ふと。
彼は、己がただ一人、暗闇の只中に佇んでいることに気がついた。
何時から此処でこうしているのか。
思い返してみても何も思い出せない。
それは見事なまでの意識の断絶。
普通であれば、それは恐怖を誘うであろう事象だったが、彼はそれをそうとは捉えなかった。
何かに呼ばれたのだ。
自分は確かに、何かに此処に呼ばれたのだ。
それは確信。
覆し難い真実。
抗い難い力によりこの地に招かれた彼は、これより果たすべき役割を与えられるだろう。
彼は、ゆっくりと両の目を閉じる。
身の内より湧きいづる声に耳を傾けるために。
彼がこの闇から抜け出して戦いに身を投ずるまでの僅かな間。
束の間の安息に身を委ねるために。
彼の胸元で。
獅子を模したペンダントが、揺れた。
END