オレンジジュースを脇に置いて、テレビゲームに熱中する亘の背を眺める。読んでいた本もすでに一度読み終わり、二週目を回ったところで顔を上げた。
 机に置かれたデジタル時計を見上げる。本を読み始めてから、大体二時間ほど経ったところだ。

「亘」
「ん〜……?」
「暇だ」
「あー、うん。ちょっと待って」  

 先程からこれだ。亘に話しかけてもこちらを振り向くことなく生返事される。
 何が面白いのか、それは俺を放ってまでやりたいものなのか? だとしたら、物凄く面白くないわけだ。こういう時、俺もまだまだ子供だと思うのだが。実際まだ子供なのだから、自分の感情にたまには素直に従うことにする。

「わわっ!? ちょっと、美鶴っ!?」
「そのまま続けてろ。俺も勝手にする」
「な、なにしてんのぉ!? あ、ばかっ!そこはっダメだってば!」  

 後ろから抱きつき虫のように亘の背中に引っ付いて、耳の下あたりに顔を埋める。腹の辺りで両手を組み、唇でなぞるように首筋を辿ると亘の体がひくりと震える。それでもコントローラーは握ったままだ。

「なにがダメなんだ?」
「だ、っから……くすぐったいんだって!……あっ」  

 くすぐったいと言いながら、触れている亘の体は徐々に熱を帯びてくる。こうしてじゃれるようにしながら亘の体に触れると、すごく敏感だということが分かる。
 こくりと喉を鳴らす。

「それだけ?」
「んっ! あははっ、っ……」
「くすぐったいだけ?」
「美鶴っ! やめろってばぁ!」
「うそつきだな。おまえって」
「あっ!? だめっ!」  

 亘の下腹で組んでいた手をほどき、そっと下に手を這わせる。もし今自分の顔を鏡かなにかで確かめることが出来たら、きっと意地悪く笑っていることだろう。
 微かに熱を主張する存在をゆるく握って、耳に息を吹き込むようにして告げてやる。

「気持ちいいくせに」  

 止めさせようとした亘の両腕が、縋るように俺の腕を握る。コントローラーはいつの間にか床に放ってしまったらしく、テレビの画面は暗い影を落としながら軽快な音楽を鳴らしている。
 びくびくと背筋を振るわせるいとおしい体を、あやすように抱きしめる。少し苛めたらやさしくしてやろうか。それとも、このまま可愛がって、どうしようもないほど縋らせてやろうか、一瞬だけ迷う。
 テレビ画面と汗のかいたオレンジジュースをちらりと見て、腕の中の亘を見下ろす。柔らかく形のいい亘の耳朶は、すっかり赤く染まってしまっていた。耳だけじゃなく、夏の日差しでうっすらと焼けた首筋も、ほんのりと色を纏っている。
 俯いてうなじをさらす亘の表情が見たくなる。恥ずかしさに潤み、愛しいと伝えてくれる亘の瞳。
 思い出したら、亘の熱が飛び火したように体が熱くなる。すでにもう、止まることなんてできそうになかった。
 自分でも呆れるくらいに熱を孕んだ声で、亘に囁いた。

「ベッド、行こう」

 すっかりゲームから意識を逸らした亘を満足そうに見下ろして、俺は力の抜けた体にそっと微笑んだ。









end.
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 美鶴は、人や物に限らずヤキモチ焼きだといい。甘やかすのも甘えるのも好きだとなおいい。
亘が可愛すぎてどうしようもなくなってる美鶴でした(笑)

2007,7,22 Write By Mokuren