〜アンジェリーク〜
ひとつ、昔の話をしてやろう。
あれは、いつのことだったか。
恐らくはマルセルよりも幾ばくか年若い頃だったように思う。
あの頃、私たち二人はある惑星上からその惑星へと直接我らの力を送らねばならぬ事態に追い込まれたことがあった。
当時元首を務めていた者がスキャンダルを理由に失脚して以来、その惑星の状態は悪化の一途を辿っていた。
政治不安に基づく治安維持の低下、経済状況の悪化。
そんなことをきっかけにして惑星全土に疑心暗鬼の風潮が高まっていき、民の心は一気に負の方向へと傾きだしていたのだ。
本来ならば、このような時に守護聖自らが惑星を訪れるなどあってはならないことなのだが、いくらこの地より惑星へと我らの力を注いでみてもそれがうまく作用することはなかった。
それが何故なのか。
加速度的に破滅への道を辿りゆく惑星を前にその原因を究明するだけの時間はすでに残されておらず、私たちは一刻でも早く対処しなければならなかった。
故に、私たちは惑星へと赴いたのだ。
守護聖の任に就いてからすでに長い時が経っていたが、私たちが年若いことに変わりはなく、その私たちの補佐も兼ねて当時の地と水の守護聖もともに惑星へと降り立った。
その時、私たちは不運にも改革派を名乗る過激派集団と鉢合わせてしまった。
詳しいことは話さぬが、この時あれは私たちの身を守るために剣をその手に取ったのだ。
師について剣を習いだしてからすでに数年が過ぎようとしていたが、当時は未だ未熟な腕しか持ち合わせていなかった。
それ故、あの時のあれに手加減などできようはずもなかった。
この一件以来しばらくの間、あれは食事すら満足に喉も通らぬ有様だった。
そしてそれからどれくらい経った頃だったか。
死に物狂いで師に剣の手ほどきを受けるあれの姿があった。
あの時、私たちを守るといったあれの顔を、私は忘れないだろう。
END