〜DISSIDIA FINAL FANTASY〜

【仮想幻夢】

   

  美麗な彫刻の施された円柱が立ち並ぶ廻廊を、歩いていく3つの影。

 一つは、黒い衣装に身を包んだまだ若い青年で、その腰には独特なフォルムの大剣が下げられている。
 もう一つは、青年とは好対照的に明るい感を与える衣装を纏った若者で、刀身が氷のように透けて見える剣を下げている。
 そしてもう一つ。前述の二人とは種族が異なっているのだろう、小柄な少年には長い尾があった。

 先頭を行く青年は無言のまま廻廊を一刻も早く抜けようと足早に歩いていくが、残る二人は青年ほど熱心ではなく、ややのんびりとした歩調で、ややもすれば青年から遅れがちに後を追いかけていた。
 この廻廊は常識では考えにくいほど広大であり、立ち並ぶ円柱は複雑な法則により意図的に視界を奪うよう配置されており、先が全く見通せない。何時になったら出口にたどり着けるのか、皆目見当もつかなかった。
 この場より引き返そうにもすでに大分歩いてきてしまっている。
 先の見えない道程に、三人とも疲れの色が見え始めていた。

 「なあ〜、スコールぅ〜」
少年がくたびれきった声で先頭を行く青年にそう声をかけた。
  青年は歩みを止めることなく肩越しに背後を振り返り、小さくため息をつくと仕方なさそうな表情を浮かべてその場に立ち止まった。
  つい先程まではすぐ後ろにいたはずの二人が、少し離れたところで座り込んでしまっていたのだ。
  もう一度、スコールと呼ばれた青年はため息をつき、二人が居る場所へ戻ろうと身体の向きを変えた。
  その瞬間、青年の表情は呆れたそれから一転し、戦いの場に臨む戦士のそれへと変わっていた。
「「スコール!!」」
連れの二人が一斉に警戒の声を発したが、それを聞くまでもなくスコールには異変が生じていることは判っていた。
  青灰色に鋭くきつい光を浮かべ、スコールは自分から数本先にある円柱へと視線を滑らせる。そして背後の二人もほぼ同時に同じ場所を見つめていた。
  突然、円柱の向こう側から凄い威圧感を感じたのだ。
  その唐突な出現の仕方に覚えのあったスコールは、無言のまま、腰に下げていた剣を外し、正眼の位置に構えた。
  それを待っていたのだろうか、円柱の向こう側から漆黒の衣装を纏った美丈夫が姿を見せた。
  口元に限りない冷笑を湛え、優美な動作でスコールの元へ歩み寄ってくる。
  その手に太刀を所持していないことを確認してから、スコールは一旦剣を収め、相手の接近を許した。
  その行動がどう写ったのか、男は冷笑を微苦笑に変え、ゆったりとした動作でスコールのすぐ傍らにまで近づくとその場に佇んだ。
  青灰色の双眸と翡翠の双眸が絡み合う。
  先に視線を逸らしたのは、翡翠の瞳の方だった。
  男は長い銀髪を軽く後ろに払い、優雅に微笑すると、ゆっくり口を開いた。
「戦いに敗れた神なぞ放っておいて、私の元へ来ないか?」
唇からこぼれ落ちたのは、スコールには予想のついている言葉だった。すでに一度この男と出会い、その時にもこうして勧誘されていたのだ。あの時から自分の意思は髪の毛一筋もぶれていない。だからスコールは黙然と相手のしたいようにさせた。
  しかしスコール以外の二人にとって男の存在感はたまったものでなく、警戒心も露わに男を威嚇し続けている。
  スコールが何の反応も返さないことに気を悪くした風でもなく、男はさらに言葉を続けた。
「お前にはそれだけの力がある」
スコール以外の存在は歯牙にもかけず、翡翠の瞳が真っ直ぐスコールのみを捉えている。
「スコール」
聞く者を魅了してしまいそうな声音が、そっと名を呼ぶ。
  一瞬、青灰色の瞳が微かに揺れた。
  それを見逃さなかった男の口が僅かに歪む。すうっと右手を差し伸べ、さらに言葉を紡いだ。
「この手をとれ」
すうっと差し出されたそれは至極絶妙なタイミングで、ついその手をとりたくなる誘惑に満ちていた。
  だがしかし、スコールはその手に視線を落としながら、
「断る」
きっぱりとした口調で言い切った。
「あんたの言い分は、俺のそれとは相容れない」
その声音はさほど大きくなかったが、それでも凛とした響きは男を躊躇させるに足る強さを持っていた。
  男の手が、スコールの視界でかすかに揺らいだ。
「俺は自分の信じた道を行く。こいつらと共にな」
右手から視線を外したスコールは、後方で緊張に包まれている同胞二人に視線を投げる。
  それにつられるように翡翠の双眸が、ようやく二人の存在を視界に収めた。
  それは何気ない一瞥だったが、その威力は凄まじく、見つめられた瞬間、二人はその場で硬直してしまった。
  二人のそんな様子に、男の口元が嘲笑に歪む。
  再び視線を男へと戻したスコールは微かに眉間にしわを寄せ、
「道を開けてくれ、セフィロス」
男の名を口にした。初めて会ったときにすでにその名は知っていたが、口にするのはこれが初めてだった。
  スコールの口から自身の名が出たことが面白かったのか、男、セフィロスはその笑みの質を微かに変え、
「良かろう」
差し伸べていた右手を下ろした。
「今回は退いてやる」
セフィロスがそう宣言した途端、空間に音もなく亀裂が走り、世界はその様相を一変させていた。果ての見えなかったはずの廻廊が、長大ではあるが、ごく普通のそれへと変貌していた。
  ようやく先が見えたことに安堵を覚えたスコールの肩から、微かに力が抜ける。
  極僅かの動きだったが、セフィロスがそれを見落とすはずもなく、再び嘲笑を浮かべ、
「だが、おぼえておくがいい」
不吉な言葉を口にする。
「次に会った時は譲らぬと」
  放たれた言葉の意味を悟ったスコールは、自分の意識が緩みかけていたことに気がつき、舌打ちしたい気分になった。幾ら殺気がないとはいえすぐ目の前には明らかに敵がいるのにと、自分の失態を悟り憤慨した。そしてその思いの籠もった視線をセフィロスへと投げつける。
  敵愾心も露わなそれに心地よい緊張を覚えたセフィロスは、満足げな笑みを浮かべたままくるり踵を返す。
「それが私たちに与えられた宿命だ」
そしてそんな捨て台詞を残すと、次の瞬間、その場から姿を消していた。
  消滅。
  それはそんな言葉が相応しい退場の仕方だったが、スコールは驚愕の色をちろとも見せず、出口と思しき扉へ視線を真っ直ぐ据えた。
「行くぞ」
そして連れの二人を最早顧みることもなく、新たに一歩踏み出した。
  スコールは歩き出す。己の信念を貫くため。
  これからどんな出来事が起ころうと、自分は揺らがず立ち向かっていくだけだ。

 スコールの胸元で、獅子を模したペンダントが揺れた。

END

 

 

 

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