※みんなで芸能界もの。続き。 白蘭とツナ。 「うげっ」 「あ、ひどいなーその反応。傷つくなー」 綱吉が収録を終え私服のままテレビ局の廊下を歩いていると、向こうから現在顔を合わせたくない人間第一位に鉢合わせてしまう。 収録が始まる前なのか、白蘭は白い上下の衣装にじゃらじゃらした指輪をはめている。後ろには同じような格好の青年が数人いて、背中に楽器のケースを背負っていた。 「おつかれ。先帰っていいよ」 「了ー解」 お疲れさまでーす、と綱吉に軽く頭を下げて彼の仲間らしき人たちが廊下の向こうに消えていく。 そしてその場には二人だけが残される。正直気まずい。 「じゃあ、オレもこれで……」 「綱吉くんもう上がり?」 「え? いや、まあ…そうなるけど」 キリのいいところで別れるつもりだった綱吉は、とつぜん話題をふられて尻すぼみになりつつ答えてしまう。 「じゃあちょうどいいや。ごはん行こ」 何がちょうどいいのか、白蘭はそう言うとすたすたと歩いていってしまう。 (これは、ついて行かなきゃいけないのか!?) 悶々としながらその場に立っていると、立ち止まってくるりと振り返った白蘭がおいでおいでと手招きをする。 帰って買ったままになっていた音ゲーやりたかったんだけどな、とがっくり肩を落とし、綱吉はとぼとぼと着いて行った。 「着替えるから待っててくれる? てきとーに座ってていいから」 「はあ。じゃあ、お邪魔します」 楽屋に通され、とりあえず出口近くに座る。なんとなく、正座で。 綱吉の目の前でぽいぽいと着替えていく白蘭から目をそらして、うろうろと周りを見る。 なんてことはない、普通の楽屋部屋だ。ただ部屋のそこら中に白い花が飾られてあるので、花の香りが漂っている。差し入れにしては、同じ白い花ばかりだ。 それとテーブルの上に袋ごと山になっているマシュマロが目を引く。 (マシュマロ、好きなのかな) それにしてもありすぎじゃないだろうか。一日で食べきれる量じゃない。 口を閉ざしつつも思っていることを眼差しに映してきょろきょろと辺りをうかがう綱吉。その姿を見て白蘭が吹き出した。 「綱吉くんってさぁ、モテるでしょ」 いきなり話題をふられ、綱吉は困惑しながら首を振った。 「いや、あんまり…」 「オトコに」 「男にっ!?」 ここは褒められて嬉しがるどころかバカにしてんのか!と怒る場面なのだろうが、一応この世界では彼の方が立場が上なので我慢する。 しかしたとえ綱吉の方が立場が上だとしても、そう親しくもない相手にそんなことは言わない。 アクの強い人間に囲まれていても、綱吉は根っから海に囲まれた島国の人間だし、何より気が弱い性格でもあるので自分とは違うタイプの人間にあまり強く出られない。 この青年、怒ったところで人の話を聞くような相手でもなさそうだったが。 会った当初からこの白蘭という男、よくわからない。にこにこ笑っていても腹の底が知れないのでどちらかというとあまりお近づきになりたくないタイプだ。 これなら竹を割ったような性格の、いつも怒るか笑うか馬鹿にするかしかしないスクアーロの方がマシだ。わかりやすいから。 「ごはん食べるなら、他にもだれか誘わない?」 こんな相手と今から夕飯を一緒に、しかも二人で食べることになるのはぶっちゃけ遠慮したいというのが綱吉の本心だ。 「もしかして誘っちゃ迷惑だったかな?」 「うぅ、いや、そんなことはないんだけどね! もちろん!」 綱吉が嫌がっているのを見透かすかのような発言に、たとえ本心はそうであってもきっぱり頷けるわけがない。 「そう?」 「そうだよ。はははは……ハァ」 結局そのままずるずると二人で外に出る。 まさか未成年を連れて飲み屋に行くわけにも行かないので、普段みんなと食べに行く店にしようかと綱吉は考えていたのだが、局の前で人待ちをしているタクシーに乗り込んだ白蘭は綱吉より先に目的地を言ってしまった。 「どこ行くの?」 不安に思って聞いてみても。 「ナイショ。着いてからのお楽しみ」 「そ、そうなんだ」 このように教えてもらえないのでいよいよ肩身が狭い思いだ。 (うわー、帰りてー!) 行き先は不明、おまけに相手のこともよくわからない上、第一印象からして最悪である。 「嫌いなものってある? 食べられないものとか」 白蘭は窓に片肘をついて、横に座った綱吉を伺った。 「昔はあったけど、今はわりと何でも食べられるよ」 好き嫌いが多かった綱吉に対して、母親が嫌いなものを工夫して食べさせるよう努力したおかげである。 それに好き嫌いが多いと栄養が偏るので、なるべく嫌でも食べるようにしている。 他の現場に行くと何種類のサプリメントを持っていることで競い合ったり、新しいものが出るたび買って試している人が多いのだが。 おなかいっぱいの後にわざわざマズいサプリメントを飲むのは嫌だし、単純に管理がめんどくさいので綱吉はそういったものを飲まない。白蘭は感心したように綱吉を見た。 「へー、すごいね。僕はアレが嫌い」 「アレ、って?」 「ピーマンとか、にんじんとか。あ、あとセロリもイヤだなー」 「それって……」 (まんま幼児が嫌いな食いものじゃん!) 「ドルチェなら何皿でもイケるんだけどな。マシマロとかチョコケーキとか」 「チョコはたしかにうまいけどさぁ……」 チョコレートは綱吉も好物なので、あえて否定はしない。 「今から行くとこ、チョコケーキがすっごくオイシイんだよ。フォンダンショコラって知ってる?」 「ああ! 知ってる! ケーキ割ったら溶けたチョコが中から出てくるやつだよね。……あれはウマイよなあ」 同じくチョコレート好きらしい演者の六道骸に休日に連れてってもらって食べたケーキを思い出す。 なんでも舌にうるさい彼でも満足いくお気に入りらしいのでいったいどんなものかと思ったら、彼の妹がパティシエらしく、わざわざ熱々を作ってもらったのだった。それからは妹さんにもよく招かれて、六道骸とは一緒にデザート屋を巡るような仲になってしまった。 「おいしいよねー」 「うんうん」 あの時のおいしさを思い出して自然に顔がゆるむ綱吉を見て白蘭がにこにこする。他にも色々おいしいものがあるらしく、説明してくれる白蘭の話にすっかり聞き入っていくうちに最初の憂鬱もどこかへ行ってしまった。 綱吉は細身の外見に限らず食べることが好きなので、すっかり今から行くお店が楽しみになってきた。 白蘭もヘンはヘンだが、話してみると意外としゃべりやすいので他のことでもわりと楽しく話すことが出来た。 (なんだ、てっきりもっと取っ付きづらいのかと思ったけど、そうでもないじゃん) ほっとして会話を進めていくうちに目的地の場所に着いたらしく、車が止まる。 「オレが出すよ」 「そう? じゃあお願いしようかな」 さすがに年下に出させるわけにはいかないので、綱吉が会計をする。白蘭はあっさりと了承してくれたので面目を保たれた綱吉はなんだ、けっこういいヤツじゃないかと最初の評価もあっさり覆った。単純である。 あんなに気乗りがしなかったのに、今では飯を食べるくらいいっか! と思うくらいになってしまった。 タクシーを降りると、そこはホテルの玄関だった。 「ここ? ホテルだけど……」 「そう、この上にレストランが入ってるんだ」 「へえー、ずいぶんシャレた場所に食べに来るんだね」 慣れているのだろう、さっさと中に入る白蘭の後をあわてて追う。 高級ホテルらしく、室内の展示物は素人の綱吉から見ても高そうな物ばかりで、客もなんだか普通に街を歩いているような感じの人種じゃない。 高そうなスーツを着た男性や美しい装いの女性ばかりなので、こんな格好で入っても大丈夫なのかと綱吉は簡単な服装の自分の私服に心配になるが、前を歩く青年は周囲などまったく気にしていない。 エレベーターに乗ると、わざわざ中にいる従業員が「何階でございますか?」と丁寧に聞いてくる。 そんなことを聞かれても綱吉にはさっぱり見当もつかなかったので、隣に立っている青年を見上げた。 「七階だよ」 「かしこまりました」 ポーン、と軽い音が鳴って七階に着く。レストランはそれはそれは高そうな雰囲気を醸し出していて、中に入る前から手持ちが不安になる。 案内されたのは景色の見える個室だった。男二人なのに、ちょっとおかしくないかと思いつつ綱吉は雰囲気に呑まれてしまって言葉が出ない。 席に通されて運ばれてきたメニューを開いた瞬間嫌な予感が的中する。値段が書いていない。やっぱり高いのかと内心青くなりつつ、綱吉は長い呪文のような名前から料理を推測してみる。が、正直さっぱりわからない。 (なんでもっと簡単な名前にしないんだ! こんなんじゃなに頼めばいいのかわかんないじゃないか!!) 「どうかした?」 「あー…えー…と、その……ね!」 んー? と首をかしげる白蘭をちょいちょいと手招きして耳元でこそこそとメニュー読めないんだけどどうしようと打ち明けると、じゃあ適当に頼むよ、と言ってボーイを呼んですらすらと注文し始める。 「飲み物はどうする? ワインにする? シャンパンがいいかな」 「えっと、ワインで」 シャンパンやワインはあまり飲み慣れないが、こういうところに生ビールを求めてもなんか違う気がする、と綱吉はワインを頼んだ。 注文を終えたらしく、メニューを下げられる。その後はナイフやらフォークやらグラスなんかが運ばれてきていちいち落ち着かない。 そわそわする綱吉と比べ、白蘭は染み一つない真っ白なクロスが敷かれたテーブルに両肘を着いて組んだ両手に顎を乗せた。 「いつもはどんなとこに食べに行くのかな、綱吉くんは」 「どこって言われてもなぁ。みんなと食べに行くなら焼肉とかが多い、かな。飲める人とだったら居酒屋とか、やきとり屋とか。間違ってもこういうとこには来ないな」 堅苦しい店の空気だけで萎縮してしまい、せっかくのおいしそうな料理も緊張して喉を通らない。 初めて彼女をこういう場所に連れてきたとき、あまりこういうとこにごはん食べに来たくないな、と思ったのだった。値段の方も目ん玉が飛び出るくらい高かったので、野郎連れとなったらますます来ない。 淡い虹彩の瞳にジィっと見つめられるのも居心地が悪いので、綱吉は今度は自分から話を振ってみた。 「白蘭くんはそのー、こういうとこにはよく来るの?」 「うん。ここは部屋から近いし、味もそんなに悪くないしね」 「部屋?」 家が近いってことだろうかと綱吉が疑問に思うと、白蘭は片方の人差し指を上に立ててみせた。 「上に部屋持ってるの。スタジオも近いし便利だよ」 「え、ホテルに住んでるの? 部屋代とか高くない?」 アパートやマンションを借りずに毎日ホテルに泊まっているのだろうか。一日一万だとして毎日借りたら…軽く三十万くらいかかる。 それなら他にもっといい部屋なんていくらでもありそうなのだが。綱吉は実家からタクシーや車を運転して職場に通っているので一人暮らしの事はあまり詳しくない。それでもホテルを利用するなんてせいぜい一泊や二泊くらいだと思っているので毎日利用するとなるとお金が勿体ないんじゃないかと思う。 「んーん。一番上の部屋買っちゃったから部屋代とかかかんないんだ」 「買ったあ!? え? ホテルなのにそんなことできんの?」 「ホテルだけじゃなくてもデパートの上とかに部屋持ったりすることもできるよ。地下でたくさんお菓子買ってそのまま上に行ったり、とっても便利なんだ」 都内でマンションの一室を買うのでさえかなりお金がかかるのに、こういう特殊な場合、ものすごく高いんじゃないだろうか。 こんな高そうなお店で普段からごはん食べたり、ホテルの部屋を買ったりなんて綱吉には想像もつかない。 自分より相当稼いでいるというのもあるかもしれないが、目の前でにこにこしている彼自体がお金に執着しそうにないのかもしれない。 よくよく見てみれば、私服もやけに金がかかってそうな、青山とか銀座とかその辺のブティックなんかで買ったようなおしゃれなものだし。腕にはめている時計や身に着けているアクセサリーなんかもその辺の物とは格が違うようだ。光に反射してきらっきら輝いている。 「……スゴイね」 もろもろをひっくるめてその一言だけに収める綱吉に、白蘭はそんなことないよ、と笑ってすませた。 (いや、スゴイだろ! その金銭感覚とか、なんかもういろいろ!) 見栄を張っているわけでもなく、本当になんでもないことのように言うので年上としてではなく男としてなんだか負けた気がする。 ドラマの現場に入ってからそんなことばかり続くので、綱吉のちっぽけなプライドやら威厳やらぼろぼろにされっぱなしである。 内心へこんでいると、タイミングよく料理やワインが運ばれてくる。 スーツに黒い蝶ネクタイを結んだソムリエがワインのことをぺらぺらとくわしく教えてくれるのだが、正直綱吉としては「???」な状態である。 コルクを抜いて香りを嗅がせてもらう。それがいいものなのか微妙なのか判断はつかないが、綱吉はなんとなく頷いておく。 「僕にも貸して」 白蘭がふんふんとコルクを嗅いでいる綱吉の手を掴んで、そのまま自分の方に引き寄せる。嗅いで微妙な反応をする。首を傾げた。 「うーん、なんか違うなァ。もっといいやつないのかな?」 白蘭は傍に立っていたソムリエにコルクを返して言った。 「かしこまりました。でしたらこちらの赤はいかがでしょう。口当たりもひじょうにまろやかで甘みが強く、軽くて飲みやすいので食前酒にはおすすめかと」 「うん、いいね。どう、綱吉くん?」 コルクを嗅いでうなずく白蘭は未成年のくせに、綱吉よりよほど堂々としていてサマになっている。 形だけ香りを嗅ぎ、いいんじゃないかなと応えるものの、内心はどっちでもいいと思っているので綱吉は愛想笑いで返す。 「じゃあ乾杯!」 「…乾杯」 グラスをキン、と鳴らして赤黒いワインを口に含む。どうして白蘭まで飲むことになっているのか、でもソムリエも何も言わないし……綱吉はためらいつつもワインを飲み込んだ。 「あ……うまい」 確かに渋みやエグみもなく、甘くていい香りが舌と鼻を刺激する。ジュースを飲んでいるような感じだ。 だからと言ってごくごく飲みすぎて後になってからヒドイことになりたくないので、あくまでものんびりと楽しむ。 前菜に出てきたパパイヤに生ハムを乗っけた料理もふしぎなほどにマッチしていてとってもおいしい。 綱吉はすっかり満足して白蘭との会話を楽しんだ。聞けば色々話に引き出しを持っているらしく、綱吉がへー! なるほど! なんて感心したり興味のあるような話もしてくれるので退屈しない。 移ろいやすい業界に長いこと今の地位を保っているだけあって、聞いたこともないスキャンダルや黒い噂なんかも次々と話してくれる。 あのプロデューサーは未成年のアイドルにも手を出したから今年中にいなくなるよ、とか、歌手のナントカってEDだから彼女と長続きしないんだってー、なんてにこにこ楽しそうに話すのだ。 その間も手ずからワインを注いでくれたりするので綱吉もありがとうと礼を言ってまた飲みながら話をしたり聞いたり。 アルコールがいい具合に思考を軽くしているためか、綱吉はいちいち大げさにツッコンでみたりうんうん頷いたりする。 最後のデザートが運ばれてきた時にはすでにふにゃふにゃと思考が溶けかかっているところで、おいしそうなチョコケーキに瑞々しいフルーツが添えられたものが運ばれてくる。 「はい、綱吉くん」 あーん、と言いながらチョコケーキを乗せたフォークを差し出す白蘭に、綱吉はすんなりと口をあけてもぐもぐとケーキを食べた。 とろけたチョコレートとしっとりとしたケーキがおいしい。酔った思考でもそう思うのだから、素面で食べたら相当おいしいに違いない。 「んー……はい」 綱吉はお返しに自分の皿から同じようにケーキを取って、白蘭に差し出した。もちろんフォークに刺して。 「おいしいねー」 「おいしいなー」 至福の時間というのはこういうことを言うのだろう。相手が自分より小さくてかわいい女の子だったらそれこそ天国にいるような感じだろうが、このさい贅沢は言わない。 デザートを食べ終え、ナプキンで綺麗に口元を拭いて白蘭が立ち上がった。それに習って、綱吉も立ち上がる。 「あれ…?」 立ち上がった途端くらりとして、とっさにテーブルに手をつく。ふらふらとした思考の中、いつもよりあんまり飲んでないのにおかしいなぁ、と考えていると腰に腕が回る。 「だいじょうぶ? 飲みすぎちゃったのかな」 「いや、そんなことは……」 ないとも言い切れない。首を傾げて見下ろす相手に大丈夫だと腕を叩く。が、離れない。 「そのままじゃ帰れないでしょ。部屋においでよ」 返事も聞かずに上機嫌で歩き始める白蘭に腰を支えられ、綱吉はひっぱられながら歩いていく。 ぐるぐるとした視界には赤い絨毯が敷かれた廊下にきらきらと輝く照明で。 先程とは違うエレベーターに乗り込んだ綱吉は、一つしかないボタンを押す白蘭の手元をつられるようにして眺めた。 (なんか……フワフワする) ポーン、と軽い音を響かせてエレベーターの扉が開く。扉が開いたすぐ先にまた扉があって、白蘭はその扉の鍵前にカードを差し込んだ。 「どうぞ」 ひとりでに左右に扉が開き、白蘭はそのまま部屋に綱吉を招いた。 そのまま何かに座らされ、綱吉はウーンと唸りながら後ろに倒れた。ひどく喉がかわく。ぼんやりと瞬きをしていると、上から笑みを浮かべた白蘭が綱吉の頬に触れた。 「なにか飲む?」 「水……」 「オッケー」 うきうきした様子でその場を離れる白蘭から視線を外して室内を見回す。 壁のないリビングは綱吉の部屋が四つほどすっぽりと入るより広く、窓はガラス張りで、点々とした明かりがついている夜のビル郡が見える。 (いいとこ、住んでる……な) 壁には額に入れられた絵や、艶々とした花瓶に生けられた楽屋でも見た白い花が飾ってあった。 「お待たせ。はい、飲める?」 綱吉が横になったまま辺りを窺っていると、グラスに水を入れた白蘭が戻ってくる。 礼をいい、手をついてのろのろと起き上がる。グラスを受け取って中のものを飲み干すと、ジッと見られていることに気づいた。 「? なに?」 「んー? 思ったとおりだなァって」 「は?」 一体なにが、と疑問を浮かべた瞬間視界がぐるんと回る。 「のわー!?」 倒れた先がやわらかいとは言え、後頭部を打った綱吉は目を閉じてうんうん唸る。 何すんだこんにゃろー! と睨もうと目を開いた瞬間おもいがけず近くにあった顔に驚愕する。 「ち、近いぞ…!」 あわあわとする綱吉を見下ろして、白蘭はクスクスと笑う。その笑み、が、なんだか今までの物とは質が違って綱吉は息をのんだ。 「ダメだよ綱吉くん、あんまり無防備であの中にいちゃ」 「あの中?」 「収録現場。最初見たとき飢えたオオカミの中になにも知らずに羊がいるんだもん、驚いちゃったよ」 よくみんな我慢できたねー、スゴイけど僕にはマネできないなー、と笑う。 見下ろされるまま綱吉は、なに言ってんだコイツと眉を寄せて見上げる。胸元を手のひらで押さえつけられているので起き上がれない。 「ふざけてないでどけよ、おもい!」 小柄な綱吉に比べ白蘭は上背もあるし、細いと思っていた体格などもこうしてみると綱吉よりよほどしっかりしている。 成長期を終わりにむかえるのだろう、だんだんと少年や青年の身体から大人の身体になっていくところだった。 「ゴメンね。せっかく作ったチャンス潰すほど僕って馬鹿じゃないんだ」 一体何のことだと綱吉が訝しんでいると、服の上から下肢を握られ愕然とした。 まさか。白蘭の意図するものに気づいてざあっと血の気が下がる。綱吉の顔が引きつった。 「じょ、冗談キツイよ!」 ベルトのバックルを外しながら上機嫌に笑う白蘭に、抗いながら逃れようともがく。 「いたいッ…!」 しかし抗っていた先、直に触れた根元を強く握られ、痛みに呻く。 「大丈夫だよ。ちゃんと気持ちよくしてあげるから、さ」 ニィっ、と口角をあげて邪悪に笑う白蘭が、綱吉の目を見つめて言った。 降りてくる唇が頬に触れ、綱吉の唇に触れる。下唇を舐められた時点で、すでに手のひらは衣服の下を這い回っていた。 白蘭は本気で自分をどうこうするつもりらしいという結論に達して、綱吉の目尻からぼろりと涙が零れた。年下にいいように騙されてこんな風にのこのこと罠にはまったなんて。 (やっぱオレ……この仕事辞めよう……) 次に目を覚ましたら、潔く引退を表明するつもりだ。 暗転。 |