人形遊び 砂漠の縁に、こびり付くようにして町がある。 死の砂漠を、命がけで越える男たちの溜まり場として、小さいながらもそれなりに繁栄していた。 どうしようもなく貧しいのは、この国として当然のことだが。 一番賑やかなのは、ずらりと娼館が軒を連ねる歓楽街。 その隅っこにある、薄汚れた小さな店に、”人形”と呼ばれる娼婦がいた。 男が連れて来た少女を一目見たとき、娼館の女主はやっかいな商品だなと思った。 年は12〜13。暗い青色の瞳に、長い黒髪。目を引くのは石のように白い肌。容姿は特別悪くなかったが、彼女はあまりにも空っぽで。 表情がない。感情がない。簡単に言えば魂が抜けている。 相手が馴染みのキャラバンの頭だったせいで、断ることもできず。ただ普通より安めの値を付けて引取ったが。 一体、これが売り物になるかどうかと、女主は溜息を吐いた。 夜伽は仕込まれているというので、すぐに店に出したが、案の定客が付かない。 キャラバンでは本当に”道具”として使われていたらしく、誘いを掛けたり媚を売ったりすることが出来ないのだ。 それどころか、他の娼婦たちが少しでも見目を良くして、客を取ろうとするのに対し、自分の身を飾ることに全く興味をもっていないようだった。 ”もしかしたら、元々はどこかいい家の姫君なのかもしれない…。” そんなことも思ったが、ここでは家柄なんぞなんの役にも立たない。 ただ、時々数奇な客が、”人形遊び”と称して彼女を連れて行くだけだ。 どんなことをされても、嫌がりもせず、また抵抗することもないらしい。 そんな町も、盗賊たちの焼き討ちに合い、住人は殆ど殺され、また浚われたが。 ”人形”は無事生き延びて、違う町の違う娼館にいるそうだ。 彼女の噂はやがて消えて、誰ももう、人形のことを覚えていない。 |