俺達は今後の対策を練る為、次の日の昼休みにここで会う事にした。
事の重大さよりも、俺はただ彼女に会える事に心震えた──
敵対関係
4時間目の授業が終わってすぐ、僕はフラガ先生に呼び出された。
その話の内容は、重要さを全く感じさせないとても軽い口調だった。
「キラ・ヤマト。君、生徒会長になりなさい」
目の前が真っ白になった。何の冗談かと思った──!
普段からこの先生は冗談が多い人だけど…
「先生…冗談…ですよね?」
「いんや。本気」
僕は先生の前であるにもかかわらず、思いっきり深々とため息をついた。
「…先生、この学校にはもう生徒会長、いるじゃないですか」
「『コーディネイター』のね。君ら『ナチュラル』は生徒会から何か恩恵を受けているかい?」
「…だからと言って…同じ学校に生徒会長が2人もいたら変じゃないですか…」
「この学校が変なのは今更でしょ?俺が生徒会の顧問になるからさぁ〜」
大人のクセに妙に甘えた声を出して、にっこり微笑んでいる。
…こんな先生でも男女問わず生徒には人気がある。いや、こんなだからか…
「だいたい生徒会長って、生徒の投票で選ばれるものじゃないですか? 先生に決められた生徒会長なんて支持されませんよ…」
尚も反論する僕に対しても、先生は飄々としたものだった。
「そんなのあっちだって一緒だよ」
「だからってこっちも…っていうのはおかしいと思います」
「だーいじょうぶだって!君なら出来る!」
「だからその根拠は…」
「キラ?」
突然後ろから声がした。
「何先生に呼び止められてるんだよ。何かやらかしたのか?」
その声の主──カガリはニヤニヤしながら近寄ってきた。
「なーに、お前が言える立場か?昨日授業サボりやがったくせに〜」
フラガも同じようにニヤニヤしながらカガリにつっかかる。
「し、仕方ないだろ!時には授業より優先させなきゃならない事だってあるんだ!」
「まぁそれはそうだけどね…教師としてはそう簡単には認められない…ってね」
これ以上追求されるのもイヤだったのだろう、カガリはフラガのニヤニヤ笑いを無視して キラに向き直った。
「あ、これサンキュー。助かったよ」
そう言ってカガリは僕に現国の教科書を手渡してきた。
1時間前に“忘れたから貸してくれ”と僕からぶん取って行ったものだった。
そのやり取りを見ていたフラガは尚もカガリに突っかかってきた。
「教科書忘れたのか〜?いくら授業より大切なモノがあったとしても 教科書くらいは持ってきてほしいなぁ〜」
カガリはあからさまに頬をぷうっと膨らませた。
「その話はもういいだろ!ところで一体こんな所で何話してるんだよ?」
「キラに“生徒会長になれ”って説得してるトコ」
フラガはまるで“今からお昼ご飯を食べるトコ”位の気軽さでカガリに話した。
「生徒会長って…もういるんじゃなかったか?この学校。よく知らないが」
「いるよ。なのにフラガ先生ってば…」
「ほら、その“よく知らない”ってのが問題なんだってば!」
急に大声を出して、フラガはさっきキラに話した事と同じ話をカガリにも聞かせた。
「…なるほどね…」
カガリはいつの間にか腕を組んで、じっと考え込んでいた。
「おかしいと思うだろ?だからさ、ここはコーディネイターを凌ぐ程の頭脳の持ち主、 キラ・ヤマト君にだね…」
「だから!僕は生徒会長なんてやる気はありませんから!」
「じゃ、私がやろうか?」
その場に居た2人の男は驚いてその妙な発言の聞こえた方を見た。
「今…何て?」
キラは自分の声が震えているのがわかった。
「だ・か・ら!私がやるって言ってるんだよ。生徒会長!」
いつの間にか「やろうか?」から「やる」に変わっている事にも気付かず、 男達はその場に呆然と立ち尽くした。
「ただし、キラのサポートは欲しいな…キラ、副生徒会長やってよ」
その言葉にやっとキラも我を取り戻した。
「ちょ、ちょっと待ってよ、カガリ!自分が何言ってるのか──」
「いいんじゃない?それ」
…また恐ろしい発言が聞こえてきた…
隣の人物を見上げると、その男はいつものニヤニヤ笑いでうんうん頷いていた。
「じゃ、そういう事で。他のメンバー選びは君たちに任せるよ。 とにかく放課後職員室の俺の所まで来て。さて、肩の荷も下りたことだし、俺も弁当食べるかな〜」
「ちょっ…!先生!」
僕の必死の呼びかけも虚しく、フラガはとっととこの場を立ち去っていった。
「…カガリ…どういうつもり…?」
やたらと上機嫌のカガリに、僕は恨めしげな視線を向けた。
「私に考えがあるんだ。聞いてくれるか?」
「…僕は副生徒会長になるなんて、了承してないからね!」
人の話を聞かないカガリに少々腹を立てながら答えると、少し驚いた顔をしたがやがて寂しげに微笑み
「まあキラがなってくれないなら仕方ない…私1人でもやるよ」
そう言ってこの場を立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ…!1人でって…一体何をするつもり?」
立ち去りかけたカガリは、待ってましたとばかりピタリと止まり、くるっと振り返ってきた。
「…手伝ってくれるか?」
その瞳の輝きに、僕は思わずため息が漏れた。
何だかんだ言って、僕はカガリに逆らえた事なんてただの一度もないんだ…
今日はキラに会えなかった。
いつものように3時間目と4時間目の間の休憩時間にいつもの場所で待ち伏せしていたのだが、
あそこを通りかかったのは、いつもキラと一緒にいるナチュラルのみ。
その中にキラの姿は見られなかった。
それだけじゃない。
昼休み。約束した場所にカガリは来なかった。
キラに会えなくて残念だったけど、あと1時間もすれば彼女に会える。
カガリにもつまんでもらおうといつもより少し大き目のタッパに弁当を作ってきたのだが、 いつまでたっても彼女は現れない。
何処かに隠れているのかと思って、木の上から部室の影まで探してみたが、いない。
仕方なく部室の壁に凭れてひとりで弁当を食べながら待っていると、 現れたのは例の3人組──
本当に散々な時間だった。
俺は最悪な気分でその後授業を受け、今、クルーゼ先生に呼ばれて生徒会室に来ていた。
そしてその散々な時間はまだ続いているように思われた。
あまり顔を合わせたくない人物と一緒だからである。
しかも剣呑な視線を隠しもせず、俺を睨みつけいてる。
──まあ、いつもの事だが。
「──何故お前がここにいる!?」
「…僕も生徒会役員ですので」
とりあえず丁寧に返事を返し、後は口を聞く気もないので黙って窓の外を見た。
「もう帰っていいよ。クルーゼ先生には俺から言っといてやるからさぁ」
「…いえ。結構です」
頼むから放っといてほしい、と本気で思う。
お互い相容れないのはわかっているのだから、いちいち話しかけてこないでほしかった。
「ところでさぁ、イザーク。先生はどうして急に俺達を招集したんだと思う?」
アスランは浅黒い肌の金髪の少年が、綺麗な顔立ちの銀髪の少年に問いかけるのを 聞くとはなしに聞いていた。
「まずは新しい生徒会役員候補を連れてくるんじゃないか? 出来の悪そうな新入生でも1人位はいるだろう、役員候補が」
──出来の悪い3年生でも務まる仕事だからな、生徒会は。
「なるほどね。それだけだと思う?」
「──いいや。生徒会長が卒業してしまったからな…新しい生徒会長を決定するんだろう…」
「ああ、そうだね。それってやっぱり…」
金髪の少年が銀髪の少年を見てにっこり笑う。
それを受けて銀髪の少年はふふんと鼻で笑った。
──ばかばかしい。
いい加減機嫌も最悪なので、本当に帰ってしまおうかと思ったその時、ドアは開いた。
彼らの予想通り、クルーゼ先生ともう1人、緑色の髪をした幼い少年が部屋に入ってきた。
3人はあわてて椅子から立ち上がった。
「やあ、皆揃っていたようだね。待たせて悪かった。 今日は新しい生徒会役員を紹介しようと思ってね…」
クルーゼ先生はそう言って後ろを振り返り、新入生らしき少年を前へと押し出した。
「ニコル・アマルフィ君だ。彼には会計をやって貰おうと思う。 よく面倒を見てやってくれたまえ」
「ニコルです。よろしくお願いします。先輩方」
そう言ってニコルと呼ばれた少年は深々と頭を下げた。
その挨拶に先輩2人は冷ややかな視線で応えた。
「それと──今年の役員、だがね」
クルーゼ先生のその言葉に上級生2人はピンと背筋を伸ばす。
俺はその滑稽な様子を目の端で確認しながらばかばかしく思った。
「生徒会長は──アスラン、君にやってもらおうと思う」
「えっ!」
合計3人の口から驚きの声が漏れた。
「納得できません!」
固まった状態から一番早く脱したのはイザークだった。
「アスランはまだ2年生です!生徒会長は荷が重いと思います!」
「しかし、受験で大変な3年生に生徒会長、というのは可哀相だと思ってね…」
「しかし!」
「もう決まった事だよ、イザーク。君には副生徒会長としてアスランをサポートして欲しい」
イザークはギリギリと歯を軋ませながらアスランをもの凄い形相で睨みつけてきた。
俺は小さくため息をついて、一応尋ねてみた。
「先生、2年生の俺には荷が重過ぎます。ここは3年生に任せたほうが…」
「先程も言ったが、もう決定した事なのでね…やってくれるね?」
「…はい」
俺の返事にイザークとディアッカはますます表情を険しくして俺を睨んでいる。
…こんな事に構ってる場合じゃないのに…と俺は気付かれないように再び小さくため息をついた。
「それとディアッカ、君は書記だ。では私はまだ仕事が残っているのでね。 ではアスラン、後はよろしく頼む」
そう言うとクルーゼ先生は生徒会室を後にした。
先生が出て行ったとなると…
この後の展開がありありと浮かんで、アスランはいっそう重苦しい気分になった。
「──アスラン、お前、どうやってクルーゼ先生に取り入ったんだ?」
──来た。こうやってネチネチ言われるのには慣れているが…
「大方父親に頼み込んだんだろうよ、『生徒会長になりたいんだ、パパ!』ってね。 アハハハハハ!」
とりあえず俺は上級生2人を無視して、ニコルの側に寄って行った。
「ニコル、だったね。僕はアスラン。アスラン・ザラだ。よろしく」
ニコルは2人の上級生を気にしながらも、笑顔で応えてきた。
「ニコルです。どうぞよろしくお願いします」
「おいお前!無視するとはいい度胸じゃないか…腰抜けのクセに!」
──本当に俺は先輩運がないらしい。3年生は俺にとって鬼門だな…
俺は白々しくため息をついた後、イザークに視線を向けた。
口を開こうとした、その時。
普段聞きなれない廊下をバタバタと走る音が近付いてきて── 生徒会室のドアがガラッと勢いよく開いた。
「ここは生徒会室だな!生徒会役員はそろってるか?」
肩で息をしながら部屋を見回しているその人物は──
昼休みに会えなかったカガリだった。
ドアが開いた時、ここにある筈のない見知った顔があってアスランは大いに驚いた。
その人物が驚いた表情をこちらに向けて小さな唇を開きかけたその時、 耳障りな声にその行為は遮られた。
「何だ!お前は!」
カガリは俺の方に向いていた視線をすぐイザークに向けてしまった。
「お前こそ何だ!」
カガリは完全にイザークに対してケンカ腰だ。
対してイザークの方も勿論不機嫌そうな顔だ。
そして以前俺がやったように、カガリの胸の辺りをじっと見ていた。
「お前、校章は!?」
やっぱり…と俺が思う間もなく、カガリはポケットから例の黄色い校章を取り出した。
あの時と一緒だ…と思わずクスッと笑いが漏れる。
その声に気付いたようで、カガリはビクッと肩を震わせ、チラッとこちらを見てきた。
が、すぐイザークの唸り声を聞き、カガリはそちらに視線を戻してしまった。
「何だ!そのふざけた校章は!…どうせお前はナチュナルなんだろう!」
俺はさっきまで不機嫌だったのも忘れ、カガリの次の言葉を予想していた。
俺の隣に立つニコルは2人のやりとりにそわそわと落ち着かずにいるようだ。
「『どうせ』とは何だ!私はコーディネイターでもナチュラルでもない!『中立』だ!」
ビンゴ!アスランは笑いを堪えるのに必死だった。
「中立〜?」
すると今まで黙って静観していたディアッカがカガリに近寄って行った。
「中立でもなんでもいいけどさ〜、キミ、女の子でしょ?もうちょっと言葉遣いに気をつけたら?」
そう言いながらカガリの頬に手を添えてくる。
俺は思わず椅子から立ち上がりそうになるのをグッと堪えた。
するとカガリは一歩後退りながらその手をペシッと払った。
「『生徒会役員はそろっているのか?』と聞いている!」
上級生2人と話していても埒があかないと思ったのだろう、
カガリはさっきから楽しげに様子を窺っていた俺と、逆にオロオロして その側にいるニコルに向き直ってきた。
「ああ」
俺は出来るだけ普通に、他の3人になるべく疑念を抱かせないように注意しながら答えた。
なのに──
「へえ〜、アスランって生徒会役員なのかぁ〜」
カガリのこの一言で他の3人はギョッした顔で俺とカガリの顔を交互に見始めた。
「…アスラン?お前、このガサツなナチュラルと知り合いか──?」
──早速イザークが突っ込んできた。
少し戸惑いながらもここは仕方ない。『知らない』としらばっくれようとしたその時──
「アスランとは知り合いだが──人を『ガサツ』呼ばわりして…失礼なヤツだな!お前!」
今度は4人の視線がカガリに集中した。皆一様に呆然とした顔をして──
──カガリ…お前はこの学園に在学していて、どうしてそういう事を平気で──!
「俺はこの子の事は知らない。多分彼女が一方的に俺の事を知ってるだけなんだろう」
俺は椅子から立ち上がってカガリに近寄り背を向けて、そう言った。
「アスラン──!お前──」
背中からカガリの非難めいた声がするが、もうそれは一切無視する。
だが、しかし──
「ふ〜ん、怪しいなぁ…」
ディアッカが面白そうに腕を組み、クスクス笑っている。
「アスラン君、きみ、どっかでこのコ、たぶらかしたんじゃないの〜? それを俺達に知られたくなくて、誤魔化してるとかさぁ〜」
…俺はこういう挑発には乗らない。が、背中の少女はそうではなかった。
俺の背後からひょこんと顔を出して、ディアッカを睨みつけながら叫んだ。
「何をっ!私はたぶらかされてなどいない!普通に仲良くなったんだ! アスランと仲良くして何が悪い!?」
カガリ…君の台詞は非常に嬉しいが…こんな時でなければ。
俺はくるんと振り返ってカガリの腕を取り、ドアの方へとずんずん進んだ。
「アスランっ!何するんだよ!まだ話は終わってない…アスランっ!」
俺は開け放たれたドアから廊下に出て、人がいない事を確認すると後ろ手にピシャリと閉めた。
「ここでは俺の事は知らないフリをしてろ!」
俺はカガリが言葉を発するより先に、声をひそめて、でも言い聞かせるようにきつい口調で言った。 なのにカガリは全然わかってくれない。
「何でだよ!知ってるのに知らないフリなんかできるか!」
「いや、やってもらう。それがカガリの為だ」
「お前の言ってる事、ぜんぜんわからない!」
うちの学園の生徒で、こんな事もわかんないヤツがいるとは思えなかったが… カガリなら…ありうる。
「おい、何とか言えよ!とにかく説明を…」
「カガリ」
しかし、今ここでそれについて説明している時間はない。
「お前はここに、そんな用事で来たのか?」
途端にカガリはハッとして、表情を改めた。
「…とにかく話を聞こう。それと…俺はお前の事、知らないフリをするから」
それだけ言って俺は再び生徒会室のドアを開けた。
「アスラン、あのナチュラルの女、追っ払ったんだろうな?…っ!?」
イザークは俺の後に続いて入ってきたカガリの姿をみとめてギョッとした後、心底嫌そうな顔をした。
「俺達に話があるそうだ」
カガリは俺の背中からひょっこり飛び出して3人の顔を見回した。
俺は再びニコルの隣まで戻った。
「私はカガリだ。今日…いや、明日からか。ナチュラル側の生徒会長になったから」
「何っ!?」
1番に叫んだのはイザークだが、驚きはみんなの元に平等に訪れた。
いや、俺には軽い頭痛のオマケがついた。
「ふざけるな!この学園の生徒会はここにしかない!ナチュナルの生徒会長…? そんなモノ、認められるわけがないだろう!」
イザークはずんずんカガリに詰め寄りながら、胸倉を掴みかねない勢いだ。 しかしさすがのイザークでも女の子相手にそれはしなかった。
「でももう決まったんだ。一応挨拶にと思ってな」
「挨拶?そんなものいらん!とっとと帰れ!そして二度と来るな! おまえらナチュラルの生徒会など認めん!認めんからな!」
ディアッカは驚いてはいるようだが、静観の構えだ。 イザークに任せて事の成り行きを見守っている。
俺の隣に立つニコルはあまりの展開についてゆけず、ただオロオロと2人を見ていた。
俺はいつでも2人の間に割って入れるよう準備しながらとりあえず話を聞く体勢を取っていた。
「私の話はこれで終わりじゃない!私だってナチュラルだけの生徒会なんて意味ないと思う!」
「それがわかっているならとっとと解散するんだな!」
「そうじゃない!」
カガリはイザークの両腕を取ってにじり寄った。
「なっ…!お前!離せ!離さんか!」
「お前達コーディネイターだけの生徒会じゃ、ナチュナルの為にはならない!だから…」
カガリはイザークをじっと見つめて一旦言葉を切った。
イザークはカガリに完全に呑まれていた。
「最終的にはここの生徒会とこちらの生徒会を統合したいと思っている!」
カガリ以外の人間は完全に言葉を失った。
が、アスランは何となくカガリの言う事が予想できていた。
彼女がナチュラルだけを纏めて満足するとは思えない。
『中立』を唱えるカガリの事だ。それだけでは済まない、いや、済ませないだろう…
「──ふ、ふざけるなぁっ!お前はっ!そんな事、できるわけないだろう! いや、しようとも思わん!ナチュナルと統合?とんでもない!──っ離せっ!」
イザークは無理矢理カガリの腕を解いた。カガリは少しよろけてイザークから離れた。
「今すぐに、とは言わない。でもいずれは…そうしたいと思っている!」
「──まだ言うかッ!出て行け!今すぐ出て行け──!」
イザークはなおもカガリに詰め寄り、ドアへと追いやっていく。
が、カガリはそれをくぐり抜けて俺とニコルの側まで近付いてきた。
「それで生徒会長はアイツなのか?やたらと偉そうだけど」
そう俺に問うカガリの台詞に、イザークが反応を示す。
…その台詞、今は禁句だというのに…まああれだけこの場を仕切っていれば そう思うのも仕方ないとは思うが…
「…俺だ」
途端にカガリの顔が明るく輝いた。
「な〜んだ!お前だったのか!そりゃ話が早い! 今言った通りだ。アスランならわかってくれるよな?」
…そりゃ、わかるが…
お前は俺が廊下で忠告したこと、覚えてないな…
そして今、お前の後ろで凄い形相で俺達を睨みつけている人物がいる事もわかってないんだろうな…
「アスラン…そもそもお前ら、どういう知り合いなんだ…? こんなふざけたナチュラルなんかと…」
地を這うような声が部屋に響く。
「別に知り合いじゃない、と言ったはずですが?」
「嘘付け!この女はお前を知ってる風じゃないか!」
「しかし知らないものは知らない」
「アスラン!だから何でそんな嘘をつかなくちゃならないんだ!」
──カガリ…
俺はイザークに悟られるのを避ける為に表情を変えずカガリに瞳で訴えかけるが、 それは全く通じていないようだ。
「どうしてそんな事言うんだ…?」
カガリは悲しそうに顔を歪めて俺を見つめてくる。
俺だってこんな嘘はつきたくないけど…どうしてカガリは解ってくれない──?
その時、生徒会室のドアがノックされた。
皆、一斉にドアの方を見る。
そうしてドアが開いたその先には──
キラが立っていた。
「キラっ!」
振り返ってドアを見たカガリは俺の元を離れ、キラの所までかけて行った。
そしてキラの後ろにはもう1人──いつの間にかムウ・ラ・フラガ先生が立っていた。
「カガリ!ここには来ちゃダメだって言っただろ?」
「だって!いずれは来るつもりだったんだ!だったら今来ても一緒じゃないか!」
「あのなぁ…ったく…」
未だ部屋に入っていない男2人はカガリを守るようにがっしりと肩を押えていた。
しかしこちらにはそんな3人のやりとりを黙って見過ごす筈はない人物がいる。
「おい!お前ら!」
そう叫んでズンズンと3人に近寄ると、一番大きな人物に向かって言い放った。
「先生とはいえ、ここにあなたが出入り出来ない事、ご存知ですよね!?」
いきなり睨まれた男は苦笑して肩をすくめた。
「そりゃわかっているけどね…俺達はこのバカ娘を引き取りに来ただけだから。 君も困ってたんじゃない?いきなりワケわかんない奴が来て」
「バカ娘って何だよ!?私はただ──」
「物事には順序ってものがあるだろう?お前のやりたい事はキラから聞いたし。 その辺は俺がお膳立てしてやるから、今日はここまでにしとけ。いいな?」
「でも──」
「だーかーらー!」
フラガ先生は大きな手をカガリの頭の上にぽすん、と乗せた。
「俺達の活動はまだ正式なモノじゃないの!とりあえず今からいろいろ話があるから! じゃ、お騒がせしたね。もう出て行くから」
後半部分は未だに睨みつけているイザークに語りかけた。
「…ちょっと待って下さいよ、先生」
含みのある声で、イザークが3人を引き止める。
一瞬フラガ先生は顔を顰めたが、すぐ穏やかな表情に戻り「ん?」と先を促した。
「…ナチュラルだけで生徒会を作るって…本気なんですか?」
言葉だけは丁寧だが、その声はなかなか憎々しい響きが混じっている。
「ん〜、どうだろうね。OKが出ればね…じゃ、僕らはこの辺で。ホント、邪魔したね」
いつの間にかカガリの頭の上にあったフラガ先生の手は、カガリの口を押えている。
カガリはその手を離すのに必死だったが、やがて諦めたようで動作が止まった。
そうして3人が部屋を出て行く直前──
キラとカガリが俺をジッと見ていた。
どちらも強い視線だが、種類が違う。
キラは周りに気付かれないように、でも決して怯えているわけではない訴えるような視線。
対してカガリは挑むような、怒っているような、誰の目も気にしないまっすぐな視線。
そうして先生と俺の友人2人は、俺の視界から消えていった。
「…おい、アスラン」
閉められたドアをジッと見ていたイザークが、アスランに向き直り、声をかけてきた。
大体何を尋ねられるのが見当のついている俺は、こっそりため息をついた。
「あの女、知り合いなんだな…?しらばっくれても無駄だぞ!お前と言う奴は…!」
「知らないものは知らない」
俺は椅子から立ち上がり、真っ直ぐイザークを見た。
「でも流石にもう覚えた。それはここにいる全員同じだろう」
もう敬語を使う気はなかった。
きっとカガリはナチュラルの生徒会長になるだろう。
この学校の現理事長がナチュラルなのだから、多分OKは出る。
その時、俺は生徒会長として上級生であるこの人達を抑えなければならない。全力で。
イザークはギリギリと歯を食いしばりながら俺を睨みつける。
だがその視線をやり過ごし、俺は自分の鞄を手に取った。
「お前!帰るつもりか!この状況で!」
「…とにかく向こうの出方が決まらないと、こちらも動けないだろう。 他に話し合うべき議題もないし。…迎えの車が待っているので。失礼」
ちらりとだけイザークに視線を向け、俺は興味なさそうにそっぽをむき、部屋を出た。
廊下に出で数歩歩いた所で──今まで自分のいた部屋から机をなぎ倒すような轟音が聞こえてきた。
とにかくあの2人を校門で待つ──
帰る所を捕まえて──話をしなくては。
アスランは少しずつ足を速めながら昇降口へと向かった。
あとがき
さらに長くなりました。甘くなくてすみません。
アスラン、ちょっと開き直ってきました。
しかし、私の書くイザークって…うるさいですね(笑)
ミオの戯言、感想等はこちら