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―You Go Your Way― ふと、振り返る街角。 見慣れた後姿が、人ごみに消えて行く。 「!……待ってくだしゃい!」 追い駆けても、すでにその姿はなくて。 「…どうかしました? お兄様」 買い物袋を抱えたシアが、声を掛ける。 「……。なんでもありましぇん」 「ただいまでしゅ、ザキしゃん」 「帰りました〜。ザキ」 『ムーンラビット』と看板を出した小さな仕立て屋に、朗らかな兄妹の声が響く。 どう見てもシアの方が年上だが、本当は幼い少年姿のアダムの方が兄なのだ。 ……正確には、兄の心が入った少年というべきか…。 「お帰り。荷物重くなかった?」 のんびりと針を動かしながら答えるのは、この店の店主。 「はい、お兄様が頑張って持って下さいましたから」 シアが笑顔で答える。 当のアダムといえば、なんとなく元気がないような様子。 「……?どうしたのかな? アダム君」 少年はふるふると頭を振る。 「僕は大丈夫でしゅよ。あ、おやしゃい(お野菜)だいどこ(台所)に運びましゅね」 「………?」 置いていかれることは、何回かあった。 置いていく辛さも知っている。 でも、大切な人をなくす悲しさは、何回味わっても慣れるということはないのだろう。 片付けの後、部屋に戻ると、アダムは小さな箱を取り出した。 開くと、甘い花の香りが広がる。 『Happy birthday&Merry Christmas』 書かれた文字は、懐かしい人のもの。 中から、毛糸の手袋を取り出し、手に当ててみる。 小さな紅葉の掌に、それはあまりに大きく。 そして、季節はずれな…。 「……入ってもいいですか?」 外から、控えめな女性の声がする。 「どうぞでしゅ」 扉が開くと、シアが紙包みを持って立っていた。 「……これ、お兄様に編んだのですけど。ちょっと大きいかな…なんて」 シアが差し出した袋には、優しい緑色のセーターが入っていた。 「あ、凄く季節外れですよね。もっと早くに渡したかったんですけど、私、不器用みたいで…」 アダムはそのセーターを体に当ててみる。とても柔らかかった。 「…そんなことないでしゅ。綺麗に編めていましゅよ。次の冬には僕も大きくなるでしゅ。 嬉しいでしゅ」 「…良かった…」 シアはパアッと笑顔になる。 「今度は、お揃いの手袋を作りますね!まだ指が編めないんですけど、頑張ります! それからマフラーと…」 「ありがとうございましゅ」 目を輝かせて話すシアを見つめ、アダムも笑顔になる。 そう。 貴方はそこにいる。僕はここにいる。 ただ、それだけの違い。 出会ったことが消えるわけでも、暖かな心が変わるわけでもなく。 灯火は、輝きをそのままに、沢山の人の胸に…… 「あっ、いけない。ザキが夕食が出来たから呼んでくれ、って言ってたんです」 「今夜のご飯はなんでしゅか?」 「うふふふ。特製のハンバーグですよ」 こ〜んな大きいの、とシアは微笑む。 「ハンバーグ、だいしゅきでしゅ!」 その顔に笑い返して、アダムは部屋を出る。 You Go Your Way ごめんね、傍にいられなくて。 でも、この想いが消えることはないから。 今、貴方は幸せですか? …私は、幸せです。 |