【執務室へ行こう!〜番外編〜】

 

(貴女は聖地の門をくぐり抜けようとしましたが、何かに躓いたのか少しよろけてしまいました)

 

 おおっと、危ねえな。

 何に気をとられてるのか知らねえけどよ、きちんと前を見て歩けよ。

 他のやつにも迷惑だろ。

 

 礼なんか・・・いいぜ。

 お前が危なっかしかったから、つい手がでちまっただけだ。

 

 何じろじろ見てんだよ。

 俺の顔に何かついてるのか?

 

 おい?

 俺の話聞いてんのかよ?

 

 あん?

  だって?

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 はっ、お前って変なやつだな。

 いきなり見知らぬ人間に名乗るとはよ。

 

 そんな天真爛漫な笑顔で言われちゃあ・・・。

 まあ、仕方ねえ・・・か。

 

  、お前のその笑顔に免じて俺も名乗ってやる。

 

 俺の名はアリオス。

 武者修行中のしがない旅の剣士ってやつだ。

 

 そんな人間がどうしてこんなところにいるのかって?

 まあ、それは、あれだな。

 『現人神』が坐す『聖地』ってやつを、後学までに拝んでおきたいってやつだ。

 

 そう言えば、

 お前、今、この門から出てきたんだよな。

 なあ、ちょっとでいいから、中の様子とか俺にも教えてくれないか?

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 やっぱ、駄目か。

 まあ、仕方ねえよね。

 他力本願なんかじゃいけねえってことだ。

 自分の望みを叶えるために努力を惜しんでちゃ、人間駄目になるってもんだよな。

 

 そうすると・・・だな。

 

 おい、

 お前、これからどこ行くつもりだったんだよ?

 

 あん?

 何だ家に帰るだけなのか。

 家に帰って何するのか知らねえけどよ。

 それじゃ、つまんねえな。

 まだ昼間だぜ?

 よかったら俺につきあわねえか?

 

 何処に行くのかって?

 それはな、

 お前のお望みのままにってやつだ。

 

 すぐには思いつかないって?

 まあ、そりゃそうだよね。

 それじゃ、あそこに見えるカフェテラスでお茶をするってのはどうだ?

 あそこには絶品のケーキがあるって話だぜ。

 

 よし、じゃあ、決まりだな。

 

 それじゃあ、

 手をよこせ。

 お前がまた転ばないように俺が支えてやるよ。

 

 ほら、着いたぜ。

 何を頼むんだ?

 遠慮なんかするなよ。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 仕方ねえなぁ。

 それじゃ、あそこのお薦めってやつをふたつ頼むぜ。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 たまにはよ、

 お前みたいな人間と向かいあってよ。

 こうしてゆったりと時間を過ごすってのも、いいのかもな。

 

 何だ、もう食い終わっちまったのか?

 それだったら、

 俺の分のケーキも食べちまっていいぜ。

 女って奴はこういったのは何個も食べられるんだろう?

 

 何だ何だ。

 急にふくれっ面になっちまいやがって・・・。

 

 ああ、そう怒るな。

 俺が言ったことに一々反応するなよ。

 うっかり何か言えなくなるじゃねえか。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 俺はよ、

 ただ純粋にお前の喜ぶ顔が見たかっただけだ。

 

 おい、今、笑ったな。

 何か変なこと、俺、言っちまったか?

 

 おい、いつまでも笑ってるなよ。

 おいってば。

 

 まあ、いいか。

 たまにはこんな日があってもよ。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 なあ、

 ひとつ、頼んでもいいか?

 

 あのよ、もし今度何処かでまた会ったらよ。

 こうして俺と一緒に居てくれないか?

 こうして他愛のないおしゃべりに付き合ってくれないか?

 お前の笑顔は俺の心に何かこう大事なものを与えてくれる。

 

 なあ、

 

 そんな嬉しそうな顔してくれるなよ。

 お前を離したくなくなるだろう?

 

 じゃあ、また。

 

(貴女は頬を朱に染めながら嬉しそうに帰宅の途につきました)

 

 また、会ってくれ・・・か。

 なあに俺らしくないこと言ってんだか。

 

 今度会うとき。

 もし再び会うことがあったなら。

 その時、お前は今のように俺に微笑えみかけはしないのに。

 その澄んだ瞳に限りない憎しみの炎を宿しているのに。

 

 今度会うとき。

 それは、俺が女王に敵対する者としてお前の前に姿を現すとき。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 おっと、もうこんな時間か。

 俺もそろそろあいつらの処へ帰るとするか。

 

 俺は俺の望みを叶えるためにあらゆる犠牲を払ってやる。

 それがたとえお前の破滅を呼ぼうとも、俺は望みを叶えてやる。

 

 なあ、

 

 お前は俺の望みを愚かなことだと笑うんだろうか?

 

 

 END

退室

 

 

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