〜 ファイナルファンタジー10〜
ユウナ君。
今さら君にこんな手紙を書くなんて、正直自分でも驚いているけれど、僕の思いを少しでも君に知っていて欲しくて、筆をとることにしたんだ。
今さら、君にこんなことを伝えるなんて、自分でも愚かだとは思うけれど、終わることのない平和が世界に訪れて、自分のための時間がとれるようになって初めて、僕は君に伝えたいことがあることに気づかされたんだ。
だから、今さらだとは思うけれど、こうして君に手紙をだす僕を、許してほしい。
ああ、すっかり前置きが長くなってしまったね。
僕が言いたかったこと。
それは、
『ありがとう』
ということなんだ。
君が『究極召喚』を破壊したと風の噂で聞いた時、僕は正直驚いた。
『究極召喚』を求めて旅をする君は揺らいでいるようには見えなかった。
君の決心は不動のように見えた。
旅のなか、君に何があったんだろう。
君にそんなことをさせてしまうくらいの、何があったんだろう。
そして。
そして。
何を躊躇っているんだろう、僕は。今さら隠しても仕方がない。
正直に言おう。
僕は君のそんな行いに驚く反面、はりつめていた心が解れていくのを感じた。
緊張に強ばっていた表情が和らぐのが自分でも感じられた。
『ああ、これでもう旅をしなくてもいいんだ』と、僕は安心したんだ。
そう、弟たちを残して自分が逝かなくてすむことに、安心したんだ。
『究極召喚』。
それは人々の最後の希望。
それは人々につかの間の安寧をもたらす唯一の手段。
それを破壊という形で人々から取り上げた、その行い故に、君は人々の尊敬を受ける立場から一転して憎悪の対象になってしまったとしてもおかしくはなかった。
それに気づいていながらも、僕は『旅の終わり』を喜んだんだ。
そう、僕は君の立場にいないことを良いことに、喜んだんだ。
今君は、僕のことをひどい人間だと思ったかな?
そう思われてしまっても仕方がないよね。
でも、これが僕の偽らざる思いだ。
結局僕も、自分のことしか考えない身勝手な人間だったということなんだろうね。
君が今こうして僕からの手紙に目を通していられるのは、最後まで諦めずに努力した君の奇跡であり、君の意志の強さでもある。
この奇跡を手にするために、君はどれほど大きな犠牲を強いられたのだろう。
この奇跡を手にするために、君はどれほど苦しみを乗り越えていったのだろう。
それは、僕には想像がつかないくらい大きなものだったんだろうね。
『永遠のナギ節』。
実際自分で体験することになるとは思っていなかったよ。
こうして自分のための時間がとれるようになるってことも、全く想像していなかった。
召喚士として世界を旅している時、僕の時間は僕のために費やされるものではなかった。
それ以前も、召喚士を目指して修行を積んでいる時、僕の時間は僕だけのものではなかった。
だから、不意に訪れた『自分のための時間』というものに、正直僕は戸惑っている。
あれから大分時間は過ぎていったけれども、今でも僕は自分を取り囲む『穏やかな時間』というものに戸惑っている。
でも、弟たちが側にいてくれる。
弟たちが傍らで優しく笑っていてくれる。
旅を続けている間、こんなにも楽しそうに笑っている弟たちを見たことがなかった。
そしてそんな笑顔が、僕の心を温かくしてくれるってことを、僕はいつしか忘れていた。
それを、君は気づかせてくれたんだ。
僕の側に常にあった温かいぬくもりに、君は気づかせてくれたんだ。
君に感謝の言葉をいくら言っても言い足りないくらい、僕は君に感謝している。
ああ、こんな言葉では表現しきれないくらいだ。
今はまだ色々と整理しきれないから、そう簡単にここを離れるわけにはいかないけれど。
僕がいつか君の元を訪れることを、君に許してほしい。
それがいつのことになるのか、今はまだ判らないけれど、いつか君の元に必ず行くから、それまで君も元気でいてくれ。
最後になったけどもう一度、君に心よりお礼を。
そして今度こそ、君は君自身のために生きていけるよう祈っている。
END