笑顔




カガリは考えた。



オーブに戻ってから独立に向けてずっと飛び回っていた。

はっきり言って目の廻るような忙しさだ。

だが深夜、自室に戻ってカガリが考える事といえば、オーブの今後でも国民の事でもなく──

アスランとキラの事だった。



どうするかなぁ…



カガリは答えのなかなか出ない問題に、ほぼ毎日取り組んでいた。



オーブに戻って約半月。

生き残ったクサナギ・アークエンジェルの元クルーと共に フリーダムのパイロットであったキラもオーブに戻った。



そのキラとはあまり、というか殆ど顔を合わせる事はないが、

徐々に体力と気力を取り戻し、今では傍目に見ても元気でやっているように見える。

しかし、カガリには判るのだ。それは間違いなく空元気だと。



エターナルがプラントに、そしてクサナギ・アークエンジェルが地球へと向かう事が決まったあの日。

アスランとキラは決裂したのだ。

カガリの目の前で。



アスランがプラントへ戻る事は、カガリの中では完全にではないにしろ、納得済みの事だった。

そりゃ寂しくはあったが、キラとラクスの為だ、と言われて納得した。

だがキラは納得しなかった。

それも仕方のない事だった。キラには理由を話せなかったから──



人の喧嘩など、腐るほど見てきたカガリだが、この2人のそれは、なす術もなく立ち尽くすだけだった。

原因はカガリでもあったから…



そして2人は気まずいまま別れて今に至る。



キラとは時間が空いた時に連絡を取っているが、その口からはアスランのアの字も出ない。

そしてアスランの方はといえば──



直接連絡を取る術がなかった。



おそらくあちらも戦後処理で飛び回っている、という事もあるだろう。

自分自身の処遇も多少関係しているのかもしれない。

そういう時間的な問題もあるが、おそらく直接の原因は、カガリの自室に通信機器がない、からだろう。

まずは国の復興、独立が最優先される今、一個人の我侭で自室に通信を、とは言えないカガリだった。



アスランと直接連絡を取りたい、声を聞きたい、会って話したい。

そうは思うがそれよりもまず、キラとの仲をどうにかしてやりたい。

キラだって痩せ我慢しているのは見え見えなのだ。

それに──あんなに辛い思いをしてきた2人だから…笑っていて欲しいのだ。2人で。



しかし結局名案など浮かぶ筈もなく、そのままカガリはうとうとと眠ってしまうのだった。



そんな毎日を過ごすカガリだったが、今日は久々に仕事が早く片付き、

まだ陽の沈まないうちに仕事を終える事が出来た。

じっと時計を見て、これならキラに連絡を取って夕食を共にとれると判断したカガリは、

急いで帰り支度を始めていた。



「カガリ」

聞き覚えのある声がしたのでドアの方を向くと、

最近は軍本部に詰めているキサカが珍しくこちらに顔を出している。

久々の声と姿に、カガリはパアッと笑顔を向けた。

「キサカ!」

カガリは手を止め、ドアの前に立っているキサカに駆け寄った。

「久しぶりだな!どうしたんだ、今日は。こっちに用があるなら…」

「カガリ、今から時間はあるか?」

キサカは挨拶もそこそこにいきなり問いかけてくる。

それでもカガリはそう不思議に思わず、素直に答えた。

「珍しく仕事が早く終わったから、キラに連絡を取ろうと思っていたところだけど…」

「ではその前に、こちらへ」

有無を言わさない口調でキサカはカガリに背を向け、さっさと歩き出す。

反論する間もなかった。

カガリはちら、と部屋を振り返り、キサカについて部屋を出た。



「おいっ!どこ行くんだよ?」

カガリの問いかけにもキサカは何も答えず、振り向きもしない。

カガリはムッとしながらも、大人しく大男の後に続いた。



キサカが漸く歩みを止めたのは、ある部屋のドア前。

「ここは…」

この部屋にカガリは立ち入った事はなかった。でも何がある部屋かは知っている。



ずっとカガリが入りたくて、でも入れなかった部屋の扉は、簡単に開いた。

「あ、あの…」

「さ、入って」



何故軍人のキサカがあっさり入れて、この建物内で働いている自分が躊躇しなくちゃならない?

そこまで考えてカガリはやっと一歩、足を踏み入れた。



ずっと、ここに入りたかった。だが公的な用のなかったカガリには、入る事の出来なかった部屋──



キサカは部屋の明かりをつける事なく、奥に並んだ機材の前に立ち何やら弄り始めた。

カガリは後ろからその手の動きをぼんやり見ていた。



まさかとは思う。でも──キサカは、もしかして…でも…



モニターが暗い画面ではあるがオンになった。

キサカが何事か呟いた後、そこに映し出されたのは──

暗い表情の少年が、ゆっくり顔を上げた…



とても驚いた顔をしていた。

恐らく今、自分もああいう顔をしているのだろう。

なぜ、彼が?キサカがどうして連絡を?なぜ、なぜ?



「カガリ…」

先に声を発したのは彼の方だった。

自分の名を呼ぶその声の懐かしさに、カガリの体に震えが走った。

一歩も動けない。指1本動かせない。

かちこちに固まっていたカガリの肩を、大きな手が包み込むように触れてきた。

カキコキと音が鳴るのではないと思うくらい、カガリはぎこちなくその手の主を見上げた。

「しばらく話でもしていなさい。これが──私からの誕生日プレゼントだ」

最後の台詞はモニターに向かって告げられた。

彼は緑の瞳を大きく開いた後、こちらに向かって深く頭を下げた。



扉の外にキサカが消えて──部屋はカガリ1人になった。

でも1人じゃない──



自分とモニターの間に障害物はない。

だがカガリは未だに一歩も近付けずに呆然としたまま突っ立っていた。

「カガリ」

静かな、しかし、喜びに満ち溢れた声がする。

ぼんやりとしていたカガリは、慌てて焦点をあわせる。

優しげな、でも、少し疲れの見える、顔。

「近寄って…俺にもよく顔を見せて」

その声に誘われるように、カガリは覚束ない足取りで歩き始めた。

だんだん歩調と鼓動が早くなる。苦しくて、息もできない。

それでもカガリは酸素を求めるようにモニターの前に辿り着いて、両手をつき前のめりになった。

「アスラン…!」

彼の名と共に、涙が溢れた。

流れるままに任せて、それは少し痩せた頬を伝い、尖った顎からぽたぽたと手の甲に落ちた。

「泣かないで…笑ってみせてくれないか」

アスランの瞳も、じんわり潤んでいるじゃないか。

そう言いたかったが唇が震えて言葉が出ない。

それでもアスランの希望にそおうと、カガリは腕で目元をごしごし擦った後、

無理矢理唇を開いて両端を持ち上げた。

濡れた手を伸ばしてモニターに、平面のアスランの顔を優しく撫でる。

それは本物とは違って冷たくて硬かった。

それでもいとおしむように、何度も何度もてのひらを上下させて。

「ものすごく…久しぶりな気がする…たった、半月なのにな…」

「たった、って…『もう』半月じゃないか…!」

カガリはモニターに触れていた手をギュッと握って、軽くアスランの顔の位置をたんっ、と叩いた。

「そう、だな…」

「お前、ちゃんと食べてるか…?何だか…痩せてる…」

「カガリこそ…」



話はできるのに、触れられない。

昨日まで話さえ出来なかったのに、カガリは今の状況に全く満足していなかった。

でも恐くて訊けない。

“いつ会える?”と尋ねて“まだ無理だ”なんて言われたら──

折角止まった涙が、まだ溢れてしまう。



「プラントはどうだ?…いじめられて、ないか?」

本当に訊きたい事は胸に秘めて、それでも少し気になっていた事を尋ねてみた。

なのに、アスランは可笑しそうにプッと吹き出した。

「なんだよっ!」

「いじめ…って…大丈夫だよ。うまく…やってる。カガリは?無茶言って困らせたりしてないか?」

今度はアスランの言い様にカガリの方が憤慨する。

「困らせる…って、何だよ。上手くやってるさ!うまく…」



再び沈黙が降りてくる。

話したい事は山ほどある筈なのに、何を話していいのか分からない。

間近に見えるのに、とても遠い。

もどかしい。触れたい。

また涙が出そうになる。もう泣きたくなんて、ないのに──



だが背後のノックの音に助けられ、カガリの涙は奥に引っ込んだ。

「キ、キサカか?」



もう終わりか…

カガリは名残を惜しむように、モニターを見つめたまま声を出した。

スッとドアの開く音がして、足音が近付いてくる。

するとモニターの向こうの緑の瞳が、ゆっくり、大きく見開かれる。

カガリの耳に届く足音は、2つ。

アスランの視線の先が気になって、カガリもゆっくり振り返った…



キサカの大きな体に半分隠れたように入ってきたのはキラだった。

その表情は暗くてよくわからないが、まっすぐ前を、カガリを見つめている。

「キサカさんからカガリが呼んでるって聞いて…」

キラの声が徐々に消えていく。

カガリの背後に焦点が合い、その薄紫の瞳は見開かれた。



キサカはキラの背中に手を当て、カガリに、そしてアスランに向かって押し出した。

「それでは私はまだ仕事が残っているので、これで。終わったらまた来る」

この部屋で1人冷静を保っている男は、そう言い残してドアの向こうへ消えた。



薄暗い部屋、残された3人はしばらく動けずにいた。



最初に動いたのはカガリだった。

これはキサカの粋な計らい、なのだろう。

そしてこの2人は気まずく別れて今に至る。

ならば──私は邪魔だ。

今度は足どりもしっかりキラに近寄り、肩に手をポン、と置く。

「私は外で待ってるから、話が終わったら」

「ここにいてよ」

即座にキラに返され、カガリは思わずモニターを振り返った。

アスランもこくりと頷く。

キラが現れてから不安でいっぱいだった胸が、ほんの少し軽くなった気がした。

心配する事はないのだ。アスランもキラも、お互いの事を好きなのだ。

こうしてお膳立てされて、仲違いしたままでいられる筈がない位には。

そして仲直りの場面に自分はまた立ち会うのだ。

というか…こいつら…

私に“居て欲しい”んだな、と思うと、カガリは部屋の隅に移動しながら吹き出しそうになる。

それをグッと堪えて壁にもたれ、腕を組んで2人の様子を微笑しながら見守った。

しかしそんな微笑みも長くは続かなかった。



「こんな所で何話してたのさ。カガリを捨ててプラントに戻ったくせに」

キラからの攻撃的な言葉に、カガリはハッと顔を上げた。

思わず口を挟みそうになって、それを堪えるように口元を手のひらで押さえた。

アスランの表情がみるみるうちに変化していく。

「捨てたわけじゃないのは、今この状況を見れば分かると思うが?」

低く、怒りを押さえ込んで、でも知らず知らずのうちに滲み出ているような声で、アスランが呟く。

しかしキラは怯む事はなかった。

「結局君の欲しいものはすべて手の中にあるって事だよね。プラントでも。 そしてカガリが何も言わないのをいい事に…」

「キラッ!私は」

「カガリ」

キラのあまりの言い様に、カガリは黙っている事ができなかった。

だがアスランはキラを制するのではなく、強くカガリの名を呼んだ。

私の出る幕じゃないのは分かってる。でも──

カガリはじっとモニターを見つめた後、結局口を噤んだ。



「俺は──」

アスランは低く感情を抑えたような声で、呻くように呟く。

そして口元に笑みを浮かべ、上目遣いで挑むようにキラを見た。

「俺は、プラントにあるもので欲しいものなど、何一つ、ない」

「よくも、そんな事を…!」

キラはモニターの前まで駆け出し、両手で激しく揺さぶるように掴んだ。

「プラントに戻ってそこそこ地位も得て、何言ってるのさ!?君は贅沢だね!その上カガリまで…」

「お前が本当に言いたいのは、そこじゃないだろ」

アスランの一言で、キラはぴたりと黙り込む。

カガリにはキラの身体が一瞬ぶるっと震えたように見えた。

何を言われるのか分かっているのか、それを言われるのを恐れているのか──

「ラクスまで手に入れて、だろ?」

キラの身体が石のように動かなくなった。



カガリには今キラがどんな表情をしているのかは分からない。

しかし──モニターがカタカタと小さく音を立てているのが、静かな室内に響く。

それで初めてその身体が小刻みに震えているのがわかった。

しかしアスランの刃のような言葉は容赦なくキラを責めたてる。

「自分が“いらない”といって捨てたんだろ?でも俺はお前と違って寛大だからな。 お前が“欲しい”と言えば──」

「うるさいよっ!」

ダンッ!と大きな音がアスランの言葉をかき消した。

キラはギュッと握りしめた拳をモニターの上に置いたまま、低く呻いた。

「君の何処が“寛大”だって…!?傲慢の間違いじゃないか!」

「お前は素直じゃないよな。ラク…」

「その名前は出すな!」

再び大きな音がして、カガリはビクッと身体を震わせた。

これじゃ、前と同じだ。

罵り合う2人、そして何も出来ずにオロオロするばかりの自分──



カガリは思わず駆け寄っていた。

怒りに震えるキラの肩を、後ろから抱いて縋りつく。

「キラッ、落ち着けって…!」

「キラ」

慌てた高い声と、感情を抑えた低い声が同時に響く。

カガリはキラの肩越しにその声の主を見る。

彼の顔は冷静そうに見えた。キラからすればさぞかし憎たらしいだろうと思う位に。



「お前だけが辛いとか思ってないか?…今の状況を歯痒く思っているのは俺だって同じなんだ…ッ!」

一言一言呟くたびに、アスランの顔が苦痛に歪む。

それを見つめるカガリも、胸を潰されたように苦しくなって──キラの肩を更に強く握る。

「アスランこそ!君はオーブに来る事も出来たんだ!それを選ばなかったのは君じゃないか!」

キラの言葉に、カガリの指が、その肩に食い込む。



アスランは“選ばなかった”んじゃない、“選べなかった”んだ。

カガリは何度もそう叫ぼうとして、飲み込む。

だが、キラはその言葉が聞こえたかのように、ビクッとからだを震わせ、

カガリをちらりと見た後、再びアスランに目をやった。



「──アスランが、オーブを、選ばなかった理由…それは、何?」

カガリはキラの顔から目が離せずに、しかし何も答える事が出来なかった。

その視界の端に、アスランの顔がちらりと見えた。

露わになった感情の浮かんだ表情を徐々に消し去り、小さなため息を吐く。

「…それくらい、自分で考えろよ、キラ。俺達からは、何も言えない」



キラはまず探るようにカガリを見た。ズキッと胸が軋んだが、アスランの言う通りだと思った。

黙って首を振ると、キラは私の強張った手を握って、自分の肩から外した。

そうして今度はまっすぐアスランに向き直る。

「つまり…君は、仕方なくそっちに居る、って事なのか…?」

アスランはしっかりと頷いた。その様子を見たカガリは、内心ホッとした。

アスランの気持ちがプラントではなくオーブに、カガリにある事が確認できた。

それだけで泣きたくなるほど嬉しくなる。



ほんの少し首を動かしてキラの表情を窺えば、ここに来た時より随分穏やかな顔をしていた。

しかし納得はしていないぞ、というように少し膨れっ面でもあった。

それでも本気では怒っていないであろうその表情に、カガリは安堵した。

キラの少し尖らせた形の良いくちびるから、小さく息が吐き出された。

「…どうやら僕は君達の逢瀬を邪魔したみたいだね。帰るよ…僕は。 今日はアスランの誕生日でもあるしね…おめでとう」

「ああ…ありがとう」

ぶっきらぼうに呟くキラに、アスランは律儀に返す。

その言葉を聞いてここを立ち去ろうと体を動かしたキラを、カガリは慌てて引き止めた。

「キラッ!あの…」

キサカが呼んできたとはいえ、もともと食事をしようとカガリがキラを呼び出したようなものだった。

このまま黙って帰せるカガリではなかった。

そんなカガリにキラはにこっと微笑んだ。

その顔は満面の笑みとは程遠く、明らかに無理しています、といったものだったけれど…

「ちゃんと祝ってあげなよ」

そう言いながらカガリの脇を通り過ぎざまに肩にポン、と手が置かれる。

カガリは寂しげで本来より小さく見える背中を、じっと見送る。



「キラ」

モニターから静かな声がして、カガリは反射的に振り返った。

呼ばれた本人は一拍置いて、ゆっくりと顔のみをモニターに向けただけだった。

「今年中に一度、そちらへ行く」

「えっ!?」

驚きの声をあげたのはカガリだった。

そんな話、聞いていない。初耳だった。

アスランはキラをまっすぐ見据えて、さらに続けた。

「その時に…話をしよう。ゆっくり」

今度は慌ててキラを振り返る。が、本人は小さく頷いただけで、後は振り返りもせずに部屋を出て行った。



「お前…!来るって…聞いてないぞ、そんな話!」

キラの姿が硬い扉で隠された直後、

カガリはモニター前に駆け寄り、掴みかかりそうな勢いでアスランに詰め寄っていた。

そんなカガリを見つめながらアスランは、先程までの表情とは一変して、苦笑いを浮かべていた。

「な、何、笑ってるんだよ…!」

苦笑いとはいえ、笑顔でいてくれるのが嬉しいのに、カガリの頬はぷうっと膨れていた。

「ごめんごめん…だって、俺も今思い立ったし」

その言葉にカガリは更に目を丸くした。

「な、何だよ…思いつきか…」

ではオーブに来る事は出来ないかもしれない。

だって、彼はきっと忙しいのだ。公的な用もないのに、ほいほいオーブになど来られないだろう。

カガリはあからさまに肩を落とし、俯いた。

「でも、絶対行くから」

妙にしっかりとした口調で告げられる。

ゆるゆると顔を上げ、モニターを見れば、真剣な色を瞳に湛えたアスランの笑顔。

しばらく熱心に見つめられて──カガリは照れくさくなってプイッとそっぽを向いた。

「あ、あんまり期待しないで、待ってるよっ」

「絶対行くってば」

くすくすと抑えた笑い声が耳に届いて、カガリはますますムッとしながら──ふと思い出した。

キサカの、そしてキラの言葉を。

「お前、今日、誕生日だって…!」

背けていた顔を再びモニターに向けると、アスランは小さく頷いた。

「ごめん…私、知らなくて…」

“知らない”なんて、言い訳にもならない。

何のプレゼントも用意していないなんて最低だ、と思い切り自分自身を責める。

しかしアスランは気にした様子もなく、ただ微笑んでいるだけだ。

「気にするな。俺もキサカさんに言われるまで忘れてたし」

「でも…」

「カガリ」

更に自分を責める言葉を吐き出そうとするカガリを制して、アスランはモニターに右手をかざした。

「モニター越しでも久々に会えたし、話もできた。それだけで充分だよ。今は。 だから…笑って?笑った顔を見せて」



カガリはハッとして、アスランを見た。

先程からずっとアスランは笑顔だ。

確かに──キラと言い争いをしていた時の表情より、今の顔をずっと見ていたい。



カガリはアスランの手に重ねるように左手をかざした。

そして唇の両側を持ち上げ、目を細めた。

ちょっと気が緩むと、涙が溢れそうだったけれど──



「オーブに来て、キラとちゃんと仲直りするんだよな…?」

ようやく落ち着くと頭に浮かんできたのは、アスランとキラの事だった。

心配で尋ねたのに、アスランは小さく頷くとこう言った。

「でも…オーブに行く一番の目的は、他にあるけどね」

アスランはほんの少し目を伏せ、再びカガリを見つめてくる。とても熱心に。

やっぱり照れくさくなって、カガリは次に話す言葉も見つからないまま、えっと…と視線を彷徨わせた。

しかしまだ肝心な言葉を言っていない事に気付き、あいている方の手を自分の胸にあてて、 大きく深呼吸した。



ゆっくり瞳を開いて、まっすぐアスランを見つめ返して。

せいいっぱいの笑顔と、想いをこめて──



「誕生日、おめでとう!」






あとがき

…何も誕生日話にする必要はないと思われるかもしません…私もそう思います…
もう、これしか思いつかなかったので…すみません、すみません〜!
しかも説明不足満載。この状況になったのは何故…!?みたいな。
想像力を働かせてもらえると嬉しいです…すみません、すみません〜!不親切すぎ…
でもこの前後のお話は一応頭の中にありますので…!書きますよ、そのうち…そのうち…いつだよっ!
何はともあれ、アスラン・ザラ君、お誕生日おめでとうございます〜!




04.10.26up