Believe
今日もいつも通り、朝を迎えた。
いつもの朝、そしていつもの学校。
でも何故だか、いつもと違う。
今まで学校に行く事がこんなに楽しみだったことがあっただろうか?
でも手放しで楽しみ、というわけではない。
やっぱり若干の不安要素もある。
そしてその不安が、若干どころではなくなってしまう事になるなんて──
学校まで送ってくれた運転手に礼を言い、俺はいつもの坂道を登った。
下足室に辿り着き、靴箱を開けた、その時。
白い封筒がひとつ、上履きの上に置いてあった。
この学校に入学した当時は、こういう事もよくあった。
その殆どはこの学校の女子学生からのものだったが、
最近はそういう事は全くといっていいほどなかった。
俺はその封筒を手に取り、表裏を代わる代わる見た。
宛名も差出人名も、何も書かれていない封筒。
いつもならそんな封筒は中身も見ずにゴミ箱行きなのだが、
なぜだか今日は、今日に限ってその場で封を切った。
“アスラン・ザラ様
あなたの母上を殺した犯人は
2−6 カガリ・ユラ・アスハ
彼女の親族です。”
真っ白な便箋にワープロで綴られた無機質な文字。
その短いたった4行の文に、アスランは目を奪われたまま立ち尽くした。
ありえない、そう必死で思おうとした。
だが──彼女の名前。
カガリ・ユラ・『アスハ』
『アスハ』とは──この学園の教頭の名と同じではないのか?
教頭は、『コーディネイター』出身では、ない。
様々な感情がぐるぐると頭の中を渦巻く。
いとしい気持ち、かなしい気持ち、にくい気持ち、なきたい気持ち。
それが混ざり合ってアスランはここから逃げ出したくなった。
でも、それは出来ない──授業に、出なくては。
いつの間にか上履きに履き替えたアスランは、
重い身体を引きずるようにして校舎の中に入って行った。
問題の封筒を鞄のポケットに入れて。
1時間目から授業は全く頭の中に入ってこなかった。
何かを考えなければならないのに、頭はそれを拒否していた。
だからアスランは、ただ教室の椅子に座って、
黒板に書かれていく文字をノートに書き写し、
先生に指されれば、ちゃんと正解を答えていった。
だが、今のアスランにはそれは何の意味もない事。
そうやってただ無意味な3時間を過ごしただけだった。
今日もいるだろうか──
食堂を出たキラはまだ見えもしない例の木陰の方を見つめていた。
アスランの誘いは迷惑だ。でも──
あんなに仲が良かった『親友』に、僕も少し態度が悪かったのではないか、
と
夜、自宅で反省していた。
ここで一緒に昼食を食べている彼らも『友達』だが、
アスランだって僕にとって立派な『友達』のはずだ。
だったら『ナチュラル』だ『コーディネイター』だというだけで
アスランを避けるのは、確かにおかしい。
この学校内で話するのは無理でも、
休日にお互いの家でゆっくり話するのもいいだろう──
今日もしまたアスランがあそこにいたら、そう提案してみるつもりだった。
食堂から校舎に続く坂道を登ると、やはりアスランは僕を待ち伏せしていた。
今日もトール達に先に行ってもらった。
やっぱり怪訝な顔をされたが、
この学校の生徒である限り本当の理由は言えなかった。
心の中で『ごめん』と手を合わせ、
アスランの待つ木陰に、今日は僕の方から近寄って行った。
「アスラン」
呼びかけるまでアスランは僕に気付いていなかった様だ。
気だるそうに木に凭れていたアスランはゆるゆると身体を起こし、僕を見た。
その途端、アスランは僕の両肩を掴み、木に押し付けて凄い形相で見つめてきた。
その鬼気迫る表情に唖然としたまま声も出せずにいると、
漸く小声で話しかけられた。
「‥‥キラ、訊きたい事が、ある」
「‥‥なに?」
また暫く沈黙が続く。
アスランは一体僕に何を訊こうとしているのだろう──?
「カガリ‥‥カガリ・ユラ・アスハ、を、知ってるか‥‥?」
──!何故、アスランがカガリの事を!?
アスランの真意が読み取れなくて黙ったままでいると、再びアスランは問うてきた。
「知っているのか──?」
「‥‥知ってる、けど‥‥どうして、アスランはその名前を‥‥?」
もしかして、アスランに『あの事』がバレたのだろうか──?
それでとても怒っているとか──?
それならば、カガリを庇わなくちゃ!
視線を逸らして俯いてしまったアスランに、僕は逆にアスランの肩を掴んで言った。
「カガリはとてもいい子だよ。本当だよ。それにカガリのお父さんは」
「教頭、なのか?」
「‥‥そうだよ。アスラン、カガリを知って──つっ!」
アスランは急に僕の肩を放り出し、自分の校舎に向かって走り去ってしまった。
僕は木の幹に叩きつけられる形になり、したたかに背中を打った。
そんなアスランの後姿を呆然と見送りながら、
僕は胸いっぱいに不安な気持ちが広がっていくのを感じた。
4時間目が終わってすぐ、アスランは今日も食事を摂らずに昨日の場所へ向かった。
昨日の夜、家に着いてからずっと考えていた。彼女の事を。
きっと明日も彼女はまたあの桜の木に登って
あのバカな男達を待ち伏せしているだろう。
彼女1人では心配だ。だから自分も一緒にいてやるのだ。
そしてその時は自分で作った弁当を持っていこう。
確かに弁当は作って持ってきた。
だか今日は──今は、それを持ってカガリの元へ行く気には到底なれなかった。
昨日あんな事を考えていた自分がバカみたいだ。
そして今はただ彼女がいるであろう場所に全力で駈けて行くだけだった。
息を切らして緩やかな坂道を登りきり、アスランはとうとう目的の場所まで来た。
昨日よりも桜は派手に散っていた。坂道は桜色のカーペットに覆われているようだ。
だが、そんな物に目を奪われる事もなく、
アスランはただ1本の桜の木を見上げていた。
「カガリ!いるんだろ、カガリ!」
形振り構っていられなかった。
いつも落ち着いている普段のアスランからは想像できない大声だった。
呼びかけてからすぐ木の枝がカサカサと鳴った後、のんびりした声が聞こえてきた。
「あぁ、アスランじゃないか。どうし──」
「降りて来い。早く!」
暫く木の上からは何の物音もしなかった。
そして降りてくる気配もない。
アスランが痺れを切らして、さらに呼びかけようとしたその時だった。
ガサガサッと大きく枝が撓ったかと思うと、漸くカガリは木から飛び降りてきた。
「何だ?昨日無事帰れたか?普段電車なんて乗り慣れてない──」
「カガリ」
彼女と世間話をする為にここに来たのではない。
にっこり笑って無邪気に話しかけてくるカガリを制し、
アスランはきつい視線を投げ掛けた。
漸くカガリもアスランの様子がおかしい事に気づいたようだ。
口元に浮かんでいた笑みを消し、それでも瞳を丸めてスランを見つめてくる。
何と言って切り出そう──
授業中ずっと考えてはいたが、旨い言葉は浮かんでこなかった。
しかしここで言いよどんだまま昼休みを終わらせる気はさらさらなかった。
「お前──教頭、先生の…」
「あれ、知られちゃったのか」
俺の用件が『それ』だと思ったのだろう。
カガリは明らかにホッとした表情で再び微笑んだ。
「別に父がどうとか関係ないだろ?私は私だし」
いいや、関係あるんだ──
「お前の親戚で」
ここで俺は一旦言葉を切った。
カガリはまだ話が終わっていない事に気付き、
また真剣な表情で俺の話を聞く体勢に入った。
「…お前の親戚で、交通、事故を、起こした事がある──」
「ないよ、そんなの」
まだ俺が言い終えないうちに、カガリは速攻で答えてきた。
そして今度はクスクスと笑う。
その笑顔が、癪に障った。
「なんでそんな事訊いてくるのか知らないけど──」
「俺の母を殺したのは、お前の親戚だ」
カガリの笑みが、凍りついたように固まった。
「は…?何、言って…」
「親戚か、それともお前の父親か…」
「そんなワケないだろ!!」
カガリは激昂していた。これ以上ないという程に。
こちらにずんずん向かってきて激しく俺の胸倉を掴んだ。
「お前!言っていい事と悪い事があるだろ!言うに事欠いて何だって!?ああ!
もう一度言ってみろ!」
こうなったら俺も後には引けなかった。
「お前の父親じゃなくても、親戚ならありうるだろ?」
「何かありうるんだよ!ありえない!うちの親戚に犯罪者はいない!
そんな事、言わなきゃわからないのかよ!?」
「お前はたまにしか会わない親戚の事まで把握しているのか!?」
「会わなくったって把握くらいできるさ!」
カガリはそう叫んで、アスランの胸倉から手を突き放した。
俺は2、3歩後ろによろめいた。
「話は、それだけか?」
アスランは俯いたまま何も答えられない。
静かな、緊迫した時間が流れる。
こんな場面なのに風に流れるピンクの花びらが優しく頬を掠めていく──
「──じゃあな。私は行く…?アスラン!」
突然膝を折って崩れた俺に、カガリは走り寄って来た。
自分のスカートが汚れるのにも構わず、膝を地面につけて、俺の顔を覗きこんでくる。
「お前──」
カガリが息を呑む音が、聞こえた気が、した。
「…なに、ないてるんだよ…」
何を言っているんだ、この娘は──
カガリのいたわるような掠れた声をどこか遠くの方で聞いている自分がいた。
泣いてるだって?俺が?そんなわけないじゃないか──
「ほらっ、立って!」
俺の両腕に力が加わって、俺はぐいぐいと何処かへ引っ張って行かれた。
カガリはこっそりとため息をついた。
部室の影にアスランを連れて行き、壁に寄っからせた。
項垂れて一言も喋らなくなった彼を、
ごくたまに通りかかる生徒から自分の身体で隠した。
全く──泣きたいのはこっちの方だ。
自分の身内を犯罪者扱いした人間の側で、
何でこうやって落ち着くのを待ってやらなくちゃならないんだよ…
とは言え、こんな状態の彼をここに置いては行けない。
昨日のバカ達が来るかもしれないし…ほっとけないじゃないか。
墓地で見たアスランも様子が変だったけど…さ。
とにかく、アスランが何故あんな事を言い出したのかも気になる。
その理由がわかるまでは解放なんてしてやんないから!覚悟しとけ!
そう決意して肩越しにアスランを振り返った。
何度かアスランに話しかけようとちらちら振り返っていたカガリだったが
呼びかけても返事ひとつ返さないアスランに、
結局何もできないまま時間だけが過ぎた。
そしてとうとう予鈴が鳴り始めてしまった。
するとカガリの背後で今までぴくりともしなかった彼が身体を揺らした。
振り返るとアスランがのろのろと歩き出し、カガリの脇を通り過ぎようとしていた。
「おいっ!」
反射的にカガリはアスランの二の腕を掴んだ。
「お前、そんな顔して教室に戻るつもりかよ!」
そんなカガリの言葉も耳に入っていないかのように、
アスランはそれでもここを立ち去ろうと歩みを止めない。
カガリはカッとなって、今度は両腕でアスランを引き止めようとしたその時、
微かに耳に届いた声──
「…どけ」
──やっと口きいたかと思ったら…こいつ、ムカツク!
「い・や・だ!」
アスランは驚いたように少し目を開いたが、すぐにまた瞳から生気を消した。
「…授業が、あるから」
「授業より、こっちの方が大切だ!」
カガリはアスランを掴んでいる手を片手だけ離し、
それを彼の胸の中心にドンと押し当てた。
そしてカガリは真剣な表情でアスランを睨みあげた。
本鈴のチャイムが鳴り響く中、アスランはぽつりと呟いた。
そうして漸くカガリはアスランから両手を離し、小さく頷いた。
──授業をサボッたのは初めてだった。
『学校』というものに通いだしてから、初めての経験だった。
寂れた部室の壁に制服が汚れる事も構わず腰を下ろして寄りかかっている。
今、気にしなければいけないのは
授業をサボッた事でも、制服が汚れる事でもなかった。
隣で同じように膝を抱えて座り込んでいる彼女に、事の顛末を話さなければならない。
予鈴が鳴った時、やっと彼女から逃げられる、と心の奥底で安堵した。
だが彼女はそんなに甘くはなかった。
今だってすぐ隣から感じる、真剣な眼差しが、痛い。
「最初“交通事故”って言ったよな、確か」
アスランは小さく頷いた。いちいち声を出して答える必要のない質問だった。
「つまり、お前のお母さんは──ひき逃げ、されたのか?」
訊きにくそうに尋ねられ、俺はそれも首を振る事で答えた。
「じゃあ、犯人は捕まってるんじゃないのか?」
その問いにも首を振り──
「じゃあ、何なんだよ?わけわかんないぞ。首ばっか振ってないで答えろよ」
俺はとうとう観念して、からからに乾いた喉をから声を絞り出した。
「…もみ消された」
声はひどく掠れていたが、ちゃんとカガリの耳に届いたようだ。
それでもそれだけでは訳がわからないようで、カガリは顔を顰めて首を傾げた。
「それは…ありえないだろ」
「…実際、そうなんだから、仕方ない」
そう俺が言ってもカガリはまだ信じられないようで、しきりに首を捻っている。
──そう。こんな事、誰に言っても信じてもらえないさ。
だから今まで誰にも話した事はなかった。
──やっぱり話すんじゃ、なかったな…
「で?お前はずっと犯人を捜しているのか?」
俺はじっと足元に釘付けだった視線をカガリに移した。
「そうなんだろ?捜してるんだろ?」
この時、俺は相当間抜けな顔を晒していただろう。
「──俺の言う事、信じたのか?」
カガリは呆れ顔でため息をついた。
「本当なんだろ?もし嘘だってんなら、容赦しないけどな。で、具体的にどうやって捜してたんだ?」
──こんな話を信じるか?普通──
俺は信じられない思いで胸をいっぱいにしながら、ぽつぽつ話し出した。
父が何とか調べて解った事は、
犯人がこの学校の卒業者、または身内が在学中の者。
そしてそれは“ナチュラル”だという事。
この学校に入学した俺は、密かに学内で調べられるだけ調べてみたこと。
しかし、手がかりはなにも得られていない事──
「何でこの学校の関係者、しかも“ナチュラル”だって事がわかったんだろ」
カガリはさっぱりわからないらしく、首を捻り捲っている。
「お前のお父さん、本当は犯人を知ってるんじゃないのか?」
今まで何度もしつこい位に父に訊いた。
でも“これ以上は知らない”の一点張りだった。
結局これ以上父から情報を引き出す事は諦めている。
俺はただ首を左右に振った。
「で、お前が必死で捜していた犯人が、私の身内だと思ったのは何故だ?
自分で調べてそういう結論に達したのか?」
俺は再びカガリの問いに首を振った。
「じゃあどうして私の身内を疑ったんだ?」
俺はポケットから朝靴箱に入っていた手紙を取り出し、カガリに渡した。
「これ…読んでも?」
俺は小さく頷いた。
かさかさと紙を弄る音が響く。
その音が止み、やがて静寂が訪れる。それもすぐ破られたが。
「なんだ!これ──!!」
カガリはもの凄い勢いで立ち上がり、俺に掴みかかってきた。
俺はされるがままに体を揺さぶられる。
「お前、まさか、こんな怪しい手紙信じたのか──!?」
そう思われても仕方がない。
正直、母を殺した犯人を捜すのに行き詰っていた。
そんな時、これを見た。
しかもそこに書かれた名前──何よりそれが、俺には辛かった。
「そんなモン、この手紙の主が一番怪しいじゃないか!
宛名も、差出人の名前さえ書いてない、こんなメモみたいな手紙で、私は──」
カガリは大きく口を開いたまましばらく固まり、やがて口を閉じるとぽそりと呟いた。
「──疑われたんだ」
その顔は奇妙に歪んで悲しそうに見えた。
俺はカガリが泣き出すのではないかと、内心慌てた。
カガリは俺が渡した手紙を丁寧に元通りに戻し、俺にそっと差し出した。
それを受け取ってしまったらカガリが行ってしまうような気がして…身動きできなかった。
手紙から目を逸らして俯く俺にカガリは痺れを切らしてか、少し眉を吊り上げた。
「ほら、受け取れよ。これって立派な証拠になりそうじゃないか?」
そう言って手紙を軽く揺らす。
そのカガリの言葉にまだ見捨てられてない事を悟った俺は、
漸くその手紙を受け取った。
「だいたい今聞いた条件なら、絶対私の身内じゃないよ。
最初からちゃんと話してくれればよかったのに…」
再びしゃがみこんでカガリは俺を恨めしそうに見つめてきた。
訳がわからずに少しだけ首を傾けると、カガリは大きなため息をついた。
「うちの親族の中でここに在学した事があるのは、私だけだ」
その言葉に俺は信じられない思いでカガリを見た。
この学園の教諭は殆どがここの在校生だからだ。
「本当だぞ。父もここの卒業生じゃないし、他の親族もだ。
私達はもともとこの地区の出身じゃないんだ。ここよりもっと西の──小さな島が出身地だ。
図書室に行って卒業名簿ででも調べてみればすぐ判る事だ。それに──」
カガリは一旦言葉を切って、少し言い辛そうに尋ねてきた。
「──お前のお母さん、亡くなったのはいつだ?」
「…俺が、中学の時に」
俺がそう答えると、カガリはホッと軽く息をはいた。
「じゃあ当時私も中学生だ。つまり──私はこの学園には在学していない。
つまり、お前が言った条件には当てはまらない、という事になる。
お前のお父さんの調べが正しければ、だけど」
──俺は、犯人がカガリに関係する人物でないのが判って嬉しいのだろうか…
それとも、犯人に近づけたと思ったのがまた遠ざかり、悲しいのだろうか…
「…私も手伝うよ、犯人捜し」
突然思いがけない言葉が耳に届き、俺はカガリをまじまじと見つめた。
「お前が私の、私の身内の無実を信じてくれるなら、だけど」
カガリは少し頼りなげな笑みを見せた。
「いや、手伝いはいい」
俺は俯いたまま小さく首を振った。
「…やっぱり、信じてもらえないんだな…」
「違う!」
思わず顔を上げると悲しげな表情のカガリと目が合ったが、
いたたまれなくなってすぐに眼を逸らした。
「今更だけど…カガリを巻き込みたくない」
俺の発言の後、暫く沈黙が続き、そして──
「本当に今更、だな!」
いきなり俺の両肩に力がかかった。
カガリが俺の正面に回り込み、がっしり肩を掴んでいたのだ。
「私の父は教頭なんだぞ!だったらそれを利用しない手はないじゃないか!」
「利用だなんて、そんな──!」
「私を信じてくれたんなら、私を巻き込めるはずだ」
「巻き込めるはずないじゃないか──!信じるとか信じないの問題じゃない!」
「いいや!アスランは結局私を信じてないんだよ!昨日今日会ったばかりの人間を
信じられないのかもしれないけど!
でも私は1人ででも絶対犯人を捜し出してみせるから!」
いつの間にかカガリの顔は笑顔だった。
俺の肩から一旦手を離し、軽くポンと触れて
俺から離れようとする──
「待てって!」
俺は反射的にカガリの腕を掴み、引き戻した。
「もう話は済んだだろ?離せって」
「済んでない!」
突然の俺の大声にカガリは目を丸くして固まった。
「──信じてるから…だから、1人で危険な事は、しないでくれ…」
カガリの腕を掴む手にますます力を込めて、俯き目を閉じて祈るように懇願する。
「…じゃ、一緒に捜すか?」
「…ほとんど脅迫だな…」
「一緒に捜すのか?捜さないのか?どうなんだよ!」
俺は覚悟を決めて、ゆっくり顔を上げた。カガリの好奇心に溢れた瞳が見えた。
何の穢れも知らない、何者をも恐れない、強い瞳だった。
何故この娘を一時でも疑えたのだろう──俺は何て、バカだったんだろう。
自分のバカさ加減に自然と笑みが浮かんできた。
そのまま右手をカガリに差し出した。
「…よろしく」
「ん!」
俺の差し出した手には温かみは訪れず、
突然鈍い痛みと共に俺の目の前に星がちかちかした。
カガリが俺に頭突きを食らわせてきたのだった。
俺が額を押さえて恨みがましくカガリを見上げれば、カガリは悪戯っぽく笑った。
「疑われて凄いショックだったんだからな!これくらい当然だろ?」
「…悪かった。もう二度と疑ったりしないから…」
もう、二度と──
あとがき
長くなりました。そしてお待たせしました。
ちょっとまた後で書き直すかもしれませんが、とりあえずこれで。
アスラン、ぐるぐるしてしまいました。