熱を。
彼は、不意に無視できない熱量を感じた。
何時からこの場に導かれていたのか。
気がつけば、彼は馴染みのない空間に佇んでいた。
ゆっくりと、優雅な動作で周囲を見回してみるが、視界に何も写らない。
一瞬。
視力を失ったのかと疑ってみたが、直ぐに何者かの介入によって視界を奪われているのだと、彼は理解した。
薄い目蓋越し、強い光が感じられるのだ。
そちらに意識を向けると、確かに熱量が感じられる。
そして。
そこから感じとれるのは・・・。
その熱さとは裏腹な冷たい憎悪。
あらゆるものを破壊してくれようという強い意志。
彼は口元を歪める。
それは面白いと言わんばかりの、氷の冷笑。
整いすぎた面に似合いのそれは、見る者総てに戦慄を与えずにはおかないものだった。
彼はゆっくり頭を下げていく。
束の間の、怠惰な時間に身を浸すため。
それがほんの瞬き程度の間だと知りながら。
眠りの淵に意識を鎮めていくその顔を隠すように、銀糸の髪が肩から滑り落ちた。
END