寝起きは最悪だった。
睡眠中でも容赦なく起こる発作のお陰でもう大分長い間浅い眠りしかとれなくなっている。そしてその浅い眠りの中ですら、クラウドは安らかに眠れた試しがなかった。
夢を、見るのだ。
愚かな振る舞いのために犠牲になった人々が、繰り返し夢の中に顕れてはクラウドを罵り責めたてるのだ。
謝りたくても夢の中では何故だか声が出ず、クラウドは犠牲者達の罵倒をただひたすら浴び続けていた。
今朝もまた、いつもと同じ最悪な気分で朝の日差しを眩しそうに見上げる自分がいた。
悪夢の影響なのか、口の中がカラカラに乾いてしまっている。
クラウドは無言のまま敷布から上半身を起こすとすっと左手を伸ばし、枕代わりにしている巻いたままの毛布の傍らに置いている水筒を手にした。
手にかかった重量がかなり軽い。
昨日の晩、うっかり水を汲み損ねていたことを思い出したクラウドの眉間に微かにしわが寄る。
面倒くさい。
今の心境はその一言に尽きた。
『星痕症候群』という不治の奇病に蝕まれているこの身体。
病状がかなり進んでいる現在、いつ動かなくなってしまっても不思議ではなかった。
それでも身体は生の営みをなかなか放棄しようとはしてくれない。
いつまでもいつまでも生にしがみついている。
それを維持していくのに必要な労力を思うと、ため息がでてしまうのだ。
いつになったら楽になれるのだろう。
あと何回朝を迎えれば、何もかも終わるのだろう。
そう思ってしまう自分が、そう考えてしまっている自分が、ここに確かにいる。
暗澹たる気分のまま、手にしていた水筒から水分を補給する。
喉を伝い落ちていく水の冷たさが心地よい。
知らず、クラウドの口元が微かに歪んだ。
少し浮上しかけた気分を咎めるように、左腕がぎりっと痛んだ。
突然の激痛にクラウドは反応しきれず、手にしていた水筒を取り落としてしまう。
毛布の上に水が不吉な紋様を描き出すようにじっとり広がっていく。
発作、だった。
クラウドはそのまま左腕を抱え込むようにして、どおっと敷布の上で横倒しになった。
額に微かに浮かぶ汗。
唇からは絶え間なく苦鳴が洩れる。
もう何度経験したかしれない発作。
しかし訪れる激痛に身体が慣れるということはない。
あとどれくらいこの痛みに耐えれば、総てが終わってくれるのだろう。
クラウドの顔が苦痛とは違う別の何かに歪んだ。
その思いを嘲笑うように発作はしばらく続き、クラウドの心身を打ちのめす。
今までなかった激しい発作に、いつしかクラウドは意識を手放していた。
固く閉ざされていた唇が薄く開き、そこから細く息が吐きだされる。
長い睫毛が微かに震え、蒼い瞳がその姿を顕す。
意識を取り戻したクラウドはだるそうに身体を起こし、そしてこぼれてしまった水筒に気がついた。
蒼い瞳が無感情に転がる水筒を見据える。
水を汲んでこなくては。
まだ自分はこうして息をしているのだから。
自分のものとは到底思えない重い右手を伸ばして水筒を手に取る。
たったそれだけのことなのに、クラウドの唇からため息がもれた。
あと何度、自分はこうして意識を取り戻してしまうのだろう。
もう、終わりにしたいのに・・・。
クラウドは、惜しみなく降り注いでくる朝の光を厭わしそうに見上げた。
END