【執務室へ行こう!〜リュミエール編〜】

 

(目の前にある扉を貴女は軽くノックしました)

 

 どうぞ。

 扉は開いております。

 

 ああ、貴女でしたか。

 お話はディアさまからお聞きしております。

 

 ようこそ、わたくしの執務室へ。

 わたくしは水の守護聖リュミエールと申します。

 

 ああ、貴女は とおっしゃるのですね。

 心地よい風のような涼やかな響き。

 貴女にとても相応しい名前ですね。

 

 そちらのソファへどうぞ。

 お好みのお茶などおありですか?

 よろしければ貴女のご希望に添わせて頂きますが。

 それとお茶請けは何がよろしいでしょうか。

 

 ああ、そう言えば、ディアさまより頂いたお菓子がありました。

 そちらでよろしいでしょうか?

 

 本日は、 、貴女の質問にお答えするよう承っております。

 何か、わたくしに聞きたいことなどおありでしょうか。

 

 ええ、勿論、貴女がお尋ねになることでしたら、何なりとお答えいたしますよ。

 

 ジュリアスさまのことをお話すればよろしいのですか?

 それでしたら、わたくしにお聞きになるよりもオスカーの方がよろしいと思うのですが・・・。

 

 いえ、別にそんな訳では・・・。

  、そんな哀しそうな顔をしないでください。

 わたくしはただ、わたくしよりもオスカーの方がジュリアスさまのことをお聞きするのに適任だと思っただけで・・・。

 

 ああ、決して貴女の質問にお答えしたくない訳ではないのです。

 貴女のその澄んだ声で尋ねられたことならば、例え判らないことでも答えて差し上げたいくらいです。

 

 ですから、そんな顔をなさらないでください。

 お願いですから、ね?

 

 ああ、

 貴女にはやはり憂い顔は似合いません。

 そうして明るい表情をしている貴女は何よりも素敵です。

 

 それではジュリアス様についてわたくしは何をお話すればよろしいのでしょうか。

 

 お人柄について・・・ですか。

 それは・・・。

 わたくしはジュリアス様とはそれほど親しくさせて頂いている訳ではおりません。

 そんなわたくしのお話でも構いませんか?

 

 ああ、なるほど、そうでしたか。

 わたくしがあの方についてどう思っているか。

  、貴女にそれをお話しすればよろしいのですね?

 包み隠さず、思ったことをそのままに・・・。

 

 ジュリアス様は、恐らく皆さんそうおっしゃることでしょうが、首座に相応しい方だと思います。

 他人に厳しい方ですが、それ以上にご自分にとても厳しい方です。

 少しの怯懦もご自分にお許しになりません。

 どんな困難な状況に置かれていても、あの方は真っ直ぐ前を見つめていらっしゃいます。

 誰よりもまずご自身が先を歩まれて、その後に続く者たちの困難を少しでも取り去ろうと尽力なさっておられます。

 

 ですが・・・。

 ですが、あの方は前を見つめていらっしゃるあまり、後ろを振り返ろうとはなさいません。

 その歩みを止めようとはなさってくださらない。

 

 人は、あの方のように前ばかり見つめて生きていくことはできません。

 時には立ち止まり、時には後ろを振り返ってしまう。

 それが人というものではないでしょうか。

 

 でも、そうすると、あの方の歩みについていけなくなってしまいます。

 あの方と一緒に歩もうと思うのは、時に困難を極めるのです。

 

 ほんの少しでも、ご自分の後ろを振り返ってくだされば・・・。

 ほんの僅かでも、その歩みをゆっくりとしてくだされば・・・。

 あの方ご自身ももう少し楽に呼吸ができるようになるのではないでしょうか。

 

 わたくしの目には、あの方は時に痛々しく映ることがあります。

 わたくしがこのように思ってしまうのは、僭越なことかもしれません。

 ですが、先を見据え続けているあの方の眼差しに、時々胸をつかれてしまうのです。

 

 どうしてそれほどまでにご自分の感情を切り捨ててしまうのでしょうか。

 どうしてそれほどまでにご自分の心に何もかも秘めてしまうのでしょうか。

 

 あの方のすぐ近くに、わたくしたちがいるのです。

 もう少しわたくしたちを頼りになさってもよろしいのではないでしょうか。

 

 時々、そう思ってしまうことがあります。

 

 ああ、

 このようなことを貴女に申し上げてしまうとは・・・。

 わたくしもまだまだ修行が足りないようですね。

 

 お恥ずかしい限りです。

 

 ああ、もうこんな時間なのですね。

 貴女とともにいることが嬉しくて、時間を忘れてしまいました。

 

 

 わたくしは貴女のためになることを話せたでしょうか。

 

 ありがとうございます。

 貴女にそういって頂けるなんて、とても光栄です。

 そのお礼と言っては何ですが・・・。

 

 あの、

 もう一度わたくしと会っては頂けないでしょうか。

 勿論、貴女の都合のよろしい時で構いません。

 

 え?

 わたくしの竪琴・・・ですか。

 ええ、貴女がお望みとあれば幾らでもお聴かせいたしますよ。

 

 貴女の安らぎとなるような優しい曲。

 貴女を楽しませるような明るい曲。

 貴女の心を温めるような穏やかな曲。

 

 貴女が望む限り、わたくしは幾らでもお聴かせいたします。

 

 これは、貴女とわたくしだけの秘密の約束、ですね。

 

 次に貴女に会える時を楽しみにしております。

 

 

END

 

退室

 

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