早鞆(はやとも)の瀬戸 渦巻きて
川の如くに 流れゆく
まだ現れずや 好敵手
待つ事久し 春の浜
二天の技は 強けれど
我に飛燕の 秘剣あり
潮も止まれり 舟の中
黙々櫂を 削りゆく
無念無想に 目を閉じて
我が鍛錬を 試す時
もはや迷える 心なし
もとより帰る 所なし
舳先(へさき)を蹴りて 砂に立つ
間合いを詰めて 進みゆく
三尺余りの 長剣は
八双構えに 天を刺す
櫂を削りし 木刀は
正眼(せいがん)眉間に 定まりし
気合一閃 宙を舞い
無言のうちに 帰りゆく
勝つも負けるも なにごとぞ
死ぬも生きるも なにごとぞ
落日海を 赤く染め
島を見下ろす 手向山(たむけやま)
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