夢の中で、遠い歌声を聞いた。
目を覚まして思う。
あれは、誰が唄っていたのだろう。
昔の私? それとも…?
ふと気が付くと、
傍らにあの方の姿がなかった。
身を起こして部屋を見回す。
窓が一つ開け放たれて、
白いカーテンが揺れていた。
静かにベッドを抜け出すと、窓から外を見る。
果たして、そこに黒いシルエットがあった。
「何をご覧になっていらっしゃるのですか?」
そっと声を掛けると、その影は振り返り、
また空を仰いだ。
「御覧なさい、姫君。美しい月です」
私は、庭に足を踏み入れた。
夜咲きの花の香が優しく香った。
「本当に、永い永い月日が経ったのですね…」
呟くあの方は、
何を思うのか。
手の届かぬ遠い日々の、
誰かのことを…?
私がそっとその腕に寄り添うと、
そんな私の思いを見透かしたかのように、
微笑を見せる。
「そんな時間の後に、
貴女がまたわたくしの隣にいるなんて、
不思議なことですね」
「…私は、貴方のお傍におります。
これからもずっと」
私がそう言うと、
彼の方は何も言わず微笑んで、
私の肩に触れる。
「戻りましょう。
貴女のお体が冷えてしまいます」
「…はい」
きっと、永い月日を生きて来たこの方には、
様々な人への想いがあるのだろう。
それごと愛せる自分でありたいと、
強く思った。
ヴァレンタインにD様に捧げた駄文。
こんなものばかりで、申し訳なく(泣)
モドル