スコールはぱちっと目を開けた。しっかりと開けられた双眸にはすでに眠気の余韻は微塵も感じられなかった。
未だ夜明けにはほど遠い時間だったが、スコールはベットに何の未練も残さず身体を起こし、すぐさま身支度にとりかかる。
いつもならばまだ数時間は眠りに就いているのだが、今日だけは違った。
この時間に起きなければ約束の時間には到底間に合わないのだ。
どれだけ不本意なことでも約束は約束であり、合意した以上それを履行しなければならない。
だからスコールはそれを叶えるためにこんな時間にも関わらず起き出した。
昨夜偶然出会った学生食堂で、自分にとっては偶然だが相手にとっては違ったらしい、顔を合わせるなりあの男は言ったのだ。
「スコール、明日夜明け前に訓練するから、俺につき合え」
明日は大事なSeeD実地試験があるから、この申し出は有り難迷惑の何者でもなく、スコールは眼差しで拒絶の意志を示したのだが、相手にはそれが上手く伝わらなかったらしい。
男は鼻で笑い、スコールの意見を一蹴した。
常日頃から尊大な態度で人を振り回すのが得意な相手だけに、スコールは半ば諦めの境地で相手の提案を承諾した。
いつもそうなんだ。
俺の何処が気に入らないのか知らないが、あいつは事ある毎に俺に絡んでくる。
実力が伯仲しているせいだと、ライバル視されているんだと、よく周囲からは言われるが、それにしてもあいつは執拗なまでにちょっかいをかけてくる。
構って欲しくなんかないんだと今まで何度繰り返したかしれない。でも、あいつはそれをとことん無視して声を掛けてくることを止めようとしない。
鬱陶しい。
俺が迷惑な顔をあからさまにしても、あいつは口元を微かに歪めるだけで聞き入れようとしない。
あいつ。
サイファー・アルマシー。
俺より一つ年上の、俺と同じガンブレードの使い手。
今日こそ決着をつけてやる。
腰にガンブレードを収めるための剣帯をとりつけたスコールはゆっくりと視線をベット脇に向けた。
視線の先には獅子を模った紋章が取りつけられている大降りのケースが、ベットに立てかけられている姿がある。
テーブルの上にあった戦闘用の黒い革手袋を手に填めながら、スコールはそのケースに歩み寄った。
ケースの取っ手を手にしたスコールはそのケースをそっと床に置いた。そしてその前に片膝をついて屈みこむと、取っ手のすぐ横に設置されているナンバープレートに暗証番号をさっと入力する。
微かにかちっというロックが解除される音が響く。
スコールは流れるような仕草でケースの蓋を開ける。
ケースの中に安置されているのは、スコールの愛剣『ライオンハート』。
リボルバーの拳銃と刀身の幅が広いバスターソードを組み合わせた特殊な形状のその剣はガンブレードと呼ばれるもの。
その扱いの難しさから現在ではほとんど廃れたと言って良い独特な武器。
銀色の刀身には雄々しい獅子『グリーヴァ』の姿が彫り込まれていた。
スコールは無造作にケースから剣を取り出す。そしてシリンダーにきちんと弾丸が装填されているかどうか確認すると、おもむろに剣を剣帯に差し込んだ。
手早くケースを元の場所に戻したスコールはそのまま何の未練も残さず自室を後にする。
闘いへの高揚感がもたらすものなのか、その唇には微かに笑みが刻まれていた。
スコールが本物の戦場に立つまであと数時間。
自分がこれから乗り越えていかなければならない様々な試練のことなど、今のスコールには予想がつくはずもなく。
青灰色の眼差しの先には、剣を片手に不敵に笑う男が映し出されていた。
END