創生の月、薔薇色の卵。
眠りながら感じている、貴方の気配。




静かな夜、月は中天にかかり、柔らかな光を落としている。
いつからか、その場所に一人の男が佇んでいた。
月光が照らし出す、白い顔に灰色の瞳。
僅かに引き下げた黒い帽子が、彼の表情を解り難くする。

「………」

唇が僅かに動き、何事かを呟く。

「………」

その小さなその呟きは、何度も繰り返される。まるで呪文のごとく。
「…………」
男は何かを待つように空を見た。
白く輝く月と、その周りに無数の砂のように散ばった星だけが、そこにあった。



もしも。
貴方は私など、いらないのだと。
心の底から、信じてしまえれば。
魂の一片まで、消し去ったのに。




やがて、囁かれた言葉は、夜風が攫って消え失せた。

ふと風が止まる。 男の元に僅かな光が生まれた。
小さな薔薇色の石が、まるで呼吸をするように瞬いている…。




……リン…ッ…

小さな音と共に、卵は孵化する。
黒い髪と、蒼い瞳を持った少女へ、と。



消えることが出来なかったのは…
きっとその声のせい。




星影は莢やかに、天に創生の月。

二人の姿は、闇に溶け、見えなくなった。







モドル