動揺・おまけ





「エリカ!これは一体どういう事だ!?」

シャトルは既に2人の目の前から消えてしまった。

キサカは怒りを露わにしてエリカに詰め寄った。

「どうって‥‥こういう事ですわ」

いけしゃあしゃあと言い放って、片手をドックの空いたスペースにかざす。

「カガリに黙っておく事、承知してくれたのではなかったのか?」

「まぁ、あの時は私も驚いてましたし‥‥でも考えて見てください?結局バレる事じゃないですか」

「しかし‥‥」

「何を心配しておいでなんです? 確かにあのザフトの子の事でこんな風に飛び出して行くとは意外でしたけど‥‥ カガリ様らしいじゃないですか」

自分の事を置いておいてでも人の心配をしてしまう、そんなカガリに危うさを感じつつも 好ましく思っている。

今は私達がカガリの足りない部分を補えばいい話である。



キサカはしばらく苦い顔をしたまま黙っていたが、やがて重い口を開いた。

「‥‥あの2人は、以前会った事があるそうだ」

「2人って‥‥カガリ様とあのザフトの?」

キサカは表情を変えることなく頷いた。

「──ああ、それなら知ってますよ。ストライクの捜索に行った時、 見つかったのがあの子だったって」

少し考えて思い出し、エリカはそう言った。

だがキサカからしばらく返事はなく、やがて重々しい声が返ってきた。

「それ以前に、だ」

「あら、それは‥‥」

エリカも流石に少なからず驚いた。

少し考えてみた接点は、ありえそうでありえないものばかりだった。

「それで何時、何処で?」

一応真面目な顔で尋ねたつもりだったが、キサカの目には興味津々の表情に見えたようだ。

だんだん憮然とした表情になりながら、それを隠すように顔をそむける。

「‥‥それが‥‥教えてくれんのだ‥‥“秘密だ”と言って‥‥」

エリカは吹き出しそうになるのをグッと堪えて心の中で呟いた。

『カガリ様もなかなかやるじゃない。男の子との秘密、だなんて。 しかもキサカ一佐にこんな顔させちゃってまぁ‥‥』

そして口に出した言葉は

「まぁ‥‥それはキサカ一佐も心配ですわね‥‥」

と、いかにも心配そうな声音と表情をつくったつもりだったが

「‥‥心配だと言っているわりには顔は笑っていますね」

と横目で睨まれた。

「そう心配する事はないと思いますよ。何といってもあのカガリ様ですし‥‥ そんなに心配なら、今度彼の方に訊いてみたらよろしいじゃないですか」

流石にちょっと面白がりすぎたか、と少しだけ反省して キサカを安心させるようにキサカの腕をポンとたたいた。

「そ、それはそうだが‥‥」

そんな戸惑い気味のキサカの様子を見て、エリカはまたひっそりと苦笑する。

確かに今まで訊く機会などなかっただろう。

いつまでも続く深刻な状況の合間に『カガリとの初対面は?』 などとのん気に訊けるキサカではない。

しかしこれから‥‥小休止の合間にでも少しずつ親交を深めていけば‥‥

多少シリアスな状況下でもこれくらいの事は訊けるようになるだろう。ただ──

「彼が無事プラントから戻ってこれたら、の話ですけど‥‥」



確かに無謀な行動だと思う。

自分はパトリック・ザラという人間の事を直接知らないが、

間接的に知る限りでは、息子に何か言われた位でどうこう言うことはないだろうと思う。

国のトップに立つ人間とは、そういうものではないだろうか。

しかし私もマリュー艦長の立場なら、彼が行く事を止めなかっただろう。

彼がそう考えたなら、行くべきだ。行って父と話をすればいい。

たとえ父を説得出来なかったとしても‥‥やはり、行くべきだ。彼自身のために。

ここに戻って来れない確立も極めて高いだろう。

それでも戻って来てほしい。私達の為にも、カガリ様の為にも。

彼にとっての大切なものをひとつでも手に入れて‥‥



ふと、肩に硬い感触がした。見上げるとキサカがこちらを見て微笑みを浮かべていた。

「──帰ってきてもらわなければ、困る。我々にとって彼は必要不可欠な戦力だし、 それに──カガリとの事も訊かなければな」

そう言いながら徐々に不機嫌な顔になっていくのを見て、エリカは逆に笑いがこみ上げてくる。

「そうですわね、本当に‥‥」

そう言ってにっこり微笑んでやると、キサカはますます不機嫌面になる。

「そろそろアークエンジェルに着いた頃かしらね‥‥」



多分カガリは彼を止められないだろう。でも今はそれでいい。そう思う。

人生、自分の思い通りにならない事も多くある。きっとそれはもう学んでいるだろうけど‥‥

その上で今はカガリの好きにさせてやりたい。

これから彼女にはたくさんの辛い選択肢が用意されているだろうから‥‥



「私はこれから少し休ませてもらうわね。」

自分の仕事が終わってすぐ、カガリの部屋に立ち寄ったのだった。

本当なら今頃ベッドの上でぐっすりのはずだった。

「‥‥カガリ様が戻ってきたら、あなた、大変なんじゃない?」

そう最後に小さな爆弾を投げつけ、エリカはキサカを残し、 口元を押さえながら自室へ向かっていった。












あとがき
「動揺」のおまけになってます、この話。
アスランもカガリも名前しか出てきません。
今回エリカさんがキサカに提案した事は
後日小説にするつもりです。
その時アスランはキサカに何と答えるのでしょう…
それはもう決めてあります。
03.11.24up