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〜Petit Story act1 彼が目覚めた時、自分の隣で、大好きな恋人の腕に頬をクリクリ摺り寄せて眠っていた筈の少女の姿はなかった。 白いシーツを、半ばまで捲り上げてみる。 人一人隠すには物足りない膨らみはあっさりと消えてしまった。 寝台から起きて、部屋を見回しても、どこにも彼女は…おはようございます、というはにかんだ笑みも、光を当てないと黒っぽく見える瞳も、白い華奢な体も…何も見当たらなくて。 ふ…と軽く眉を顰める。 かの少女には、時々自分を消してしまう癖がある。 身支度を整えながら、彼は軽い吐息を零した。 部屋の主が居なくなって、暫く時間が過ぎ。 もぞもぞ。 もぞもぞ。 と、シーツの蟠りが蠢いた。 もぞもぞ。 小さな小さな塊がゆっくりと蠢きながら移動していく。 ぱふ。 半ばまで捲り上げられたシーツの端に達すると、ぴこん、と黒い耳が覗いた。 続いて、指の先ほどしかない、ふわふわの手。 最後に、零れそうな程大きな目を持った小動物の顔が飛び出す。 それは、両手のひらに収まるサイズの子猫だった。 全身真っ黒な毛に覆われていて、いかにも柔らかそうだ。 どうしてこんなことになったんだろう?と言いたげなきょとんとした目で辺りを眺め、 小さく「……み」と啼いた。 誰かを探すように。 「みゅ?」 ……誰もいない。 子猫はもぞもぞと動いて、完全にシーツから出た。 小さな体と長いしっぽが、くるん、と付いてきた。 to be continued? |