人の歴史は悲しみに綴られているね、と君は言ったけど、そうじゃない、と僕は今になって言うよ。
君が言ってることは本当だけど、大切なことを忘れてしまっているよ。
人が悲しみを知っているのは、喜びを知っているからじゃないのかな。
喜びを知っているということは、人の歴史には争いなどの悲しみや空しさだけじゃなくて、
誰かと恋をしたり、澄み渡った空の青さに目を奪われたり、花が咲いたり、空気が綺麗だって事を
人が感じてきたことも含まれてるんだ。それはとても素敵なことだって、君に教えてもらったね。
悲しいこともあったけど、嬉しいことも楽しいこともあったんだよ。
人を、一人に限定してしまうとその中には僕みたいに当てはまらない人も沢山いたと思う。
でも、人が今まで築いてきた文明や歴史すべてを悲しみだけで捉えるのは僕は違うんじゃないかと思うんだ。
カヲル君、君と出会って僕は初めてそう思えるようになったんだよ。
悲しいことはあったけど、君と過ごした時間は確かに楽しかったから。
君と過ごした数日のなかで、僕の世界は呆気ないほど変わってしまった。
それがいいことなのか、今の僕にはまだ判断できそうにないよ。
君がいないという事実が、喜びを知った僕の胸を締め付けるから。
嘘でも真でも、君が僕を好きといってくれたこと、すごく嬉しい。
いつまでもいつまでも、僕は覚えているよ。君と見たあの綺麗な夕焼けを。
自分の右手が僕を責めるたびに、目蓋に焼きついた君の微笑が浮かんでくる。
カヲル君。
僕は君にとても大切な気持ちと言葉をたくさん貰ったよ。
でも、僕は君に何ひとつ返せなかったことが辛いんだ。こんなにも誰かを思う日が来ること、君に出会うまで知らなかった。
カヲル君。
君は人じゃないと言ったけど、何よりも人間らしい心と優しさを持っていたよ。
僕にはその優しさがすごく眩しくて、そんな綺麗な心を持つ君が少しだけ羨ましかった。
ありがとう。僕はきっと、自分を赦せる日なんて来ないけど、君が好きだと言ってくれた僕だから、
僕も少しくらいは自分を好きになっていこうと思うんだ。
カヲル君・・・・・・カヲル君・・・・・・
僕も、君に会えて嬉しかったよ、幸せだった。
夕日を見るたび君を思い出し、歌を聴いては君を想うよ。
それは悲しいからじゃない。君と二人で、笑いあって、幸せだったことを覚えていたいから。
君を想って、想って、想って、乾いた瞳から涙が溢れるくらいに泣いたときは、
自分が死んでしまえば良いと思ったよ。残念ながら、今でもその気持ちが無くなる事はないんだ。
それは君がいないことが、辛くて、どうしようもないほど悲しかったからなんだ。
でも、泣いて泣いて、僕の涙が涸れたあと。現実に溺れるように気を失った夢の中で、君は笑っていた。
僕の好きな、はにかむような笑顔で。
その笑みを見たとき、鈍感な僕でも悟ってしまったよ。溢れるくらいの優しさと、愛情に僕は包まれている。
目を開けて、現実に戻ったとき。涸れていた涙が頬を伝っていた。
カヲル君。
何度言っても足りないけれど、僕を好きになってくれてありがとう。
あれから世界は大きく変わっていったけれど、僕が君を好きだと言うことは、僕にとっては残念ながら変わってないんだ。
人は学習し、失敗を重ねても改善することが出来る。
だから僕は、未来のことはあんまり心配していないんだ。
人は弱いけど、そこから立ち直ることができることを歴史が証明してくれているから。
だからきっと、大丈夫。君が隣にいなくても、僕は君を覚えているから。
ねえ、カヲル君。
本当は、すごく淋しい。会えるものなら会って、また君と話したい。
愚痴ばかり言う僕を慰めてほしい、友人として忠告して欲しい。
泣いた顔も、怒った顔も、不満に思ったことも、君の全部を見てみたかった。
僕たちは出会うのが遅すぎた。でも、人を知ることに時間は関係ないんだって教えてくれたのも君なんだ。
ありがとう、ありがとう、ごめんなさい、ごめんなさい、だいすきです。
いつかどこかで出会うことがあったなら、僕は君になにを言うか決めてるんだよ。
何億と言う生き物が暮らすこの青い地球のどこかで、虫でも、花でも、動物でもなんでもいい。
カヲル君とまた出会えるって僕は信じているんだ。僕の感は当たるからね?
そうは言っても、君ほどじゃないんだけど。
喜びという感情を教えてくれてありがとう、
悲しみの意味を教えてくれて、ほんの少しだけど、ありがとう、
言葉に表せないほどの想いを伝えてくれて、本当にありがとう。
最後まで口に出せなかったけれど、僕は君が、渚カヲルという使徒が好きでした。
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