〜 アンジェリーク 〜
また一つ、星が滅んだ。
他の星々を侵略することに地道をあげ、再三にわたる女王陛下の勧告に一度として耳を貸さなかった星。
そんな愚かな星が滅びの道を辿っていった。
いや、滅びの道を辿らされたという方が正確であろう。
星を滅びへと誘ったのは、他でもないこの私、光の守護聖ジュリアス。
守護聖の首座として、他の星への侵略を止めぬあの星を断罪すべく、決断した。
その私のたった一言で、あの星は滅びる運命を選びとらされたのだ。
一体幾度このような命を口にしてきたのだろう。
そのようなこと、すでに覚えておらぬ。
一体幾度このような命を口にすればよいのだろう。
そのようなこと、わかろうはずもない。
最も年若き緑の守護聖は、己の与えた緑のサクリアをその手に戻すとき、躊躇い恐れた。星に生きる数多の植物たちを枯らしてしまうのは可哀想だと言って。
次いで年若き鋼の守護聖は、己の送った鋼のサクリアをその手に戻すとき、淡々と呟いた。機械文明が最後に破壊への道を辿るのならば何のために自分の力はあるのだと。
恐らく他の者たちもそれぞれ似たようなことを思っていたに違いなかった。
私が最終決定を下した瞬間の彼らの視線が忘れられない。
・・・・・・・・・・・・。
それでも私は己の下した判断を間違っていたとは思わない。
否、思ってはならぬのだ。
守護聖の束ねである首座たる私が、感傷的なことを思ってはならぬのだ。
私が少しでも己の心のうちに宿るさざ波を明かそうものなら、それは大きな波となって他の者へと伝搬する。
ゆえに、たとえ私が惑い不安を感じていたとしても、決してそれを他に示してはならぬのだ。
たとえそれがどれほどの苦しみであろうとも。
たとえそれがどれほどの哀しみであろうとも。
それを伝えてはならぬのだ。
首座を預かる身として、私は常に毅然とあらねばならぬのだ。
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それでも。
それでも、時折、誰かに何もかもを話してしまいたくなる時が・・・ある。
全てをさらけだしても一向に構わぬ、そんな誰かを求めてしまう時が・・・ある。
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結局、どれほどの歳月が流れようが私は私でしかないのだ。
守護聖として人にはあるまじき力を有していようが、私は人でしかない。
そう、人でしかないのだ。
己の心を押し隠す術を得ていても、決して人としての心を手放した訳ではない。
そして心を持っているがために私はいつも己の心と対峙していかなくてはならぬ。
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どうやら、夜が明ける刻限のようだ。
また、光の守護聖として己の心と向き合わなくてはならない刻限が訪れる。
もう間もなく、私は己の心を隠すために冷徹な仮面を被らなければならぬ。
ああ、曙光が・・・この地に満ちていく。
END