ハウメア2



オーブの飛行艇からこのヘリに乗り換えてどれ位時間が経ったのかもわからない。 今は一人になりたくなかった。

“基地に着くまでここで休むといい”と個室にいる事を勧められたが それを断って他の兵と一緒にいる事にした。

するとイザークにしては珍しく、俺にずっと話しかけてくる。

それはほとんど質問攻めだった。

俺は「知らない」と「覚えてない」と「さあ」の三言でそれをかわした。

答えたくとも殆どが自分に答えられない質問だった。

「ディアッカがどうなったか知らないか?」 「ストライクをどうやって撃ったんだ?」 「なぜオーブの連中があそこにいた?」など。

いろいろ訊かれるのが苦痛で、もう疲れたから‥‥と、勧められた個室にでも移動しようと 口を開きかけた時、

イザークの視線が自分の胸元にある事に気付いた。

「その首飾りの‥‥」

イザークが呟くと同時に、今の自分にしては勢いよく立ち上がり、彼に背を向ける。

「昨夜から寝てないんだ‥‥しばらく休ませてもらう」

そう早口で言い、足早にそこを立ち去った。



彼は民俗学に詳しかったはずだ。 この首飾りを見れば、どこのどんな物か解るだろうし、その事について言及されたくなかった。

目的の部屋のドアを開き、中を覗いて誰もいない事を確認してから入室してロックする。

ドアにもたれかかって深く息をはく。

ザフトの仲間に囲まれた空間にいても、自分は少しも落ち着けない。

オーブの飛行艇にいた時の方がまだマシだったかもしれない。

‥‥と言ってもあそこにいた時の事は、頭にもやがかかった様に曖昧であまり覚えていない。



ふと自分の胸元に視線を落とす。

部屋の灯りもつけないままだったが、 その石は暗い中でもその存在を誇示するかの様にアスランには輝いて見えた。

これを首にかけられた時の事は、他の飛行艇での出来事よりはよく覚えていた。



おそらくそうとう仲が良かったであろうキラを殺した自分に

「護ってもらえ」「もう誰にも死んで欲しくない」と言える彼女がわからない。

俺にはニコルを殺したキラにそんな事は言えないし、思えない。

どのみち‥‥もうキラには言いたくても言えないが‥‥

俺はキラを‥‥殺した。そしてキラを殺した自分の事も許せない。

アスランは首からかかった紐を手に取り、首から外した。

そして石の部分をあいている掌の上に乗せてじっと見つめた。

‥‥俺には、この石に護ってもらう資格などない‥‥

右手をそのまま握り込み、コートのポケットにゆっくり入れる。



この後、カーペンタリアに着いてからの事を考えた。

戻ればまた誰かがイザークのようにいろいろ訊いてくるのだろう。

今度はごまかしはきかない。そう思うと鉛をつけたように気分が重くなる。

しかしもう泣き言は言えない。

これから先、地球に留まってもプラントに戻っても、もう泣ける場所などないのだ。

一人きりになれる場所があったとしても、俺がキラを悼む資格などない。



コートのポケットの中に突っ込んだ右手をギュッと力強く握る。

右腕の微かな痛みと掌の石から受ける痛みを感じ、そして力を緩める。

ポケットから右手を出すと、ロックを解除し、部屋を出た。

自分のいるべきはずである場所に戻る為に。



あとがき
やっぱりアスカガじゃないし… このシリーズは二人が一緒に出る事はないと思うので…諦めて下さい。
この次の3は1、2よりはマシかも…アスラン、地球に行くの巻。
今回、小説四巻でイザーク、アスランにベッド勧めてましたが、 アニメ本編ではそんなシーンなかったので無視しました。
だってもう書き上げてたんだもーん。


03.11.02 up