≪フリーゲームレビュー「ざくざくアクターズ(開発版、Ver0.71d)」≫ このページ下部に、第2章まで(Ver0.82f)の追加レビューを掲載しました。 注:パソコン(Windowsのみ?)用無料RPG/作:はむすた様 ダウンロードサイトなどはまとめwiki、または作者のブログであるはむすたブログ様をご覧ください。プレイするために必要なものを一応書いておきますと、RPGツクールVXace(VXではない)のRTPとゲーム本体、そしてそれらを解凍するために必要な解凍ツールです(“解凍ツール” で検索すればすぐに見つかります)。いずれも無料でダウンロードできます。 現在公開されている、第一章(本編は7〜10時間くらいらしい)の全イベントを終了しました。ここまでプレイしてから色々と考えてみたのですが、このゲーム、本当に凄いです。なので少しでも多くの人に知ってもらいたいと、そしてこのゲームの素晴らしさに気付いてもらいたいと、フライングではありますが現時点でのレビューを書くことにしました。 大きく発展した召喚術。それによって異世界から召喚されてきたものの、ハグレと呼ばれさげすまれるようになった者たちの中に、自分たちの居場所となるハグレの王国を作ろうとした者がいました。彼女はハグレを集め、会議を開いて国を発展させ、立派な王国にすることを目指します・・・というRPGです。 はむすた様が制作した前作(といっても繋がりはない)らんだむダンジョンが素晴らしい出来で、しかも有名なため比較されることが多いと思うのですが、楽しさは同等、でも出来の良さは今作の方が上だと私は感じました。前作の特長だったイベントとストーリーの面白さは今作でも同様に抜群で、シナリオ主導のRPGであることは変わらないのですが、それでいてゲーム部分の出来が大幅に向上しているのです。 今作は特殊な戦闘システムになっており、8人パーティでそのうち4人を戦闘に参加させ、戦闘中でも自由に控えメンバーと交代することができます。そして8人全員で戦う楽しさを、というコンセプトで作られています。このゲームを実際にプレイしてみると分かるのですが、このコンセプトが見事に実現され、十分な楽しさを生み出しています。そしてこれは、丁寧なバランスに支えられていることでもあります。 弱いザコ敵は4人で十分、強いザコ敵でも8人をやりくりしながら戦えば回復は戦闘終了後で十分、ボス戦では回復の手段と時期を考えたりしながら戦う必要があるという、メリハリの利いた戦闘を楽しめるようになっています。 戦闘バランスは厳しいものの理不尽ではなく、だからこそ工夫する楽しさがあり、工夫することがそれほど難しい作りでもなく、それでも厳しいと感じればレベルを余分に上げて自分のペースで遊ぶことも可能なので、初期の印象よりもずっと遊びやすい作品だと言えます。つまりゲーム部分が持つ十分な楽しさを、多くの人が感じられる作りになっているのです。 さらに言えば、全体回復魔法は便利すぎて戦闘の楽しさを損ねることが多いものなのですが、今作では制限がかけられているため、全体回復魔法頼りという安直でパターン化された戦闘にはなりません。全てのキャラクターに得手不得手があるためパーティ編成を考える楽しみもありますが、それでいてある程度ならば装備品などで特徴を変えられるため、自由度と戦略性の高さも十分です。また前作で必須だったがゆえに楽しさを損ねていた状態異常無効装備は、今作では今のところ出ておらず、状態異常という存在や敵の状態異常攻撃が無意味なものとなるのを防いでいます。 戦闘以外の部分も素晴らしいです。8人パーティと書きましたが、実際にはもっと多くのキャラクターが仲間に加わります。そのうち8人(主人公は必須)を選んでパーティを組むのですが、このような大人数のゲームは、1人1人を最後まできちんと描くことが難しいものです。登場した時こそきちんと描かれるものの、それ以降は主役級以外は単なる戦闘員、あるいは予備員になってしまいがちです。 しかしこの作品ではイベントでちょくちょく顔を出しますし、時々開かれる会議イベントで、普段どんな活動をしているのかを発表する機会があり、存在感がなくなることはありません。 またパーティに加えていない仲間を成長させる手段も用意されているため、お気に入り以外のメンバーを無理して育てる必要もありません。 このように、多くのことに筋が通っているのは凄いことだと思います。なにしろプロが集団で開発してもできないことなのですから。私がこれまでプレイしてきた膨大な数の市販RPGの中で、1作だけ筋の通った理論で作られている作品がありましたが、ざくざくアクターズはそれ以上の理論と完成度で作られているのです。 ゲーム部分の楽しさと、必要最小限に抑えられているハードルの高さ、そして前作同様に抜群の楽しさを持つシナリオなど、ほとんどの要素が素晴らしい作品であり、悪い部分どころか平凡な部分さえも見つけることが難しいほどです。 ・・・もちろんそれが全くないわけではないのですが。例えば物理攻撃と単体攻撃が使いにくいことが多く、ほとんどが単体攻撃である物理攻撃系キャラクターの攻撃能力が低く感じることなど、一部のバランスが気になりました。あとは仲間がどんどん増えていく構成と、能力値増加アイテム(いわゆるドーピングアイテム)の相性が悪いようにも感じます。また主人公は特殊能力によりレベルアップが早いのですが、レベルの低いキャラクターは主人公とのレベル差を基準にして追加経験値を入手します。つまり登場人物全体のレベルアップを加速させているだけということになります。これはほとんど問題にならないことではありますが、筋が通らないという意味では最も大きなものでしょう。 人を選びそうな部分もありますが、作者自身によるイラストはこのゲームの雰囲気を作り出すのに一役買っていると思いますし、自分で描いているため思い通りのことができ、借りてきた素材では出せない魅力を生み出せていると思います。また主人公が子供っぽすぎる(例えば語尾が “〜でち”)というのも、今後の成長を強調するためにあえて子供っぽく描いている、あるいは主人公を支える周囲の人との兼ね合いを考えている・・・という可能性も十分にあり、現時点では第一印象で拒絶しては損なキャラクターだと思えます。実際のところ子どもが嫌いな人でない限りすぐに慣れ、逆に可愛く感じられるようになる人も少なくないと思うのですが。 ほとんど褒めてばかりのレビューですが、本当に見事な作品です。でもこのゲームの制作はまだ始まったばかり。今後どうなるかは分かりません。ですが前作らんだむダンジョンの出来を考えると、作者のシナリオライターとしての力量が飛び抜けたものであることが分かりますし、ゲームデザイナーとしても元々プロ以上のものを持っていた上に、そこからさらに進歩しているように感じます。今後を楽しみにしていいと思うのです。 そんな未来の傑作候補を開発初期から見守り、あるいはバグや誤字発見に協力するのも良い思い出になるのではないでしょうか。逆に最後まで完成してから遊びたいと思う人は、この「ざくざくアクターズ」というゲームの名前を、ぜひ覚えておいてほしいと思います。 第二章(Ver0.82f)プレイ後の追加文章 第二章が公開されましたが、それまでと変わらず素晴らしい出来です。そのためあまり書くことが無いのですが、最も目立つのは、作者の画力が大幅に上がったことでしょうか。もともと魅力的な絵ではありましたが、技術的にはまだまだでした。それが技術も向上し、人を選ばないレベルにまで到達しているように感じます。もっとも古いイラストがかなり残ってはいますけど。 それともう一つ。この作品には次元の塔というおまけダンジョンがあります。力試し用の高難度ダンジョンであり、プレイヤーによってはやり込み用ダンジョンである次元の塔。しかし私はこの存在に、作者の高度なRPG理論を感じました。 RPGとはゲームとストーリーが融合したジャンルですが、両方を同時に最高レベルにすることが困難なのではないかと思っています。というのもストーリーが素晴らしければゲーム部分をとばして先を知りたくなりますし、ゲーム部分を素晴らしくするためには、戦術を考えることに意味を持たせるための、ある程度の難易度とプレイ時間が必要になるため、ストーリーを楽しむことが困難になります。つまり傑出した部分があれば、それ以外の部分が足かせになったり、犠牲にしたりしてしまいやすいのです。もちろん完全に融合させることも不可能ではないと思いますし、この作品にもそんな風に感じる部分があるのですが。 それでも全体としては、ざくざくアクターズはストーリー中心のRPGです。そこで本編とは別に、ゲーム部分を楽しんでもらうことを目的とした、次元の塔を用意したのではないかと思えるのです。もちろんストーリーとゲーム部分を同時に最高レベルで楽しめるというわけではありませんが、交互に楽しむ、という現在の作りでも十分ではないかと思います。実際、交互に楽しむのが最も効率が良い構成になっています。 ともかく、ここまでは最高のRPGであり続けていますし、いずれ問題になるかもしれないと危惧していたとある欠点は、第三章から追加される予定のシステムで解消されると思われます。 問題が発覚する前に、新しい楽しさを生み出すシステムを追加するという、一見無関係そうな手段で無理なく解決する。全てを計算しているとすれば、作者のこの作品に対する理論と理解は半端なものではありません。今後も期待できます。
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