運命の出会い






「キラ」

…まただ。今日もこうやって彼は僕を待ち伏せしているのか…

呼ばれた少年は小さく息を吐きながら、一緒にいた友達を呼び止める。

「ごめん、先行ってて」

「え、またかよ。キラ、昨日もここで俺達と別れたよな」

「ごめん。すぐに追いつくから…」



キラ達『ナチュラル』は、3時間目と4時間目の間の20分休みに昼食を済ませるという 暗黙のルールがあった。

それでも実際はみんな10分程で昼食を済ませ、残りの10分間は移動や談笑で時間をつぶす。

キラ、トール、ミリアリア、サイ、そしてカズイの5人はこの時間、必ず食堂へ行く。

そこから教室へと戻る坂道で、物陰から自分を呼ぶ声がしたのだ。

その声は耳のいいキラにしか聞こえない絶妙の声量だった。



みんなを先に教室に戻した後、 キラはもう一つため息をついて周りに人がいない事を確かめ、昨日の木陰に声をかけた。

「…アスラン」

するとそこからゆっくりと濃紺の髪の少年が出てきた。



「キラ…今がチャンスなんだ。うちのクラスに欠員が出た。 今お前が試験を受けたらきっとお前は『コーディネイター』の仲間入りだ」

「もうそれは昨日聞いたよ。そして返事もした。僕は今のクラスを出るつもりはないんだ」

「どうしてだ!今のままでいても何のメリットもないじゃないか! 俺と同じクラスになれば、未来を約束されたようなものなんだぞ!」

「そんなのわかんないじゃないか!…もう授業も始まるし…行くよ」

「キラ…!」

まだ全然言い足りなさそうなアスランをその場に残し、僕は自分のクラスに戻って行った。


僕、キラ・ヤマトと彼、アスラン・ザラは小さい頃からの友達だ。

しかし小学校卒業後、中学は彼と離れ離れになってしまった。

そしてお互いがいる事を知らずにこのGS学園に入学したのだが…

実はアスランと同じ学校に通っていることを知ったのは、 入学してから1年経った昨日の事だった。



僕とアスランは学年は同じ2年生だが、クラスが違う。

僕は2−1、アスランは2−Aだ。

英字のクラスは特進クラス。そして数字のクラスは普通のクラスだ。

この学校は少し…いや、かなり変わっていて、 入学式の3日前に新入生全員が学力テストを行う。

そして2日間かけて特進クラス受け持ちの先生がそのテストを採点、 その後写真審査で自分達が受け持つ生徒、約70人を決定する。

その後普通クラスを受け持つ先生が残りの生徒をアルファベット順で6クラスに振り分けていく…

特進クラスと普通クラスに別れてしまうと、学園内で会うことはめったにない。

それで僕達は今まで会うことなく1年が過ぎたのだった。



それが昨日偶然ばったり会った。それが先ほどの木陰だったのだ。

アスランが僕と会って一番にした事、それは僕の校章を確認する事だった。

この学園では特進クラスの校章は赤、普通クラスは青と決められている。

アスランは僕の胸の青い校章を確認すると、大きなため息をついた。 そしてこう言ったのだ。

「お前が『ナチュラル』なんておかしい。何があったんだ?」

…確かに『何かあった』のだけど、それをアスランに言っても仕方がない。

苦笑しながら黙っていると、テストを勧められたのだ。



この学園では特進クラスに欠員が出ると、普通クラスから特進クラスに『昇格』する事ができる。

テストを申し出て、そのテストに合格すればいいのだが…

キラはそのテストを受ける気はさらさらなかった。

自分には今のクラスに友達がいる。その友達と別れてまで特進クラスに行こうとは思わない。

…アスランには悪いけど…







4時間目の授業を受けた後、アスランは昼食を食べる気になれなかった。

1人になりたくて、文化部の部室兼倉庫のある場所へと向かった。



そこは学園敷地内の外れにあった。

文化部は普通、教室で活動を行う。だが運動部と同様の部室も与えられていた。

しかしそこで活動を行うこともなく、殆ど倉庫と化していた。

倉庫といっても別にそこで保管しなければならないものもないので、滅多に人も訪れない。

校舎から少し離れているので、アスランは散歩がてらにそちらに向かってゆっくり歩いていった。



GS学園は山と海に囲まれた場所に位置している。

その山の斜面に沿うように建てられているので、敷地内は自然と坂道が多い。

緩やかな坂道を登りながら、 アスランは辺りに植えられた桜からはらはらと散っている花びらをぼんやりと目で追っていた。



キラはいつからあんなに聞き分けの悪い奴になったのだろう… アスランは小さくため息をついた。

昨日キラ自身が教えてくれた成績なら、テストを受けても間違いなく合格だろう。 写真審査もキラなら問題ない。

『ナチュラル』のままここで過ごしても何のメリットもない。 どうしてアイツはそれがわからない…!



坂のてっぺんまで上ったアスランは、1本の桜の木にもたれ掛かり、そっと目を閉じた。

だいたい何でアイツは入学時の試験で『コーディネイター』になれなかったのだろう──

どんなに考えてもさっぱりわからない。また明日キラに尋ねよう。 そう決意して教室に戻ろうと身体を起こしかけた、その時だった。



「あっれー?もしかして『コーディネイター』のエリートさんですかぁ?」

静かな時間に突然紛れ込んできた間の抜けた声にアスランはムッとしながら目を開けた。 だが表情はいたって冷静だ。

見れば制服をだらしなく着込んだ3人の男がニヤニヤしながらこちらにゆっくり迫ってきている。

──校章で確認するまでもない。こいつら『ナチュラル』だ。

あっと言う間にアスランの周りを3人で取り囲む。

「何してるのかしんないけどさぁ、ここは俺達の縄張りなの。 ここに居たいなら払うモン払ってもらわないとね〜」

緑の髪の男がそう言いながらひらひらと手のひらをアスランに向けてきた。

──本当に、バカだ。『ナチュラル』なんて。

俺は大げさにため息をついた。

全く怯む様子のない俺に、バカ3人の顔が醜く歪む。

「お前──俺達から逃げられると思ってるのか──?」

「こいつうざい」

「滅殺!」

…何なんだ、コイツらは…

一応バカ相手でも3対1だ。俺は凭れていた木から体をおこし、 相手をする為に軽く身構えた。

目の前の3人も面白そうにニヤニヤしながら身構え、間合いをとる。

その時、アスランの背後の桜が大きく揺れ、4人の姿を覆い隠すほどの花びらが舞い散った──



大量の花びらに囲まれて黒い影が落ちてきた。

逆光で何なのかはわからなかったが、人間だという事はわかった。

そして女、だという事も──

スカートらしき影が確認出来たからからなのだが──そんな事、在り得るだろうか──



「またお前達かっ!3対1なんて卑怯だぞ!それに弱い者いじめも良くない!」

「げっ!またお前かよ!」

落ちてきた影は俺を背に庇い、例の3人に向かって大声で怒鳴っている。

俺は『弱い』と言われた事にも気付かず、目の前の人間を見下ろした。



俺の鼻の位置辺りにある頭は金髪で、その肩までの髪は風にまかせて方々へ流れている。

そして幽かに桜の花の淡い香りがした。

身体全てのパーツが俺よりも一回り小さく、膝丈より少し短めのスカートをはいている。

…という事は女の子なんだろうけど、 怒鳴り声を聞いていたら変声期を迎えていない少年の声に聞こえなくもない。

口調も全然女の子らしくなく、もしかして女装癖のある少年かも…



などと暢気に考えている場合ではなかった。

オレンジ色の髪の男が何やら喚きながらこちらに突進して来た。

なのに目の前の人物はそれを避けるどころか俺を背中に庇いながら 自分から前へ突き進もうとしていた。

俺は小さく舌打ちしながら後ろから前に立つ少女の二の腕を掴んで横に退き、男の攻撃を避けた。



「何するんだよ!危ないだろ!」

勢いよく振り返ったそれは、紛れもなく少女だった。

この少女は俺を庇っていた筈なのに、今はその俺に苛立ちをぶつけている。

その意思の強そうな琥珀色の瞳に睨まれ、何故か俺は動けなくなった。
















あとがき
中途半端に終了。この後書くお題「背中合わせ」の事を考えてここで切りました。
…ということは、次の展開もうバレバレですよね…
しかし!次の「背中合わせ」には会話がバンバン!…の筈です、多分。
最初はSEED本編に合わせてアスキラでいきました。やっぱりSEEDはこうでないと…(偏見)
そして悪役3人組、誰かわかっていただけたでしょうか…
この学校の造りは一応私の通ってた高校がモデルです。
あくまで『造り』であって、『設定』じゃないですから!こんな学校ありえん!