切なそうに細められたのを、スコールは見逃さなかった。
  レイン。
  スコールをこの世に生み出した後、他界してしまった人。そしてラグナが今でも愛おしいと思っている女性。
  不可思議な力によってラグナのレインに対する思いに触れたことのあるスコールは、自分の胸が微かに痛むのを感じた。
「会いたい・・・・・・のか?」
だからなのだろうか、自分でも思いもよらない言葉が口をついて出てしまっていた。
  言った当人もそうだったが、言われた当人もそんなことを言われるとは思っておらず、目を瞠って驚きの顔になる。
  碧翠の双眸と青灰色の双眸がしばらくの間交わり、同じタイミングですっと逸れた。そして二人は少しの間不自然な沈黙に包まれることとなった。

  「あ〜、どうだろ?」
しばらく何か考えこんでいたラグナだったが、不意にそんな言葉をぽつり漏らした。
「?」
声に含まれる色に、スコールは怪訝なものを覚え、思わずラグナの顔を見つめていた。
「・・・・・・今じゃなくても、きっと何時か会えるし。あいつだったら、待っててくれるだろ?」
がしがしっと乱暴に頭をかきながら、ラグナはぽつり呟いた。その眼差しは微かにはにかんだ色を乗せてはいたが暖かく、その視線の先には彼女がいるのでは?と思ってしまうくらい愛情に満ち溢れていた。
「あんただったら、きっとそう言うと思っていた」
そう言ったスコールの顔が、微かにだが、柔らかい笑みを浮かべていた。
 それを目撃してしまったラグナはその場で思わず硬直してしまった。
「?」
それを素早く感じ取ったスコールは笑みを収め、代わりに問いかけるような眼差しを相手へ注いだ。
 それでもラグナは言葉を紡ぐことはできず、身体を強張らせたまま青灰色の双眸を見つめ返すしかなかった。
 しばらく黙然と相手の出方を見守っていたスコールだったが、想像以上に続く沈黙に違和感を覚え、
「ラグナ?」
やや首を傾げながら問いかけた。
 ようやく硬直の解けたラグナだったが、自分の今の心情を上手く相手に伝えることができず、くしゃっと破顔した。そしていつもの明るく飄々とした顔に戻ると、ずいっとスコールの面前に片手を突き出した。
「?」
あまりにも唐突なその仕草に、スコールは上手く反応できなかった。
「トリックオアトリート」
元気いっぱい、ラグナはスコールに向かって言い放つ。
 一瞬、きょとんとした顔つきになったスコールだったが、すぐに苦笑を浮かべると、差し出された手の平に貰ったばかりのキャンディを数個落とし込むのだった。

 TRICK OR TREAT!
 HAPPY HALLOWEEN!!

END

 

 

 

スクウェアエニックスメンバーズTOPへ

 

壁紙提供:Heavn's Garden