ハウメア3



軍宿舎の自分の部屋に足を踏み入れる。

全く生活感のない、部屋。

地球から戻ってきてからは、荷物を放り込んだたけの、部屋。



プラントに戻ってきた時にそのままにしておいた荷物を、 そのまま持って部屋を出ようとした。

だがふと思い直して、ベッドの上に荷物を無造作に置き、 バッグをあけて一応中身を確認する。

やはり他に持っていかなければならない物も、 持って行かなくてよい物も、なかった。



そのままバッグを手にしようと少し屈み込んだ時、カーテンの隙間から外からの光が差し込み アスランの目元を照らした。

眩しく感じ、思わず目を細める。



バッグを持つ事をやめ、カーテンに近寄る。

少しだけ開いていた隙間を片手で捲って外を見遣る。

丁度プラントでの夕暮れの時間帯である事に初めて気付いた。

全部がオレンジ色に染まっている。

その色に心を奪われ、少し開いたままのカーテンを閉めもせずに クローゼットに向かってのろのろ歩く。



そこには軍からの支給品である自分の軍服とパイロットスーツ、わずかな私服と

あの時借りたままになっていた自分には大き目のコートがあった。

しばらくじっと見た後、そのコートを取り出した。



地球からこの部屋に戻って来て、そのままクローゼットに入れていたのだった‥‥

右側のポケットに手を差し入れ、硬い感触を探し出し、それを取り出す。

握った手の隙間から紐が輪状に垂れ下がっていた。

そっと手を開くと、西日によって赤みを増した石が輝いていた。



キラは生きている、とラクスは言った。

今思えば、父に見せられたフリーダムとラクスの映像‥‥

あの時ラクスの隣にいた赤い軍服の人物がキラだったのだろうか。

しかし、キラが生きているとしても、この石に護ってもらう資格など 今も自分にはない、と思う。



俺は今からどうするつもりなんだろう‥‥

これからジャスティスに搭乗して地球へ降りる。

ラクスの勧めに従ってキラと話をするべきなのだろうか‥‥

それとも父の命令に従ってフリーダムを奪還するべきなのだろうか‥‥

いや、どうするべきなのかは、もうわかりきっている事なのかもしれない。

しかし、自分の心のままに進んだ時に伴う苦痛がわかっているから‥‥



こんな迷いのある人間を護ることなんて、できないだろう‥‥?

そう、瞳で石に語りかける。


“迷いがあるからこそあぶなっかしいんだろう?‥‥だから、護ってやるさ”


一瞬、赤い石がオレンジ色の光を反射させた時、そう聞こえた気がした。

その声はあの泣いたり怒ったりと忙しなく表情を変える彼女の声に聞こえた。



しばらく石を見つめながら光にかざしたり、少しずつ角度を変えてみたりしたが、 勿論もう誰の声も聞こえてこなかった。



アスランは小さく息を吐き、口許に笑みを浮かべると、 石を持っていた手を紐の部分に持ち替えて、首にかけた。

石はアスランの胸元で、初めて出会った時と変わらない輝きを放っていた。

もう一度石を右手で握り込み、そっとつぶやく。



「‥‥キラに無事、会うまでは、護ってくれ‥‥」

話をするにしても、フリーダムを奪還するにしても、 キラと会わなくては話にならない。それまでは何度でも悩ませてもらうさ‥‥



握ったままの石を、襟刳りからシャツの下に忍ばせる。

コートはそのままクローゼットに戻した。

オーブに行く事になるかどうかもわからない。

また機会があればこれを返せる時もくるだろう。

その時は心からの礼を言うことができる、そんな自分であればいい、と。

そして荷物を手に持ち、扉に向かって歩き出した。












あとがき
ちょっとだけアスカガ…!?
…ちがような…
今回、アスラン護り石身につけました。
本当はここでつけさせるつもりじゃなかった…もっと引っ張るつもりだったんだけどな…
42話で初めてつける、位の気持ちだったのに…アスランが勝手につけちゃいました。
後は…この話を書く為に、アスランの部屋がどんなモンか知りたくて
部屋が出てくる回を見直しました…苦痛だった…
だって20話とか36話とか(36話は部屋出てないけど)本放送でロクに観てなかったのに…
観返しながら切なかったよ…
さて、これで小説のストックもなくなりました…頑張ります…



03.11.05 up