祈り






本来今日、ここへは来るつもりはなかった。

俺は迎えを断り、15分程歩いてここへやって来た。

母が眠るこの場所へ──



母は俺が15の時、交通事故でこの世を去った。

母を轢いた犯人は捕まった──1度は。

しかし、裏でどんな取引があったのかは知らないが、そいつは無罪放免されたと聞いた。

父は憤慨し、いろんな手を使って必死で犯人を捜したらしい。

しかし…どこの誰だかは特定できなかった。

しかしたったひとつだけ、わかった事があった。

犯人は──GS学園の卒業生、又はその親族。そして──ナチュラル。

どうしてそんな事だけわかったのかはわからない。

しかし父はそう断言した。

俺はそれを信じるしかなかった。



墓地に続く階段をゆっくり降りて、一歩ずつ踏みしめながら母の元へと近づく。

母の墓前に立ち、じっと無機質な石碑を見つめる。



──ナチュラルは、憎むべき存在だ。

しかし──俺の知っているナチュラルは、憎めそうにない人物ばかりだった。

キラは俺の一番の友達だ。彼以外の友達など誰もいらない。そう思えるくらいの。

それに今日出会った彼女──

自分で『中立』だと言って校章を黄色に塗ってみたり──



思わず笑みが零れそうになるのを、必死で胸の奥にしまいこむ。

2人とも俺の周りにいるコーディネイターよりよっぽど好感が持てる。

だが『ナチュラル』というだけで、俺は彼らと馴れ合うことは出来ない。…しない。

キラはこれから何度でも説得してこっち側の人間になってもらう。

彼女は──今日会ったばかりで、よくわからない人間だ。

明日からもう会う事もないだろう。

その決意を固める為に、今日俺はここへ来た。



ゆっくりしゃがみこんで、買ってきた花束をそっと置いた。

日も傾き辺りは淡い赤に包まれている。

そんな暖かい色とは逆にまだ肌寒い風がやんわりと俺を包み込む。

キュッと目を閉じ、母から勇気をもらう。

必ず犯人を見つける。そしてナチュラルなど──認めない。

あの学園に入学してから決意した事を改めて反芻する。



そうしてゆっくりと目を開く。

その緑の瞳は新たな決意を湛え、冷たく燃えていた。

そうして立ち上がり、帰ろうと階段の方を見ると──



少し高い所にある国道のガードレール沿いに1人、自転車を降りてこちらを見ている人物がいた。

遠目からでもわかる、金の髪にGS学園の制服の──少女。あれは…





あれは──アスランだ。

遠目からでもわかった。何故だかはわからないが。

自宅に向かって寒い中必死で自転車をこいでいたカガリは、思わず足の動きを緩めてしまった。

そうしてゆっくり自転車は──止まった。

それなりに広い墓地が見渡せるこの国道。

そんな中に1人ポツンと人がいて、その人物はうちの学校の制服を着ている。



場所が場所だけに、見つからないうちにとっとと立ち去ろうと思っていた。

なのに──アスランはこっちを見た。見つけられてしまった。

私だと気付いていないかもしれない。でも──

私はこんな状況で、挨拶だけして立ち去る事も出来ないし、

ましてや気付かなかったフリをして素通りする事なんて、とてもじゃないけど出来ない。



────ああ…っ、もう!



カガリはなるべくガードレールに自転車を近づけて停め、

すぐ近くにあった階段に向かって走り出した。















あとがき
私の書くアスランは、どうしてこんなパラレルでもうじうじしているのでしょう…
それは私がへたれアスラン派だからでしょう。
今回この話が一番アスカガ色薄いですね。すみません。次回期待して下さい!
でも今回のお題「祈り」すっごい苦労しました。
普通の高校生が「祈り」って…別に祈らんでしょう…
だからといって軽い「祈り」にしたくなかったんですけど…
あんまり説得力のない「祈り」になってしまいました…精進します。