「……それで、その女の子はどうなったの?」

ふわふわした黒髪を、薔薇色の頬に纏わり付かせた幼い少女は、膝の上から母親を見上げる。
「ええ、彼女は幻のように消えてしまったんですよ」
母親は、にこにこしながら言う。
いくら、退屈だからと強請られたとはいえ、とても幼子に聞かせるものとは思えない話を、彼女は楽しげにしていた。

「ふ〜ん……」

少女は足をバタバタさせるのも忘れたように、呟いた。
「その物語の続きはないの? お母さま」
そうですねぇ、と母親は微笑む。
「物語の続きは無いんですけどね。結局、その恋人に呼び戻して貰って、ハッピーエンドなんです」
「……そうなの?」
「そうなんですよ」
ね、お話にならないでしょう?と笑う母親に、幼子は首を傾げた。
「私はその方がずっといいわ」
でも、と少女は続ける。
「その魔法は嘘だったんでしょう? どうして戻って来られたの?」
「さぁ……」
母親は優しく微笑む。
「嘘と真実は曖昧なもの。真実も偽りになるし、また、時に嘘は何よりも本当なのかもしれません」
「う〜ん……??」

クスクス笑っていた母親が、ふと空に目をやる。あら、お父さまがお帰りになったみたいね、 と少女はぽん、と膝から飛び降りた。

「転ばないように気を付けて……リドル」

鞠のように駆けて行く後姿を見ながら、母親もゆっくりと揺り椅子から立ち上がり、扉の方へ歩み寄った。







薔薇色の卵の中で、女性は眠りに落ち。
遠い再会の日を待つ。

しかし、それはまた別の物語。















†あとがき†