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≪漫画感想文「ハヤテのごとく!」≫

注:ハヤテのごとく!(小学館/週刊少年サンデー/畑健二郎著)
  17巻まで読んだ状態で書いています。

 この漫画を簡単に紹介しますと、超人的な身体能力と様々な特殊技能を持ちながらも、それを相殺してしまうほど不幸で不運な少年ハヤテが、恩人である大金持ちの少女ナギの執事となって、彼女のために無理難題を力技で解決していくというコメディです。設定こそ暗くて重い部分もありますが、登場人物はみんな明るく前向きなため、軽いコメディとして楽しく読むことができます。

 ですがこの漫画が売れているのは、別の理由も大きいと言われています。それはラブコメ要素が強いこと。そしていくつもの謎があること。さらにはコスプレや無意味なサービスカットといったイロモノ要素がテンコ盛りですし、パロディや伏字付き商標名なども多用されています。これらはこの漫画の人気と売り上げを支えてきたと同時に、多くの人から敬遠される結果をもたらしていると思われます。
 でもこの漫画、そんな一面だけで評価するのは、とてももったいない作品であると思うのです。

 この漫画、初めのころは平凡なコメディです。面白い内容ではあるものの、傑出しているとは思いませんし、失敗ではないかと思える話や描写もあります。でも読み進めていくと、不思議な心地よさを感じるようになります。漫画としてもコメディとしても急速に上達していくのが理由の1つだとは思いますが、私は何度も読み返した結果、それが登場人物の緻密な描写によって生み出されているのだと感じました。

 この漫画は、主人公ハヤテと2人のメインヒロイン、そしてその他の人物で構成されています。しかし脇役であるはずの人物も、人によっては主人公やメインヒロインと同じくらい、あるいはそれ以上に丁寧に描かれています。半端な丁寧さではありません。なにしろ人の変化や成長にかかわる描写が非常に多いにもかかわらず、無理のある部分がほとんど見当たらないのですから。そのため話が進めば進むほど登場人物がリアルに感じられるようになり、繰返し読むことで描写の意味を深く理解できるようになります。
 つまりこの漫画は、コメディとして一級品であるだけでなく、ストーリー漫画としても一級品だと言えるのです。

 脇役さえも丁寧に描かれているということ。これは単なる読者サービスだとは思いません。
 主人公をきちんと描くためには、その周囲の人物を丁寧に描く必要があり、そのためにはその周囲の人物をも丁寧に描く必要がある・・・。そんな理想論的な描き方を、意図的に実践しているのではないかと思います。そしてこの無謀とも思える描き方は、十分に実を結んでいると思っています。登場人物の変化と成長が、時間の流れとともにしっかりと描かれているため、人物や物語がとても生き生きとしているのです。この漫画は主人公たちの日常と成長を綴ったアルバム、そう表現することもできるかもしれません。
 生きた人物が織りなす、きれいごとではない生きた物語。コメディらしく何でもありな作品でありながら、根本的な部分はとても現実的な物語。
 それゆえこの作品は、すべての場面がその後のすべての場面の伏線となり、とてつもなく重厚でいて軽妙な物語を作り出している・・・というのは大げさですが、そんな凄さを感じるのです。

 私はこの “ハヤテのごとく!” とは、思春期の、つまり内面的にはまだ未熟な子供たちが、様々な悩みや苦難と正面から向き合い、成長していく過程を描く物語ではないかと思っています。
 それだけに、この物語には怖さもあります。それは生きた物語だからこそ、時には主人公たちが辛い決断をしなければならないこともあるだろうということです。そんな時には読者も、大きな苦しみや悲しみを共有することになるでしょう。それどころかこの物語の結末 〜作者の言うトゥルーエンド〜 でさえも、大団円的なものではないかもしれません。
 でもこの物語が例えどんな結末を迎えようと、それは子供たちが自分の意思で決断し、全力で生きてきた結果です。この物語が終わるとき、そこにいるのはきっと立派に成長しているであろう少年少女たち。彼らがその先の未来に向かって歩み始めるその時を見届けるまで、私は彼らを見守り続けようと思っています。


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