【執務室へ行こう!〜ジュリアス編〜】

 

(目の前にある扉を貴女は軽くノックしました)

 

 入るがよい。

 

 ああ、そなたか。

 話は女王補佐官ディアから聞いている。

 が、しばし待ってはもらえぬか?

 早急に対処せねばならぬ事態が起こってしまったのだ。

 

 いや、それほど時間はかからぬゆえ、待っていてはもらえぬだろうか。

 

 そうか、それではそちらで待っていてくれ。

 今、茶でも用意させる。

 

 誰か、彼女にお茶を・・・。

 

 すっかり待たせてしまったな。

 そなたとの約束の時間を少々過ぎてしまったか。

 すまぬ。

 

 そう言えば、自己紹介がまだだったな。

 私は光の守護聖ジュリアスだ。

 そなたの名は?

 

  、か。

 ああ、なるほど。

 そなたらしい良い名前だな。

 

 今日はそなたがここを訪れることをディアから聞いていたのだが・・・。

 私は何をするのか具体的なことは何も聞いておらぬ。

 

 では、 よ、此度は何用で私の許を訪れたのだ?

 

 ああ、そんなに緊張することはない。

 私は怒っているわけではない。

 そなたの望みが聞きたいだけなのだ。

 

 何?

 私に幾つか質問があるだと?

 

 判った。

 質問の内容によっては答えられぬこともあるが、それでもよいな。

 

 ではどんな質問なのか聞かせて貰おう。

 

 私がピアノでどんな曲を奏するのかだと?

 

 

 そなた、私がピアノを嗜むなどとどこで聞き及んできたのだ?

 リュミエールやオリヴィエほどの名手ではないゆえ、公では一切奏したことなどないというのに。

 

 いや、無理に答えずとも良い。

 恐らくあれにでも聞いて参ったのであろう?

 あれの前では幾度か奏したことがあったし、な。

 

 ああ、すまぬ。

 話が逸れてしまったな。

 

 そうだな、私が好んで奏するのはワルツの曲が多い。

 ん?

 そなたがそのような顔をするとは・・・。

 

 私がワルツを好むことがそんなに意外か?

 いや、そなたを責めているのではない。

 だからそんなに不安げな顔をするのは止めてくれ。

 そなたにそんな顔をされては、私はどうしたらよいのか判らなくなるではないか。

 

 ああ、話を戻そう。

 

 私がワルツを好むのは・・・・・・。

 私がワルツを好むのにはそれなりの訳があるのだ。

 

 ワルツは、私が聖地に召される前の思い出の中で流れている曲なのだ。

 あまりに遠い記憶ゆえ顔も定かではないが、母が私の為に奏でていてくれた曲が、ワルツなのだ。

 母は、その時々の気分にあわせて色々な曲を巧みに奏していた。

 私が聖地に召される日も、母はピアノを奏で続けていた。

 だから、私にとってワルツは幼い頃の思い出の曲なのだ。

 

 どうしたのだ?そんなに泣きそうな顔をして。

 私は何か迂闊なことをそなたに申してしまったであろうか?

 

 頼むから、泣かないでくれ。

 私は女性の涙というものを見るのが無性につらいのだ。

 あの日の母の姿を思いだしてしまうから・・・。

 

 ああ、そんな顔をするでない。

  、そなたを悲しませるような話題はこの辺で終わりにした方が良いようだ。

 

 次の質問に移ろう。

 

 次は何が聞きたいのだ?

 

 何、私がどんな風にエスプレッソを楽しむのかだと?

 何故そのようなことを知りたいと・・・。

 

 まあ、よい。

 私なりの楽しみ方を話せばよいのだな?

 

  、そなた、エスプレッソはどんな飲み物だと思うのだ?

 

 なるほど、そなたにとっては苦くて身体に悪いという印象が強いのか。

 

 だが、それは誤解というものだぞ。

 エスプレッソというのはだな、いわゆるコーヒーよりも濃度が濃い分、旨味が凝集されている。

 それに、コーヒーとは抽出方法がまるで異なるゆえ、カフェインがより少ないのだ。

 

 普通、エスプレッソには砂糖を入れて飲むのだが・・・。

 まあ、私は最初の一杯はストレートで、二杯目以降はミルクを入れて飲むようにしている。

 気分によってはこれに砂糖を加えて楽しんだりもするがな。

 飲み方は人それぞれだが、私はこんな感じだ。

  そなたも今度試してみてはどうだ?

 

 ああ、もうこんな時間か。

 そなたとのやりとりに夢中で時の経つのを忘れてしまった。

 たいしたことも話せなかったが、そなたの役にたったであろうか?

 

 そうか、それならばよい。

 

 この次は・・・。

 

 執務ぬきでそなたに会いたいものだな。

 ああ、そなたさえよければの話だが・・・。

 

  、そなた、今、笑ったな?

 私がこんなことを言うのがそんなに可笑しいか?

 だが、私は正直に自分の気持ちを話したのだが・・・。

 

 いやいや、怒っているわけではない。

 ただ、そなたの顔を見ていたいと、そう思ったからそのように申しただけなのだ。

 しかし、私がこんな気分になろうとは・・・。

 

 光の守護聖ジュリアスともあろう者が、不覚であった。

 

  、そなたには感謝している。

 そなたとの会話は少なからず私の心を優しく包んでくれた。

 

 叶うならば・・・・・・。

 叶うならばで構わぬのだが・・・。

 

 そなたの都合の良いときにもう一度会ってはくれまいか?

 そなたともう少し言葉を交わしてみたいのだ。

 そして今度は私の方からそなたに幾つか質問を許して欲しい。

 

 そうか、それでは次にそなたと会えるのを楽しみにしているぞ。

 

 

 

END

 

退室

 

 

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