唇はチョコの味
─バレンタイン2日前─
アスランと喧嘩した。
きっかけは些細な事だったと思う。ムカついて思い出せないけど…
ここのところアスランの機嫌が良くなかった事が原因だ、と思う。
いつもよりぶっきらぼうな態度に私が1人で勝手に怒って…
とにかく。明後日はバレンタインだし。
ここで一発手作りチョコでも作って、仲直り、できれば、いいな…
─バレンタイン前日─
お仕事の帰り、たまたま繁華街を通りかかった時。
信号待ちの車の中から、印象的な金色の髪の少女が一軒のお店から出てくる所を見た。
その少女は私のお友達で、普段ならあのような煌びやかな店から出てくるなど考えられない少女だ。
彼女の表情は蕩けそうな位満面の笑みで、心なしか頬まで染めている。
大事そうにかわいい花柄の紙袋を抱え、スキップしそうな勢いで自分の目の前の信号を渡っていった。
今晩はこの冬一番の寒さだと言われているのにもかかわらず、
彼女の周りだけ春爛漫であるかのようだ。
きっと彼女を知る、例えば学園の者が今の彼女を見たら…
なかなか面白そうな光景が拝めそうですわ、と自然と口元に笑みが浮かぶ。
しかし…と明日の事を考えると、笑っている場合でもない事かもしれない。
今の彼女の顔が悲しみに沈んでしまう事だけは…と、彼女は運転手に行き先の変更を告げ、
もう遠くに行ってしまった背中をじっと見つめた。
─バレンタイン当日
カーテンを開けると、そこは雪国だった。
自転車通学のカガリは眩しそうに目を細めた後、思いっきり顔を顰める。
ただでさえ昨日はマーナと手作りチョコの特訓して、寝坊気味だというのに…
これでは今日自転車で通う事は無理だ。
いや、私は自転車でも別に構わないのだが、絶対マーナに止められる。
それに自転車で行ってもし転びでもして、アレが台無しになったら…
転ばない自信はあるが、万が一、ということもある。
カガリはひとつため息をついて、支度を始めるべくパジャマの裾を捲り上げた。
普段乗り慣れないバスの微妙な揺れに、いらいらした気分になってくる。
カガリの最寄のバス停は始発駅近いので、座ってはいるのだが、
後から乗ってきた学園の生徒でもういっぱいだった。
しかもうるさい。空気も悪い。
しかもこの雪。カガリがバスに乗り込んだのは予定時刻より10分遅れていた。
それからムカつくくらいのノロノロ運転。
こんな調子じゃ今日中に学校に着かないかも…などと、ありえない想像を巡らせ、
カガリはやはりバスでなく自転車で行けばよかった…と後悔でいっぱいだった。
「ねえねえ、今日チョコレート、持って来た?」
「勿論よ。でもこのバスの速度じゃ…彼に渡せるのはいつになるやら…」
カガリの隣に立ってずっとバスや雪の話をしていた女子学生の話題がバレンタインにうつった。
「じゃあ、義理チョコは?」
「ん〜、一応本命いるしね。今回はパス」
「アスラン君には渡さないの?」
突然出てきた自分の彼氏の名前に、カガリは思わず彼女達を見上げてしまいそうになった。
が、それは辛うじて抑え、その代わり耳をダンボにした。
「だって受け取ってもらえないじゃないの」
そうだ。私って存在がいるからな!
カガリは心の中で呟いたが、彼女がチョコを渡さない理由は別の所にあった。
「ああ、そうだったわよね。彼、去年もチョコ1コも受け取らなかったし…
確かラクスさまからも、って聞いたけど…」
えっ──?
アスランとラクスは去年の今頃はまだ婚約中だった筈だけと…
何故?なぜアスランはチョコを受け取らなかったんだ──?
仲が悪かったわけでもない筈だし…
少女達は少し辺りを見回して声を潜める。
「ほら、アスラン君って2年前のバレンタインにお母さんを亡くしてるでしょ?
去年のこの時期は普段無口なのが更に無口になっちゃって…
それでも果敢にチョコ渡そうとしてた娘がいたけど…冷たくあしらわれちゃってさ…
あれは流石に可哀相だったけど…仕方ないんじゃない?」
まだ少女達は何かボソボソと話していたが、カガリの耳にはもうどんな音も入ってはいなかった。
…アスランのお母さんが亡くなってる事は、知ってる。
でも…命日が今日だったなんて…知らなかった──
だからアスランは最近様子が変だったんだ──
なのに、私っでは浮かれてこんなモンを…
カガリは膝の上に置いた鞄をギュッと抱きしめた。
今日は久しぶりに車で送ってもらった。
早めに家を出たので何とか遅刻せずに、いつもの時間に学校に着いた。
最近のどよっとした自分の心に喝をいれつつ、滑らないように気をつけて歩きながら、
昨日カガリの顔を見ていない事を思い出す。
一昨日何故か急に怒り出したまま会っていない。今日あたり機嫌が直っているといいんだが…
と微笑する。
今日はこんな天候だが、カガリはそれでも自転車通学するのだろうか、
アイツなら自転車だろうな、転んでなきゃいいけど…と
いつの間にか頭はカガリの事でいっぱいだった。
漸く辿り着いた下足室だったが、妙に騒がしい事に気が付く。
何事だろうとひょっこり顔を覗かせると、俺の靴箱の前でラクスがじっと立っていた。
カリスマアイドルであり、歌姫でもあるラクスの久々の登校に
集まった者は握手を求める者、サインを頼む者、遠くから歓声をあげる者、様々だった。
しかし…あんな所に立っていられたら困るんだが…とアスランが立ち尽くしていると
ラクスが俺に気付いた。そうしてにっこり微笑む。
「アスラン」
その声に下足室にいた生徒すべてが俺の方を見る。
俺はその多数の瞳にたじろぎながら、それでもそんな顔ひとつ見せたりしない。
何故かラクスは俺の靴箱の前から移動する気は全くないらしい。
仕方なく俺はラクスの側まで行くしかなかった。
「今日はこれをお渡ししたくて待ってましたの」
そう言って鞄から取り出したのは、綺麗に包装されリボンを施された手のひらサイズの…
周りの観衆は皆が皆、言葉を失い固まった。
シン…と静まり返った下足室。
皆が息を呑む中、俺はひとつ息をはいて告げた。
「申し訳ありませんが、これは…」
「受け取らないときっと後悔しますわよ」
俺の断りを遮るように、ラクスはふんわりした口調で告げた。
しかしその声には何故か拒否できない強さも持ちあわせていて…
さっきより大きなため息をつき、俺は渋々それを受け取った。
「ありがとうございます」
「…いいえ、こちらこそ。靴を履き替えたいので少し横に移動してもらえませんか?」
「あら、ごめんなさい」
ラクスはそう言って少し横にずれ、それでも俺の動作をじっと観察している。
どうも、やりづらい。
「アスラン」
上履きに履き替えた俺は、目線だけで先を促した。
「その包み…できるだけ早く開封した方がよろしいですわよ」
それだけ言うと彼女は校舎には入らず、そのまま銀世界が広がる風の中へと消えていった。
ようやく学校に着いた時にはもうすでに11時を回っていた。
カガリはバス内で立っていた生徒が全て降りてからゆっくりバスを出た。
朝、あんなに眩しかった一面の白は通行人に踏み荒らされて、既に黒ずんでベトベトだ。
──まるで、私の心のようだ──とカガリは肺に溜まった澱んだ空気を残さず吐き出した。
大して好きでもない授業を学園公認でサボれたというのに、
そしてもうすぐ大好きな昼食時間だというのに、
もう既に雪も止み青空が一面に広がっているというのに、カガリの心はちっとも晴れない。
とにかく──もうすぐ昼食時間だ。
カガリは教室へは行かず、食堂で彼を待つ事にした。
大勢の生徒が食堂に駆け込んできた。
今からここは戦場になる。
食堂の入り口を注意深く見張っていたカガリだが、無事目的の人物を見つける事ができた。
「キラ!」
カガリは椅子から立ち上がり、大きく手を振る。
呼ばれた少年もにっこり笑って手を振り返してきた。
そして後ろから来た友達に背中を押され、キラは戦場の中へと巻き込まれていった。
「アスランのお母さんがバレンタインに…そうだったのか…僕も知らなかったよ」
キラは申し訳なさそうにカガリを見た。
「あら、知らなかったの?」
キラの隣に座っていたフレイが突然会話に加わってきた。
「だって、中学の時はアスランとは音信不通だったし…その時の事だったら僕にはわからないよ。
ていうか、フレイは知ってたの?」
「当然じゃない」
フレイは得意げに言った。
「何でお前がそんな事知ってるんだよ」
自分の知らない事を何でフレイが…カガリは怒った口調ながら、心の中ではかなり落ち込んだ。
「私の“いい男チェック”を甘くみないでよね」
「お前にはサイがいるだろうが!」
そのサイはフレイの隣で苦笑いを零している。
「いいじゃない!チェックくらいしたって!」
フレイは怒鳴るカガリを無視してプリプリしながらサラダを口に運びだした。
カガリもフンッとそっぽを向いて食事に専念する。
間に挟まれたキラは、はははは…と乾いた笑いを零しながら
「でも、カガリからのチョコはきっと受け取ってもらえるよ」
とカガリの肩にポンと触れた。
「そうよ、もうきっと大丈夫だと思うわよ」
フレイは再びカガリを見て言った。
「2人とも、何の根拠があってそんな無責任な事、言うんだよ」
カガリはますますムッとしながらキラとフレイを交互に見た。
それに対してキラはえっと…と目を泳がせていたが、フレイは自信満々でこう言った。
「ラクスからのチョコは受け取ったらしいから、今日」
その場にいた他の3人が三者三様の表情でフレイに視線を向けた。
「何、みんな知らないの?学園中で凄い噂になってるわよ。
仕事に向かう途中のラクスがわざわざここに寄ってアスランに渡してた…って。
しかも公衆の面前で」
3人の微妙な視線に気づきもせず、尚もフレイは話を続けた。
「だからカガリだって受け取ってもらえるわよ。仮にも彼女なんでしょ?あんた」
「あ…カガリ…!」
キラの呼び声にも振り向かず、カガリは食事を残したまま食堂を飛び出して行った。
「どうしてカガリにあんな事いっちゃうのさ?」
「だって、本当の事じゃない」
咄嗟の事にカガリを追う事ができず、僕らは自分の食事を済ませて教室に戻る所だった。
納得いかない様子で僕に言い返してくるフレイだが、心なしか言葉にいつもの勢いがない。
彼女は彼女なりに反省しているみたいだ。
僕は微笑みかけながら
「カガリに会ったら、謝ってね」
と言うと、フレイは僕から視線を逸らしながらも小さく頷いた。
それを確認して校舎に入ろうとして…彼とこの学園で最初に会った木陰に
見覚えのある姿を見つけた。
「アスラン!」
僕の声に少しビクッとしてその人物はこちらに姿をあらわす。
その時彼は手に持っていたメモのような物をポケットにしまった。
「やあ…キラ」
「やあ、じゃないよ!アスラン」
「何が?」
アスランは怪訝そうな顔を僕に向けてくる。
僕がそれに答える前に、フレイが前に進み出てアスランを睨みあげた。
「あなた、いつもバレンタインのチョコ、受け取らなかったんでしょ?
なのに何で今回は受け取ったの?」
「え…受け取ってないけど」
「嘘言わないでよ!あんなに派手にやらかしといて!」
そのまま言わなくてもいい事まで喋りだしそうなフレイをサイに預けて、
キラはアスランに向き合った。
「カガリ、今学校に着いたんだけど、何だか色々誤解しててさ。
食事も途中なのに飛び出して行っちゃったんだ。アスラン、会わなかった?」
「いや、昨日から会ってないけど…何?誤解って…?」
「そんな事、自分で考えなさいよ!」
後ろでサイに肩を押さえ込まれたフレイが叫んだ。
キラもアスランも呆然として、フレイを見つめる。
「カガリは自分のチョコは受け取ってもらえないって思ってんのよ!
元カノのラクスのチョコは受け取るのに──ってね!」
「何で──そんな事…」
呆然としたままのアスランに、フレイは尚も言い募る。
「カガリはバカだからね!ほーんと、バカ!」
それだけ言うとフレイはサイの腕を振り切り、校舎へと走って行った。
残された男3人は…顔を見あわせた。
フレイも一応は責任を感じてああいう事を言ったんだろうけど…
「キラ」
アスランは僕の肩に手を置いた。
「何?」
「昼休みにカガリをここに連れて来てくれ」
アスランの手に力がこもる。
「…わかった」
僕はアスランに微笑み、それを合図にそれぞれの教室へと戻って行った。
4時間目のチャイムが鳴り、俺はキラとの待ち合わせ場所に急いだ。
授業中、俺はずっと考えていた。
カガリが何故俺がチョコを受け取らないと思い込んでいるのかがわからない。
ラクスからのチョコを俺が受け取ったとしても──
それと俺がカガリからのチョコを受け取らない事は何の関係もないような気がするんだが──
今更俺とラクスの仲をカガリが疑っているとは思えないし…
アスランには授業の内容よりも難解な問題だった。
「キラ!」
約束の場所へ向かった俺を待っていたのは、キラ1人だった。
「カガリは?」
「…さっきの授業には出てなかった…って」
キラの沈んだ言葉に落胆しながら、しかし、ここでこうしていても仕方ない、と
キラの肩に手を置いた。
「悪かったな。今から捜してみるから」
「僕も手伝うよ!」
「いや、いい。心当たりの場所が2,3あるから」
もしそこにいなかったら…とも思ったが、その時はその時だ。
「もしカガリを見かけたら…」
「わかった。知らせるから」
キラは俺を力つけるように頷き、校舎に戻って行った。
まず俺は生徒会室に行った。
勢いよくドアを開けると、そこではイザークとディアッカが食事を摂っていた。
「お前!びっくりするだろうが!」
「何なのさ、一体…」
そのまま文句が続きそうな2人の言葉を遮って俺は尋ねた。
「カガリは?」
「あぁ!?知らん!」
「俺達しかいない所にあの娘が来るワケないでしょ?」
確かにそうだ。そして匿っている様子もなさそうだ。
俺はそのまま力任せにドアを閉め、廊下を走り出した。大きな音が辺りに響く。
「お前!なんだ!そのドアの閉め方は!」
背中でイザークの叫び声が聞こえたが、
その時俺は次の場所への最短距離の事しか頭になかった。
カガリは必死に涙を堪えながら、しゃがみこんで部室の壁にもたれていた。
ここの雪はまだ校舎の影になっている場所が多く、人通りも少ないからか足跡も少ない。
綺麗な白が今のカガリには眩しかった。
長い時間いつも全く考えない事をボーッと考えていると、いろいろ自分の反省点が見えてきた。
一昨日だって──アスランの様子がおかしいと感じていながら、
私はただひとりで怒っていただけだった。
何故おかしかったのか、そこまで考えてあげられなかった。
なのに私ってば浮かれて昨日もずっと今日のバレンタインの事ばかり考えてた。
その日がアスランにとってどんなに辛い日なのかも考えず…
出会ってもうすぐ1年になるのに『知らなかった』なんてただの言い訳だ。
しかも私達はただの知り合い、というわけではないというのに…
そこまで考えて、カガリは今までに何度か訪れた涙の海と戦っていた。
泣かない、泣かない──!
ラクスのチョコを受け取った、という事は、もうアスランの中で
母親の事は昇華できている事なのかもしれない、と思いながらも
一昨日のあの日に私はもう呆れられてしまったのかもしれない、とも思う。
というか、きっとそうだ。
だって昨日、彼からの連絡はなかったし…
彼氏の辛い気持ちを読み取ることも出来ない私に、きっと愛想をつかしたんだ…
カガリは鞄を開け、自分の作ったチョコを取り出した。
初めて作ったものだから、形は少し…いや、かならいびつだが、
味はマーナからも太鼓判を押された。
カガリは鼻をズズッと啜りながら、自分でラッピングしたチョコの包装をビリッと破いた。
中から出てきたのは、何の形なのかよくわらかないチョコ。
カガリはそれをひとつ取り出して、口に放り込んだ。
苦い甘みが口の中に広がった。
カガリはゆっくりそれを咀嚼した。途中から何故かしょっぱい味も加わりながら、
昼食を途中で放り出してきたカガリは次々とそれを口に入れていった。
あと1個──
カガリはそれを見つめてじっとしていた。
これを食べてしまえば、もう本当にアスランにチョコをプレゼントできない。
本当に、それでいいのか──?
私はアスランから何の言葉も聞いていない。
全部周りの言葉だ。
それを信じただけで、これを渡そうともしないで…本当に、いいのか──?
私は包装の破れた部分からチョコが転げ落ちてしまわないように
ギュッと包装紙を捻った。
それをもう一度鞄にしまいこみ、立ち上がって校舎へ向かおうとして──
アスランと目が合った。
「…アスラン」
「…それ、全部食べられたらどうしようかと思った」
「お前…いつから…」
アスランはカガリの肩を押して、もう一度そこに座るよう促した。
アスラン自身もカガリの横に腰を下ろした。
アスランは黙って目の前の銀世界を見つめている。
その横顔はとても落ち着いたもので、カガリは逆に不安になった。
「…お前、チョコ、いらなかったんだろ?」
おそるおそる、その横顔に尋ねると
「何で?」
と逆に問われた。
「何で、って…『バレンタイン』なんて、嫌いだろ?」
直接母親の事を尋ねる事は憚られ、カガリは曖昧な言い方しか出来なかった。
それでもアスランには伝わったようだ。
「俺、そんな事言ってないよね?誰から聞いた…?」
「誰って…いろいろ」
「そう…」
それきりまた黙りこんでしまったアスランに、ますますカガリは不安になる。
何か喋ってないと…全てを訊いて、安心したかった。
「一昨日、喧嘩したろ?」
「…あれ、喧嘩だったのか?」
アスランが少し驚いた顔をして、やっとこちらを向いた。
アスランが少し首を動かしただけなのに、それだけでカガリはひどく安心できた。
「…私が1人で怒ってた、のかな…」
「そうだろ」
アスランは可笑しそうにクスッと笑った。
「ラクスからのチョコ、受け取ったって…お前は誰からも受け取らないって聞いたから、私…」
こんな事言うと、妬いてる、と思われるのがイヤだったが、
気になっているのだから仕方がない。
「受け取ってないよ」
「だって!フレイが…」
アスランは自分の制服のポケットから小さな紙切れを出した。それを私に差し出す。
「読んで」
そのメモには綺麗な文字が規則正しく並んでいた。
“カガリさんがチョコを用意しているようです。
強情張らずにちゃんと受け取ってあげて下さいね。”
「あの人も結構お節介だよな。ラクスに言われなくても、俺は…
しかもこれを公衆の面前でチョコと勘違いするような包装で渡してくるものだから…」
「…ラクスなら、やりそう。でも…私はいい友達を持ったな、と思う」
そう言ってカガリはアスランに微笑んだ。
「で、チョコは?俺、貰えるんだろ?」
カガリからラクスのメモを受け取って、アスランは悪戯っぽく笑った。
「え…」
そりゃ渡そうと思って1個残ったものを鞄に忍ばせている。
でも…
「あの…形もいびつだし、あ、味はまぁまぁなんだけど、でも包装はビリビリに破いちゃったし…」
「くれるんだろ?」
いつまでも続きそうなカガリの言い訳を遮り、アスランは右手を差し出してきた。
…もともとそのつもりだったし…覚悟を決めよう!
とカガリは鞄から
最初よりかなり縮んだそのチョコの入った袋…というより包み紙をアスランに手渡した。
「今からいただくよ」
そう言うとアスランは受け取ったチョコを自分のポケットにつっこんだ。
カガリが不思議に思う間もなかった。
アスランはカガリの両肩を掴み、顔を近づけ唇を重ねてきた。
それに驚く暇を与えられる事なくカガリの唇を割ってアスランの舌が侵入してきた。
それは思う存分口内を蹂躙し、カガリの舌を絡め取る。
そうして幾度か角度を変え、それでもまだ唇は離されない。
この時が永遠に続くかと思われたその時──
無情にも、冬の澄みわたった空に予鈴が鳴り響く。
名残惜しそうにアスランはやっと唇を離した。
しかしまだ顔は近づけたまま一言。
「ごちそうさま。チョコ、おいしかった」
途端にカガリの顔が真っ赤になる。ボンッという音が聞こえてそうだ。
「ア、ア、ア、アス…ラン──!」
「じゃあ、また後でな」
さっきのキスの相手と同一人物とは思えない位爽やかな笑顔で
アスランは自分の校舎へと戻って行った。
子供のような笑顔で去っていった背中を見送りながら
カガリも鞄を手に持ち、呆れたように息を吐いた後、この場を立ち去った。
自分のサイトで連載中の「学生アスカガ」話のバレンタイン話でした。
これ1本だけでも読めるように心がけましたが…どうでしょうか?
思ったより長くなってしまいましたが、大丈夫でしょうか?
今回は素敵なイベントに参加できてうれしいです!
最後まで読んでいただきましてありがとうございました!
…これは1年前、バレンタインイベントに参加させていただいた時のあとがきです。
今回のあとがきは…
…全く書き直ししませんでした;本文。1年前のままです。
1年前のバレンタイン当時、サイトに全くラブラブな話がなかったので、こうムリヤリラブラブに…
この頃はチューさえロクに書けなかったです…
当時、バレンタインに甘いお話って想像できなくて(今もですが)学園モノならどうにかなるだろう!
とこのお話にとりかかりました。
この時期、忙しかったので、日曜日朝9〜15時までぶっ通しで書きましたよ…
早く50題でこのお話に続けたいですよ…ちゃんと続くのでしょうか?
昔読んだ事ある方には申し訳ない更新になりましたが…懐かしいでしょ?
読んだ事ない方、たくさんいらっしゃると思いますので(笑)
とにかく皆様に楽しんでいただけると嬉しいです。