ディアッカのAA滞在日記1
ビックリした。
何処からともなく飛んで来て、アスランに飛びついたのは、オーブのお姫様‥‥だと思う。
オーブで見た時の格好ではなく、今俺が着ているモノとお揃いの作業着だ。
最初に見た時から思っていた事だが、おおよそ女には見えない。
全く、あの男女がオーブの姫とは到底信じがたい。
つーか、何であんなにアスランと親しげなんだ?
‥‥ああ、そういやアスランとキラがご対面してた時も飛びついてったっけ‥‥あの娘。
すぐに誰とでも打ち解ける奴なのか、アスランの手が早いのか‥‥
もし後者なら俺にもその手練手管を伝授してほしいぜ、全く。
そんなどうでもいい事を思っているうちに、アスランはシャトルに乗り込んでいた。
操縦席をちらりと見てとりあえず場所を移動する。
さっき飛び込んできた闖入者は何やら大声で叫んでいるが、
轟音にかき消されて何を言っているのやらさっぱりわからなかった。
ふと、先程考えていた事を隣で2機の様子を見守っているマードックに訊いてみた。
「なぁ、マードックさんよ。あのオーブの姫様とあいつら、仲いいの?」
するとマードックは邪魔くさそうにこっちを向いた。
「そんな事、俺が知るわけないだろう。
それより無事シャトルが返ってくればいいんだが‥‥」
‥‥そっちの心配かよ‥‥
俺はマードックに苦笑し
「微妙な所だな‥‥」
と呟いた。訊くならあの男女の姫様に訊けって事かな‥‥
まぁあの様子じゃ姫様の片想いだろう。
しかしあの姫様に『恋愛感情』なんてモノがうまれるのかねぇ‥‥
『恋愛』の『れ』の字も知らなさそうだ。
ま、どっちにしろアスランの婚約者、プラントの歌姫ラクス・クラインと
姫は姫でもあの男女の山ザルじゃ、100人中100人がラクス嬢を選ぶだろう。
その山ザルを見ると、まだ2機の消えた方をじっと見つめたままだった。
その力強い瞳には涙を浮かべている様子もない。
男前だなぁ‥‥と口笛を吹いてやりたい気分になった。
すると先程姫様が飛び出して来た場所から今度はれっきとしたかわいい女の子がゆっくり現れた。
眼鏡の姫様っつーのも何だが、こっちの子が姫様の方がまだしっくりくるぞ‥‥
そう思っている間にも、彼女はずんずん男女に近付いて行く。
「カガリ様、もういいでしょう?クサナギに戻りましょう!」
すると“カガリ様”と呼ばれた男女は、かわいい女の子をキッと睨み、言い放った。
「お前1人で戻れ。私はここにいる」
「ええっ!?」
‥‥俺もそう叫びそうになった。多分ここにいる誰もがそう思っただろう。
「そんな無茶言わないでよ‥‥カガリ様」
かわいい女の子の方はすっかり困り果てた様子でオロオロしている。
その様子を見ながら、隣にいたマードックがため息まじりに呟いた。
「全くあの嬢ちゃんは‥‥」
「何?あの姫様の事は知ってるの?」
そう尋ねると、マードックは顔の表面に疲労の色を浮かべてグチり始めた。
「本当に無鉄砲な嬢ちゃんでな‥‥
スカイグラスパーに乗せろと喚いて二度程戦闘に参加した事もある」
‥‥どんな姫様だよ。しかし‥‥あれ?
「あの姫様、この艦に乗ってた事あるの?」
マードックは腕組みしてうーん、と唸る。
「確か‥‥地球に降下してから、かな。砂漠ではレジスタンスにいたのに、
俺達が海に出る時にはいつの間にかアークエンジェルに乗ってたなぁ‥‥
そして俺のスカイグラスパーに‥‥くっ」
‥‥アンタのじゃないだろ。
しかし、砂漠でレジスタンスだって!?ますます姫様らしくないし。
「じゃ、今生きてるって事はそれなりに腕はいいって事?」
「さぁ‥‥でも一度は一晩帰ってこなくて坊主と少佐が捜索に行った事がある。
あん時は俺のスカイグラスバーがなぁ‥‥」
‥‥だからアンタのじゃないし。
「‥‥でもまあ、あの嬢ちゃんは何だかんだ言って自分のやりたいようにやって、
それがまたその通りに事が運ぶことが多いんだよなぁ」
「へぇ‥‥例えばどんな時?」
マードックは腕組みをしてう〜んとうなって考える。
「例えば‥‥この艦が最初にオーブに入った時とか‥‥
全くあの時はもうダメかと思ったぜ。お前らザフトもオーブも容赦なしに攻めてくるからなぁ。
結局あの嬢ちゃんがオーブの姫である事を明かしたから、オーブに入国できたってとこかなぁ‥‥」
ああ‥‥あの時ね。それからの事を色々考えてしまいそうになり、しかしそれは頭の隅に追いやる。
「そん時まで姫だって事、知らなかったんだ?」
「あれ見て“姫”だとわかるヤツがいると思うか?」
「いや、いないね」
「大体オーブ国民の坊主達だって、その時初めて知ったらしいぞ」
「え、‥‥いや、そうなんだ‥‥」
思わず彼女の名前を言いそうになって、言葉に詰まった。
つれない態度の『彼女』の顔を思い浮かべてしまい、またまた頭の隅っこに追いやる。
そんな話をしながら男2人はまだ何やら言い合っている女2人に視線を向ける。
あちらの会話は1人だけがヒートアップしていて、成立していないように見えた。
「私はアスランが戻ってくるまでアークエンジェルで待つ!」
‥‥おーおー、愛されてるねぇ、アスランは。
「だからカガリ様、今発ったばかりなのにそんなすぐには戻って来ないでしょう?
一旦クサナギへ戻って」
「い・や・だ!」
「カガリ様‥‥」
かわいい方の女の子がとても可哀想になってきた。この子の言う事は尤もだ。
アスランがUターンして戻ってくるというのならともかく、
待ちたきゃクサナギに戻ってメンデルに着いてからでも遅くないだろう。
「アスランが置いてった物はここにしかないんだ!絶対にここに帰って来るんだ!
だから私はここを離れない!」
姫様はそう叫んで視線を目の前の女の子から外して別のものに向ける。
‥‥ジャスティスか‥‥なるほどね。これの傍を離れたくないんだ、姫様は。
気付くとアークエンジェルの艦長さんとそのお付きの男が現れていた。
「何のさわぎなの?」
そう艦長さんが周りに問いながら2人に向かって来る。
その声を聞きつけた姫様が周りの人々を押しのけて艦長さんの傍まで近づきながらまた叫んだ。
「しばらくここに置いてくれ!頼む!」
凡そ人に物を頼む態度でも口調でもなく、艦長さんに詰め寄る。
その姫様の必死の形相にラブラブなお2人さんは顔を見合わせている。
男の方の顔には呆れた表情が浮かべていたが。
ふと、名案が浮かんだ。
「なぁなぁ、マードックさんよ」
騒動の様子から目を離さずに、マードックの腕を肘でつついて呼ぶ。
「何だ?」
マードックもこちらを見ずに返事を返してきた。
「あの姫様、ここに残るか残らないか、俺と賭けない?」
「‥‥こりゃ賭けにならんだろう」
「‥‥そうだな」
即決だった。艦長さんは優しい笑みを浮かべて頷き、
その隣にいる男も腰に両手をあてて苦笑いしている。
そしてダダをこねていた当の本人は嬉しそうに2人を見ている。
その様子から目を離さずにマードックはさらに話しかけてきた。
「それにお前さん、賭けるモノなんかあるのか?」
「‥‥いや、バスター位しかなかったけどさ」
「何言ってるんだ?ありゃもともと俺達のモンだぞ!
‥‥あーあ、あのシャトルも無事返ってくりゃいいんだけどな‥‥」
そう呟きながら大きく伸びをして、ドアに向かって歩き出した。
‥‥間違いなくアスランよりシャトルの心配してるよな‥‥このオッサン。
ふと、さっきまで騒がしかった場所から全く音がしなくなっている事に気付いた。
静かになった場所に目をやると、いつの間にか艦長さんもその男も、
オーブのかわいい方の娘もいなくなっていた。
例の姫様だけがその場所から一歩も動いていなかった。
ただ首だけを動かしてジャスティスをじっと見つめている。
その表情があまりにも切なげで、一瞬ちゃんと女に見えたのでかなりビビった。
すると急に俺の方を睨んできたかと思うと、一直線にこっちに向かって飛んで来た。
「おい!お前!」
そう叫びながら俺に掴みかからんばかりの勢いで向かって来る。
本当に襲われるんじゃないかと、回れ右して逃げようかとも思ったが、
やがて俺の少し手前で失速し、ポンと目の前に降り立った。
吃驚したのもあったし、何を訊かれるのだろうと期待もしつつ、黙って次の言葉を待っていると
「お前、ザフトの軍人なんだろ?」
ときた。
「まあね」
そう一言で返事を済ませると、目の前の姫様は急にすがる様な顔つきになった。
「‥‥なぁ、アイツ、無事帰って来れると思うか?」
あまりに不安そうな顔をしているので、ついつい優しげな言葉をかけてしまった。
「大丈夫だろ?アイツは優秀なヤツだし」
以前泣いている『彼女』にからかい口調で話しかけ、後でひどい目にあった事を思い出した。
あの時の二の舞はいやだからな、と苦笑する。
「そうか‥‥そうだよな」
しかし‥‥初対面の俺の言葉ひとつでそんなホッとした顔されたら‥‥
ふといつものイタズラ心が顔を出す。
「でもいくら優秀でも、アイツが行く場所はプラントで、そこはコーディネーターだらけなんだぜ?
しかも父親に会いに行ったんだぜ?
無事ではいるかもしれないけど、ここに帰って来るかどうか‥‥」
ちょっと大げさな台詞回しでそう言ってやると、少し俯きぎみだった顔をガバッと上げて
きつい視線を向けてきた。
「どういう意味だよ?」
「わかんないかなぁ‥‥父親に説得されてここには戻って来ない‥‥」
「そんなワケあるか!」
俺はいきなり胸倉を掴まれた。姫様──カガリは顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
「アイツは一緒にここで戦うんだ!そう言ってくれた!」
まぁ『父親に説得』っていうのはありえないだろうけど、拘束は十分ありえるだろうが。
目の前の少女が興奮状態だからか、逆にこっちは冷静になってくる。
「『必ず戻る』って言ってたか?あいつ」
俺の言葉にカガリはハッとなって、ゆるゆると俺から手を離した。
「あいつ、お前がここに来る前に俺に言ってったぜ。
『俺が戻らない時はジャスティスを頼む』ってさ」
「嘘だっ!」
「本当だって」
俺の瞳に嘘がないか調べるようにじっと見返してくる。キッツイ視線だな、姫様の視線は。
「お前‥‥それで──」
瞳を逸らさずに、声を絞り出すように問われ‥‥あんまり必死の形相に、またまたついつい‥‥
「了解、了解って‥‥うわっ!」
再び胸倉を思いっきり掴まれ、上目遣いに睨まれながら前後に揺さぶられる。
やっぱりこの状況でこの台詞はマズかった!
「お前、よくそんな事が言えたな!アイツは──!」
「うわっ!タンマ、タンマ!言わないって!言ってないです!」
俺は降参と言わんばかりに両手を挙げた。
カガリはチッと舌打ちしながら俺を思い切り突き放した。
コイツ、マジで姫かよ‥‥!
俺は後ろに流されながら、肩で息をしてこちらを睨んでいる女をチラリと見た。
普段の俺はこんな風に扱われて黙ってる様な男じゃないぜ?と憤慨しながらも、
アスランの為に必死で俺につっかかってくるコイツに興味を覚えた。
ちょっと宥めていろいろ突っ込んで訊いてみたら、面白い話が聞けるんじゃないだろうか‥‥
『彼女』に相手にされてなくて少しヘコんでた所だったし‥‥
つま先で床を蹴ってカガリの前まで戻ると、反省の色を浮かべながらじっと目を見る。
「ごめんな。本当はアスランに
『何言ってるんだ!ジャスティスはお前のモビルスーツじゃないか!帰ってきてお前が乗れ!』
って怒鳴りつけてやったんだぜ」
そう言って少し俯いてこっそりカガリの顔を盗み見ると、
本当か?と言いたそうな疑わしげに俺をジトッと見ている。
確かに台詞は少し違うが、ニュアンスはこんなモンだぞ!
「アスランなら大丈夫だって!キラだってついてるんだし。
あいつはフリーダム乗って行ったんだろ?」
ダメ押しだ。これでどうだ!
するとやっと安心したように、
「そうだよな‥‥きっとキラが何とかしてくれる」
と呟いたのを見て、こちらもホッする。俺の命は保障された‥‥!
でも‥‥ザフトが、
というよりザラ議長が血眼になって探しているであろうフリーダムで護衛なんかして
本当に大丈夫か‥‥?アイツ。
と思ったが、それは黙っておいた。
「俺はディアッカ。お前は?」
勿論知ってるけど、一応訊いてみた。もしかしたらやっぱり姫様じゃないかもしれないし。
「カガリだ。よろしくな」
そう答えて俺に手を差し出してくる。
‥‥やっぱり、姫様、かよ‥‥俺の『姫』のイメージをことごとく崩してくれるぜ‥‥
そんでもって、コイツ急にえらくフレンドリーだなぁ‥‥と首を傾げつつ、
俺の方からも手を差し出した。
そしてがっちりと握ってくる、小さい手。
ああ、それでもコイツは女の子なんだなぁ‥‥とやけにしみじみ思う。
しかし女の子を感じたり、姫様とは到底思えなかったり。
まるでジェットコースターみたいな女だな‥‥
しかし‥‥しばらく退屈しそうにないな。
この姫様から何を聞き出そうか‥‥まずアスランとの事は必須項目だしな、
と俺が少しニヤリとすると、何だか目の前の人物もニヤリとした様な‥‥
とりあえずお互い手を握り合ったまま、にっこりと不自然な笑みを浮かべ、同時に手を離した。
とりあえず飯かな、と
「お前、腹減ってないか?」
と尋ねてみる。カガリは腕組みをして少し考えた後、
「そういえばオーブを出てから何も食べてないな」
と何でもない事のように言った。
おいおい、今気付いたのかよ‥‥
まあ確かに、地上ではいろいろあっただろうからな‥‥
「んじゃ、一緒に飯でも食おうぜ。いろいろ訊きたい事もあるし‥‥」
普通女の子をご飯に誘う時、こんな口調考えられないが、まぁこいつだし。
だが、誘い方がまずかったのか、カガリは少し表情を曇らせ
「ん‥‥やっぱりいいよ」
とそっぽを向いた‥‥と思ったら、違った。
カガリはジャスティスをじっと見つめている。思わずため息が出る。
「おいおい、断食でもするつもりかよ」
「いや、そういうわけじゃないけど‥‥今、ここを離れたくないんだ‥‥」
あーもう!こいつは‥‥!
「わかったよ。ここに食料持ってきてやっから。俺もここで食べるわ。」
そう言うと、カガリはゆっくりとジャスティスからこちらに向き直って‥‥微かにほほえんだ。
「悪いな‥‥」
そう言ってまたジャスティスにゆっくり視線を戻す。
呆れながら小さく息をつき俺は姫様を1人残して、
とりあえず持ち運びしやすそうな食料を求めて食堂に向かった。
あとがき
このまま続けてもよかったんですけど、とりあえずここで一旦切ります。
この2人がこれからどんな会話をするのか、私もおぼろげにしか浮かんでないのです…
だから大した会話は期待しないで下さい…
しかし私の書くディアッカってどうですか?別人入ってます…?
アスランとカガリは別格に大好きなので、この2人は口調とか違和感ないかな?と思うんですが…
いや、逆に大好きだからこそ別人になってる可能性大ですね…
とにかく読まれて『こんなのディアッカじゃないわ!』と思ったディアッカファンの方
いらっしゃったらすみません…
あとマードックファンの方も…
03.11.25up