※なんだかんだで口説き落とされちゃいました。









「ん…」
 ふ、と肩を撫でる寒さにシンジは眉を寄せた。低血圧なせいで、手足が酷く冷たい。血液が滞っているかのような錯覚を覚えるその感覚は苦手だった。暖を取るために自然と毛布の中で身体を丸めると、なにやら温かなものが身体にまわる。
 なんだろう、と寝ぼけた頭のままその温もりを追いかけるように身を寄せると、冷たいなぁ、と笑いを含んだ声が聞こえた。
「起きた? シンジくん」
 あれ、と不思議に思っていても、寒さと眠さでまぶたが開かない。んー、と何かに返事をするように唸る。寝起きの悪さは自覚しているが、せっかくの休日なんだし、とシンジは開き直っている。
「寝ぼけてるね」
 くすくすと笑われてムッとするが、その通りなのでしょうがない。温かなものにすり寄って、もぞもぞと落ち着く場所を見つける。ほっと力を抜いてまた惰眠を貪ろうとするが、それを邪魔するように、背中に回った腕が引き寄せるようにシンジを抱きしめた。ぎゅうぎゅうとぬいぐるみを抱くように抱きしめられる。正直苦しいかったけれど、そのぶん温かいので我慢する。
「起きなくていいの? 今日は天気がいいから溜まった洗濯物片付けるって言ってたくせに」
「する…けど、もうちょっと……寝させて」
 もごもごと喋ると、頭を撫でられた。子ども扱いされているようで少しおもしろくなかったが、今はただ撫でられるのが心地よかった。
 そのままぬくぬくとした心地よさに身を任せていると、ふと下肢に違和感を覚えた。
「な、にしてるの」
「んー? 寒がりなシンジくんを温めてあげようと思って」
 背骨を伝って下に降りていく手のひらによからぬ意図を感じたシンジは、霞む目を何度か瞬かせて上を向いた。ぼんやりと視界が戻ると、晴れて恋人同士になった渚カヲルの美貌が目の前にある。悪戯っ子のような笑みをその美しく整った顔で浮かべられると、普段とは違って年相応の表情になってなんだか微笑ましい。いつもは他人を寄せ付けないような雰囲気もすっかりなくなってしまっている。
「今は別に寒くないから、変なことしちゃ駄目だよ」
「変なことって、どんなこと?」
 分かっていてとぼけたことを言う唇。シンジは眉を寄せて口を結ぶが、昨夜のことを思い出してひとりでに顔が熱くなる。
「ねぇ、どんなこと?」
 意地悪なことを言う口が、温もりを分けてくれる手のひらが、どうやって自分を追いつめるのかシンジはすでに知ってしまっている。いや、おもい知らされてしまった。
「シーツべたべたになっちゃったから、勝手に新しいの出しといたよ」
 思い出して何も言えなくなってしまうシンジに追い討ちをかけるような言葉がかかる。羞恥に染まる顔を面白がって、カヲルはよくこうやってシンジをからかった。いつも子ども扱いされている腹いせなのかもしれない。羞恥を覚えやすいシンジには効果的な反撃方法だったので、本当に止めてほしかったが本人に聞く気はないようだった。
「……う、うん」 
 昨夜はいつ眠りについたのかシンジは覚えていない。だから、その後の処理は全部カヲルがやってくれたんだろう。確かに汚れたシーツで寝なくてすんだのはいいが、朝っぱらから思い出させるようなことを言わないでほしい。
 それでも一応礼は言うべきかと思って、シンジはありがとう、と口にする。どういたしまして、とささやく声と同時に額にやわらかな感触が降ってきてシンジは目をつぶった。目尻、頬、鼻先、顎、そして唇にやさしく触れるカヲルの唇が、なんだか他人事みたいに恥ずかしいとシンジは思うのだった。

 もう少しごろごろ横になったら、洗濯機を回して掃除をしよう。

 触れた唇を啄ばみ返しながら、シンジは人間カイロのようなあったかい恋人に抱きしめられながらそう決心した。
 たまの休日、特に出かける予定はなくても、こうしてのんびりと過ごすのもいいものだった。













 2008,1,27