京  愁 


                   あてないあなたの姿を追いかけて
                   ひとりで来ました秋の京都
                   あなたはこの街が好きだから
                   私も好きになりたくて
                   ひとの流れに心揺らめいて
                   歩けば鴨川のほとり
                   そして矢を引く三十三間堂(さんげんどう)
                   賑わう坂を上れば
                   見上げる清水の舞台
                   燃える心が踊る舞台
                   ひとり死ぬ気がなければ 上れぬ舞台
                   見下ろせば 紅くせりあがる谷に
                   吸い込まれてしまいそう
                   明日は嵯峨野を歩いてみようと思います
                     

                   渡月橋わたる風が頬なでて
                   衣擦れの音 天龍寺
                   笹の葉踏みしめて行き交えば
                   野々宮神社に願掛けて
                   京の言葉に心和ませて
                   歩く嵯峨野路は深く
                   心も身体も立ち塞ぐ
                   古びた苔むす石段
                   あなたが好きだと言っていた
                   やっと来ましたこのお寺
                   あなたに会う気がなければ 来るはずもない
                   見上げれば 血に染まるような夕焼けに
                   吸い込まれてしまいそう
                   このまま心を託していこうと思います


                   この世の無常 人のはかなさを
                   映し出す 化(あだし)野念仏寺
                   数え切れぬほどの石仏に
                   一つ一つ想いを入れて
                   お願い 私の願いを叶えてと
                   ろうそくに火を灯します
                   私の苦しみを受け容れて
                   くれそうな母に似た眼差し
                   広沢の池 大覚寺
                   想い出残す 直指庵
                   いつか必ずあなたに 会えると信じます
                   振り向けば 闇に融け込む山の端(は)に
                   吸い込まれてしまいそう
                   私の心の奥を過ぎる風のように

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