jab




久々にアークエンジェルの人達とメンデルにて合流した次の日、

僕とアスランはエターナルのトレーニングルームで汗を流した。



負傷していて行動を制限されているアスランは肩に負担のかからない、

僕は一通りのメニューをこなした後、アークエンジェルの食堂に行こうという事になった。

僕には馴染みの食堂だがアスランはここで食事をとった事がないと言うので、 ここまで移動してきたんだけど…

僕の目の前を進んでいたアスランが、食堂の入り口で急に立ち止まった。

そこから中へ入りもせず、驚いたように目を瞠り、どこか一点をじっと見つめていた。



「アスラン?どうしたの」

僕は肩越しにアスランの視線の先を探り、ハッとした。

そこには食事中らしいディアッカとカガリが向かい合っていた。

何故か2人とも立ち上がっていて、テーブルを挟んで顔を寄せ合っていた。

ディアッカは自分のジャケットの袖でカガリの顔を撫でつけていて…

それも謎なんだけど、こちらから見える位置にあるディアッカの顔が、

僕らには絶対見せないような凄く柔らかい優しい笑顔で…



やがてディアッカはジャケットの袖をカガリの顔から離したかと思うと、

今度は直接カガリの顔を自分の手のひらで撫でつけている。



昨日に引き続き、僕はカガリと男の子が2人っきりで、

しかも顔を寄せ合って親密にしている場面を見たわけだ。

そして昨日、カガリの相手だったのは…

ふと隣にいる友人を窺うと、 もう先程の様な驚いた顔はしていなかったが、

目を逸らす事なく2人をじっと見ている。

アスランの肩をひとつポンと叩くと、それにハッとしたように僕を見た。

「僕達も入ろう。もうお腹ペコペコだよ」

それでも食堂に入っていかないアスランの脇をすり抜け、僕が先に進むと、漸くアスランもついてきた。



どこに座るか尋ねるまでもなく、僕は食事を手にカガリとディアッカの所に進んだ。

アスランもそれに異を唱える事もなく、僕についてくる。

カガリの表情はやはりここからではよく見えないが、かなりのオーバーアクションで何やら喚いていた。

対してディアッカの方は先程とは打って変わってニヤニヤ笑い、 つまり僕達の良く知るディアッカの顔だった。

僕達が近付いているのに予め気付いていただろうに、今気付いたかのように白々しくこちらを見止めて

「よっ、お前達今から昼飯か?」

なんて声をかけてくる。

ちらりと後ろのアスランを見ると、特にどうという事はない表情でディアッカを見ていた。

だが挨拶を返すつもりはないらしい。

「うん…ディアッカ達はもう終わったの…あれ、カガリのトレイ、びしょびしょだよ!」

それなら…と2人に声をかけようと近付くと、僕はギョッとし、思わず叫んでしまった。

まだ食事が残っているというのに。まさか美味しく食べる為にこうしたとも思えない。

「ああ、それね…ちょっといろいろあって…」

カガリのトレイの事なのに、本人は黙ったままこちらを見ようともしない。

代わりにディアッカが申し訳なさそうな、でも、笑いを堪えているような微妙な表情で 答えてくれた。

というか、答えになっていないのだが。

すると突然、今まで話すどころかぴくりとも動かなかったカガリが、

びしょ濡れのトレイを持ってやはり僕らを振り返る事なく、食器返却口へと去っていこうとしたのだ。

僕は思わずカガリを引き止めようと口を開きかけたが、

それより先にディアッカがカガリの側まで寄って何やら耳打ちし始めた。

カガリはそれに小さく頷き、今度こそ僕達の前から立ち去って行った。

「さて…と」

ディアッカはそう言いながら僕達を振り返った。

「お前ら、ここで食事するのか?」

ディアッカが指差したのはびしょびしょに濡れたテーブルだった。

その有様を見て僕は思わず顔を顰めた。

「ああ…さすがにこのテーブルじゃあ、ちょっと…」

「じゃ、待ってろよ。ちょっと布巾取ってくるから」

そう言い残してディアッカは、いそいそとカガリの後を追うように行ってしまった。

僕はアスランと顔を見合わせ、とりあえず水没現場から少し離れたテーブルにトレイを置いた。

すると今まで黙っていたアスランが、急に口を開いた。

「…あんな甲斐甲斐しいディアッカ、見た事ない…イヤな予感がする…」

「そうなの?」

彼の事はまだよく知らないので思わず訊き返すと、アスランは真面目な顔で頷いた。

僕はもう一度、ディアッカに目を向けた。

そしてトレイの返却口で何やらカガリと話しこんでいるのを見てついポロッと呟いてしまった。

「あの2人、随分仲良くない?」

「…そうか?」

返された言葉が普段のアスランの声とは違う事に気付けず、僕はそのまま話を続けた。

「だって、ここで一緒に昼食とってたんでしょ?それにさっきだって顔寄せ合って…」

そこまで言って、そういやアスランも昨日似たような事してたっけ…とぼんやり考えていると、

ディアッカが布巾を持ってこちらに戻って来た。

「やー悪い悪いー!遅くなって。つい話し込んじゃって…」

ディアッカはすぐさまテーブルを拭くわけでもなく、頭をぽりぽり掻きながら苦笑を浮かべていた。

するとアスランが無言でディアッカの手から布巾を取り上げてテーブルの上を拭き始めた。

僕はほんの少しあっけに取られながら、ディアッカに尋ねた。

「ねえ、これって何で濡れてるの…?」

僕の問いかけにディアッカは不敵な笑みを浮かべてこう言ったのだ。

「俺が水、吹き出したの」

瞬間、アスランの手がピタリと止まり、細められた緑の瞳がキッとディアッカを睨みつけた。

「お前が拭け!」

そういい残すと、アスランはこの場を離れて行った。きっと手を洗いに行くのだろう…



「何だよ〜、あんなに怒る事ないじゃんか、なあ?キラ」

ディアッカはブツブツ言いながらも、アスランに言われた通り、テーブルを拭き始めた。

僕は、ははは…と渇いた笑いを零すしかなかった。

「それとも…」

テーブルを拭きながらディアッカは、僕の顔をじいっと見つめてきた。

「他になんか腹立たしい事でもあったのかなぁ〜?アイツ」

えっ…

僕は一瞬あっけにとられたが、ここも曖昧に笑うしかなかった。

それよりも…キラはアスランが不在のうちに、ディアッカに訊いてみようと口を開いた。

「ディアッカ、カガリと仲いいの?」

全く接触がないと思っていた2人なだけに、先程の光景はアスランでなくても驚いた。

とりあえずアスランが席を外している今、と思って尋ねたのだが──

ディアッカはいつのまにか手を止めて、僕をじっと見たままニヤニヤ笑いを浮かべていた。

「それはアスランが戻って来てから話すよ」

その一言にキラは驚きを隠せず、思わずえっ、と呟いてしまった。

何故ディアッカが返事を後回しにするのか分からなかった。

ただ仲がいい、とか、別に、それで済む会話なのに。

キラが二の句を告げずに呆然としていると、アスランが戻って来てしまった。

表情に剣呑な感じは見受けられなかったので、キラは内心ホッとした。

ただ、上機嫌、という顔でもないが…



ディアッカは布巾と自分のトレイを手に取った。

「じゃ、俺これ返してくるわ」

そう言ってアスランと入れ替わりにこの場を離れていく。

『アスランが戻って来てからする話』はどうなったのだろう?

その事を尋ねたかったが、結局何も問えず、僕は黙ってディアッカを見送るしかなかった。



「なあ、キラ…」

アスランの憮然とした呼びかけに、僕は我に返った。

「何?」

「別にこのテーブルで食事しなくてもいいんじゃないか?俺、何かここ、嫌なんだが…」

アスランはそう言いながら、先程までディアッカが拭いていたテーブルの辺りを見つめている。

確かにもうここにはカガリもディアッカもいないし、他に席も空いている。

綺麗に拭き取ったとはいえ、わざわざここで食事をとる事もないだろう。

キラが同意しようと口を開きかけたその時だった。

「お待たせ!」

やたらと嬉しそうににこにこしたディアッカが、片手にコップを持ってやって来た。

「さっき吹いちゃったからさ、喉渇いちゃって…お前ら今から食事だろ?さ、座れよ」

僕達の困惑をよそに、ディアッカは今まで自分が腰掛けていた椅子に座った。

僕はアスランと顔を見合わせ、仕方なくその隣に僕が、 その向かい側にアスランが腰を下ろした。



「で、キラ、さっきの質問だけど」

ディアッカは両手でコップを包み込んだまま、口に運ぶ事なく僕の方を見た。

さっきの質問って…本当にアスランが戻って来てすぐその話、するんだ…

と少し感心しつつも、不安が押し寄せてくる。

「さっきの質問って?」

アスランがディアッカにではなく、僕に問いかけてくる。

どっちを向けばいいんだ…と僕は思わず視線をめまぐるしく移動させてしまう。

そうこうしているうちに、結局アスランにはディアッカが答えた。

「ああ、さっきキラに訊かれたんだ。姫さんと仲いいのか?って」

「…姫さん?」

アスランは眉根を寄せて、訊き返している。

「そう呼ぶとアイツ、怒るんだけどさ。あ、姫さんってカガリの事ね」

それを聞くと、アスランは興味なさそうに無言のままサラダを口に運んだ。

僕はと言えば、目の前の食事に手をつける事も出来ず、

ただディアッカのニヤニヤ笑いを ボーッと見つめていたが、ハッと我に返った。

「そ、それって、ディアッカはカガリと随分親しいって事なんだね」

「まぁ、そういう事になるかな…」

ディアッカはそう言って僕に微笑みながら、視界の端でチラッとアスランを見たりしている。



──僕、ここに居たくないかも…



「お前らがここを留守にしている間、いろんな話をしたよ。キラ、お前の話も聞いたぞー?」

「え、僕の?」

カガリは一体、僕の何を話したんだろう。まさか──

僕があの事を考えて青くなっているのには目もくれず、ディアッカはアスランをまっすぐ見据えた。

「お前の事もな。アスラン」

それだけ言ってディアッカは、コップに添えていた手を離して頬杖をつき、やはりニコニコしている。

いや、ニヤニヤか…

とにかく僕はホッと胸を撫で下ろした。

ディアッカの意識が僕よりアスランに向くという事は きっと僕の事は大した話をしてないんだ、そう推測した。

対してアスランは怪訝そうにディアッカを見返している。

「どんな話か聞きたくないか〜?アスラン君」

心底楽しそうなディアッカに対して、アスランの方は無表情そのものだ。

本当にアスランは変わってない所は全然変わってないなあ…と事の成り行きを見守っていると

アスランからの返事はキラの想像した通りのものだった。

「別に」

一言ポツリと呟いて、アスランは再び食事を再開した。

ディアッカはずるっと自分の手の平に乗せていた顎をずり落としかけたが、

すぐに気を取り直したようで、今度は僕に、またニヤけた笑みを向けてきた。

「キラ君は聞きたくない?俺と姫さんが、君らの留守中どんな話をしたかさぁ〜」

ディアッカの話を聞かなくても、後で直接カガリに聞けばいいのだが、

ここで彼を拒絶し続けるのも何だか可哀相だなぁ…と思って頷こうとしたその時。

「キラ」

正面から硬い声がした。

思わず僕は首の動きを止める。

ディアッカから小さく舌打ちが漏れるのを聞いた。

しかしすぐニコニコ顔を取り戻して、今度はアスランに話しかける。

「人の“聞きたい”という欲求を妨げるのは良くないと思うよ?アスラン君」

アスランは相変わらず食事を続けながらすました顔で呟いた。

「別に妨げてなんかいない。俺はただキラを呼んだだけだ」

そんな愛想のない言葉にも、ディアッカは動じる事はなかった。

再び僕を見て、親指を立て、アスランを差した。

「キラ、アスランが用だってさ」



──勘弁してよ…何なの、この2人。



僕は仕方なくアスランを見た。

「…なに…?」

アスランは顔を上げずに口を開いた。

「食事が終わったらMSドックに行くか?ジャスティスの様子も見たいし…」

そういえばアスランはメンデルに到着してから、まだジャスティスに一度も触れていない、 とさっき言っていた。

納得して頷きかけたその時。

「ジャスティスといえばさぁ…」

白々しい口調でまた横槍が入る。当然ディアッカだった。

僕は思わず手が止まってしまったが、アスランはチラッとディアッカを睨んだ後、

また何事もなかったかのように食事を続ける。

ディアッカもそんなアスランに気付きながら、尚も話を続けた。

「お前らが留守の時、姫さんってばずっとな…」

「ジャスティスに引っ付いてたんだろ?」

僕はびっくりして声の主を見た。アスランはやはり平然と食事を続けている。

ディアッカはと言うと、一瞬あっけにとられたような顔をしていたが、

すぐ気を取り直し、 またニヤニヤ笑いを顔に貼り付かせた。

「…なーんだ。アスラン、知ってたんだ。姫さんから聞いたの?」

「いや」

「じゃ誰に聞いたの?」

ついつい口を挟んでしまった僕を、アスランはじろりと睨んで黙らせる。

「まあ、アークエンジェルの人間にでも聞いたんだろ?ここの人間なら誰でも知ってるからな、 その事は」

「ディアッカはその時カガリと親しくなったんだろ。少し考えればわかる事だ」

そう言うとアスランはコップを手に取り水を飲む。

見ればアスランのトレイはもう綺麗に平らげられていた。

…僕、まだ半分しか食べ終わってないのに…

きっと早く食べ終えて、とっととこの場を立ち去りたいのだろう。

そんな事をぼんやり考えていると、アスランと目が合った。

そして僕が思った通り、その瞳は『お前も早く食え!』と言っている。

僕は慌ててフォークを手に取り、食事を再開した。



「じゃ、わかんない事、訊いてもいい?」

ディアッカの声に僕は手が止まりそうになかったが、ハッとして手と口を動かし始めた。

そしてアスランは何も答えない。やっぱりディアッカは構わず質問を続ける。

「アスランはいつ、姫さんと親しくなったの?」

アスランは黙って水を飲んでいる。やはり答える気はないらしい。

僕がたてているカチャカチャという食器の合わさる音のみが響く。

それでもしんぼう強くディアッカは再度尋ねる。

「それとも…それは秘密です、ってコト?」

アスランはコップを静かに置いて、 席に着いてから初めてまっすぐ顔を上げディアッカを見た。

「そんな事既に“仲のいい姫さん”から聞いているんじゃないのか」

やっとまともに言葉を返したアスランに、ディアッカは今までよりもっと、 恐いくらいの微笑を浮かべる。

僕は背筋がゾクッとするのを感じて、食事のスピードを早めた。

そんな僕には目もくれず、ディアッカは大げさにため息をついた。

「それがさぁ…姫さんに『アスランと親しいな』って言ったら『そうか?普通だろ?』って、 こう言うんだぜ?これってアスランも同意見なわけ?」

アスランはほんの少しだけ身じろぎした…ような気がした。そして目を伏せ

「そうだな…」

と呟いた。

「でもぉ…丸1日くらい経ってからかなぁ…もう一度同じような質問したんだ。そしたら姫さん、 なんて言ったと思う?」

ディアッカは身を乗り出してアスランをじーっと見つめてニコニコしている。

見つめられている方はといえば、それを全く無視して僕に

「早く食べろよ」

と囁いてきた。

アスランは本当にこの場をとっとと立ち去りたいようだ。

でも…僕もこの話、聞きたいんだけど…

そんな事を考えていると、僕の気持ちを察してか、ディアッカはその先を言ってしまった。

「“好きの部類に入る”ってさ」

びっくりしてディアッカを見ると、その顔は“してやったり!”といった表情で 僕の前の席あたりを凝視している。

ということは…僕は首を動かして正面を見ると、 アスランは淡く染まった赤い顔を隠しもせず呆然としていた。

やがて僕らの好奇にみちた視線に気づいたのか、漸く口元を手で覆い、目を伏せ咳払いした。

「…そりゃ一緒に戦う仲間なんだから…嫌いなわけないだろう…」

そういい終えたアスランの顔は既にいつもの表情に戻っていたのだが…

時すでに遅し、だよ、アスラン…

僕の隣に座る青年の、何とも嬉しそうな顔…



僕はあと1口2口残っていた自分の食事を口の中に押し込み、アスランに加勢してやろうとした その時──

何だか妙に視線を感じる。

ふと周りを見ると──

いつの間にか食堂はアークエンジェルのクルーでいっぱいだった。

こんな昼食には中途半端な時間なのに、だ。

しかもその殆どは食事もせずに体ごと僕らの方に向けて、こちらの様子を窺っているように見える。

それが証拠に、僕に見つかると、その大半はあからさまにこちらに背を向け、

しかし、暫くするとまた肩越しにちらちら見てくる。

入り口に目をやると、やはりアークエンジェルのクルー数人がこっちを見ていて、

僕と目が合うとひょこっと姿を隠す。

だが、暫くするとまたこっそり覗いているのだ。



そんなに僕らは大きな声で話していただろうか?いや、そんな事はない。

僕は違和感を感じて、更に何か言おうとしているディアッカの目前に手を差し出して、発言を止めた。

「何だよ?これからが面白い──」

「ちょっと顔貸して。アスランも」

2人は怪訝そうな顔で、それでもキラの指示に従って顔を寄せてきた。

「──僕達、すっごい注目の的だよ」

2人は、僕の言葉に視線だけを動かし周りを見て確認している。

「…の、ようだな。何でだ?俺達がコーディネイターだからか?」

ディアッカは小声で素早く僕に尋ねてくる。

「…違うと思う。昔、僕はそういう理由でクルーに注目されてた事あるけど… その時とは感じが違うんだ」

「じゃ、どういう事だ?」

今度はアスランが尋ねてきた。僕は2人に先程までの体勢に戻るよう、目だけで促した。

そこで3人揃って身体をおこす。

「わからないけど…何となくなら」

そこで僕は一旦言葉を切って、二人を代わる代わる見た。

「何だか僕らの──というより、君達2人の会話に聞き耳立ててる様に感じた」

君達は気付きもしなかっただろうけど、という言葉はあえて伝えなかった。

食堂内の人間が少ないうちから、そんな感じは受けていた。気のせいだと思っていたけれど──



「ちょっと調べてみようよ。 ここに集まっているのは殆ど全員アークエンジェルのクルーみたいだから…」

そう言って僕はディアッカを見た。

「わかった。整備班からそれとなく聞いてみるわ」

僕はその言葉に頷いた。

「僕はそれ以外の所から聞いてみる」

「じゃ、今日夜、この食堂で報告し合おう」

「えっ!!」

ディアッカの提案に、僕とアスランは同時に驚きの声を上げた。

僕はただ純粋に驚いただけだけど、アスランの声には嫌そうな響きが混じっていた。

「実は今日の夕食はここで一緒に姫さんと、って約束しちまってるんだ。 だから4人で、って事になるけど」

僕はディアッカの発言に言葉を失くした。

この人、本当に手際がいいというか、根回しが凄いというか…

「じゃあその後誰かの部屋でも、何なら明日でもいい。 この食堂で俺達が集まるのは良くないと思う」

冷静なアスランの声に、僕もなるほど、と思った。

でもきっとアスランの本音は別のところにあるんだろうなぁ…と考えた。

そして本音とは無関係ではないであろうディアッカの方が一枚上手だった。

「じゃあ夕食の後、お前の部屋で集まるか?俺は別にそれでもいいぜ? 勿論夕食はゆっくり姫さんととってからになるから、遅くなるかもしれないけど… そうなると待たせる事になるから、明日にするか?」

ディアッカ…君って人は…

僕は脱力しながらも、ちらっとアスランを窺い見た。

表面上は無表情を装っているけれど、きっとテーブルの下に隠された拳は硬く握られているのだろう。

肩に力が入っているように見える。

「じゃ、じゃあ!明日でいいよ、ね?アスラン!」

「あー…それよりさぁ…」

ディアッカが僕の声を遮るように大声を上げる。

まだ何かあるの!?

流石の僕も少しイラついて、ジロッとディアッカを見てしまう。

「この後調べてみて原因が分からない、って事もありうるだろう?だったらさ… あえてこの食堂で集まってみたらどうだろう?その時に周りの様子を観察するんだ。 そしたら何か分かるかもしれないだろ?」

ディアッカの言い分は尤もだ。そして僕は悟った。

恐らく彼から逃げ切る事は出来ない。 ゴメン、アスラン。だから覚悟を決めて、ね──

「わかった。じゃあ今日の夕食は僕らも一緒に、って事だね」

「キラ!」

アスランから非難がましい目で睨まれたが、僕はそれを受け流してディアッカを見た。

「ああ、でも…アスランはそれでいいのか?」

「うん。構わないよ」

その問いには僕が返事をして、すくっと立ち上がった。

とにかくここから早く立ち去った方がいい。そして対策を練って──

「さ、アスラン。ドックに行こう。じゃあね、ディアッカ、お先に…」

僕の畳み掛けるような台詞にアスランは少しあっけに取られたように、でも慌てて立ち上がる。

だが、何故かディアッカもゆっくり立ち上がる。

「じゃあ俺もマードックのおっさんの偵察がてら、整備でもしよっかな〜」

そう言いながら自分のコップを手に取り、二、三歩進んだ後、僕達を振り返った。

「お前らもMSドックに行くんだろ?さ、早く行こうぜ」

僕はこっそりため息をつきながら、トレイを手について行こうとして──見てしまった。

アスランの肩が小刻みに震えているのを──






あとがき

めちゃくちゃお待たせしました…続きです。
タイトルは「jab」ディアッカ、あんまりアスランを責められませんでした…
最初から大ダメージ与えちゃっても面白くないでしょ?え、それは私だけ?
ディアッカ、ネタはいっぱい掴んでますから、こう、小出しにしていたぶるんですよ…ふふふ…
というか、ウチのアスラン、頑張ってるでしょ?こう、表情に出さないように…
そして私の書くキラはいつも可哀相な役回りなんですね…ごめんよ、キラ。




04.11.27up