3月14日──



カガリは仕事でアジア共和国の主要都市、東京に来ていた。

この国の案内役とオーブから共にやって来た護衛とで主要地を何ヶ所かまわって、

カガリ達一行は賑やかな街の一角に出た。

車の窓から外を覗くと、様々なネオンやディスプレイの文字が統一されている事に気がついた。



「あの…“ホワイトデー”って何?」

隣に座る護衛に尋ねてみたが、彼は黙って首を横に振った。

「ああ、ご存知…ないでしょうね」

カガリ達のやりとりを聞き、車の助手席に座っていた案内役の男が親しげに話しかけてきた。



この男は政府要人の息子だそうだ。

言葉こそ丁寧だが、最初から妙に馴れ馴れしい。カガリと年齢が近いせいでもあるのだろうが──

コイツを送り込んできた意図が見え見えすぎてカガリはうんざりしていた。

しかし“ホワイトデー”については気になったので、素直に尋ねてみようと口を開きかけたが、

向こうの方から勝手に続けて説明を始めた。



この辺りでは昔から2月14日のバレンタインデーに女の方から好きな男にチョコを贈る、 という風習があるようだ。

そこに目をつけた輩が1ヵ月後の3月14日、 今度は男から女へお返しをしなくてはならない。

それがホワイトデーの由来だそうだ。



説明してくれた男ににっこり微笑み礼を述べながらも、カガリは心の中で毒を吐きまくっていた。



バッカじゃないのか?そんなもん義務で貰って何が嬉しいんだ?



男はさらに頼みもしないのにバレンタインデーの義理チョコについての話に及んでいる。

たまに振り返ってはニヤニヤ(本人は“にこにこ”のつもりだろうが)している男が カガリはますます鬱陶しくなった。

社交辞令で熱心に話を聞いているフリをしているだけなのに、

それに気を良くした男は さらに調子に乗って話しかけてくる。



「そうだ!この辺りが気になるのでしたら、ちょっと立ち寄ってみませんか?」

その言葉にカガリはギョッとしたが、それと同時に隣の護衛もビクンと体を震わせていた。

その振動が伝わってきて思わず苦笑を漏らしかけつつ、カガリはその申し出を丁重に断った。



とにかくもう後はホテルに戻るだけなのだ。

居たくもない奴とこれ以上一緒に行動しなければならない理由など、カガリには全くない。



横に流れる街の喧騒を眺めていると漸く滞在先のホテルに到着した。

実をいえばここに到着するのはもっと遅い時間のはずだった。

が、とっととこの男と離れたいが為にカガリが滞在先の時間を短縮しまくった結果がこれだった。



うやうやしく開けられたドアから一歩、車を出るとビュンッと一際強い風が カガリ達の間を吹き抜けていった。

しかしそれは一瞬で今現在は無風、しかし現在の気温はかなり低いらしく、

カガリは自分の両肩を抱いてブルンと一度震えた。



「今日の夜は雪の予報が出てますからねぇ…」

案内役の男も自分の両肩を抱いて、小刻みに揺れていた。

自分が男と同じ行動を取っている事に気がついたカガリは、慌てて肩を包んでいた両腕を下ろす。

「雪…?この辺りは降るのですか?」

事前にこの辺りは比較的暖かい所だと聞いていたのに…

と思わずカガリは 話したくもないこの男に尋ねてしまった。

男は、ここでは寒いですから…と、カガリをホテルのロビーへと誘った。

その時、自分の腰に手を廻されそうになるのを察知したカガリは自分でスタスタと先に立って歩いた。



「もう春先ですし…ここは冬でも雪が降る事は少ないんですよ。 だが今日はかなり寒いし、すこしちらつくかもしれませんよ。 もし降ればきっと東京で見る雪はこれが最後でしょうね。 そう言えばカガリさんは雪を見たことがありますか?」

カガリの後ろを案内役だった男が付いてくる。

もう役目も終わったのだから ロビーまで来る必要はないと思うのだが…

内心イライラしつつも一応丁寧に答えてやる。

「ないです」



カガリはオーブの人間なのだから、見た事がないと思うのが当然だろう。

ここで『見た事がある』などと言おうものなら、どうせこの男の事だ。

『どこで?』とか『いつ?』とか訊いてくるに違いない。



「そうですか。今日ここで見られるといいですね」

そう言いながらカガリの前に出て立ち止まった男は、

おもむろに自分の上着のポケットから リボンのかかった小さな箱を取り出した。

そして「どうぞ」とカガリの前に差し出す。

「…何ですか、これは」

内心の苛立ちと動揺を隠して、カガリは静かに尋ねた。

男はにっこり微笑んで、さらにカガリに向かってその包みを突き出した。

「先程お話したでしょう?今日は“ホワイトデー”だと」

そう言って男はウィンクしてきた。

カガリは思いっきり顔を顰めそうになるのを何とか堪え、 少し困った表情に変化させた。

「でも1ヶ月前私は貴方に何もお渡ししていませんし…いただく理由がありません」

こんな言葉では撃退する事はできず、男は 更に顔の表面に笑顔を貼り付かせた。

「では、お近づきのしるしに…」

そう言いながら跪く。

カガリは驚きのあまり、というか気持ち悪くて後退りそうになるのを 必死で堪えながら、

頭の中では断る理由を必死で考えた。

「…失礼にあたるかもしれませんが、こうやって直接物をいただく事は出来ないのです。 その…私の立場上、いただく品が好意のある物ばかりではありませんので…」

男はあからさまに傷ついた顔をしたが、カガリは内心舌を出し、ザマーミロ!と叫んでいた。



「そうですか…それではこうしましょう。カガリさんの護衛の男にお渡しします。 それでこれが好意のみの品である事が確認できたら…カガリさんに受け取ってもらう、というのは」



…しつっこい。

しかしそれでコイツと離れられるならそれでいいか、と辺りを見回すと… いない。アイツは何処行ってるんだ!

こんなワケわからん男と私を2人きりにするなんて、護衛失格だ!失格!

そうカガリが憤慨していると、エレベーターの方から慌てて男が1人戻って来た。

──ったく、どこで油売ってたんだ!

案内役だった男は護衛の姿を見つけてそちらに歩み寄り、カガリの護衛の手を取ると 小さな包みを握りこませた。

「じゃ、頼んだよ。それではカガリさん、また」



本人にしてみたら極上であろう笑顔をカガリに飛ばして、そいつは軽快に去っていった。

カガリはこのホテルの玄関先に塩を撒きたい気持ちでいっぱいだった。



さて…一言文句を言ってやろうと自分の護衛を見ると、状況が飲み込めていないようで 呆然としたまま立ち尽くしている。

カガリは息をすーっと吸い込み、思いっきり怒鳴ってやった。

「護衛失格!」

そのままそいつの脇をすり抜けエレベーターに向かうと、男も慌ててついてきた。

「これ、何だ?」

『失格』という言葉は全く意に介していないようで、護衛の男は渡された包みの事のみ尋ねてきた。

2人で降りてきたエレベーターに乗り込むと、カガリはエレベーターのドアが閉まると同時に 怒鳴り散らした。

「ホワイトデーのプレゼントだそうだ!ありがたく受け取っとけ!」

「え…」

「お前にやる!もうそのモノの事に関しては訊くな!」

カガリはそれだけ言うと、もう口を開かない覚悟で男に背を向け黙り込んだ。

男にもそれは伝わったようで とりあえず中身を確認する為か、ガサガサ音を立てて貰った包みを開封したようだ。

「おい、これ…」

「いらん!やる!」

戸惑いがちに尋ねてくる男にカガリは再度言い放つと観念したようで、

しばらくガサガサさせていたがやがてポケットにしまったのだろう、

その音は止んだ。



ようやく最上階まで辿り着くと、2人はエレベーターを降りた。



カガリはこのホテルのスウィートルームに2日前から宿泊していた。

部屋に入ろうとするカガリに一緒にここまで来た男は軽く腕を掴み、カガリを引き止めた。

「部屋に入ったらすぐ屋上に行ってみろ。ささやかだがホワイトデーの贈り物がある」



“ホワイトデー”

カガリはその言葉に過敏に反応した。

男を振り返り、イヤそうな顔を向ける。

「…お前にバレンタインのチョコをやった記憶はないんだが…?」

男は苦笑して自分の上着のポケットから無造作に何かを取り出した。

それはシンプルなデザインのプラチナのネックレスだった。

「これのお返しだと思え」

カガリはつまらなそうにそれを一瞥すると、再び部屋の方に身体を向けひらひらと手を振った。

「わかった。プレゼントサンキュ。おやすみ」

眠るには全然早い時間だが、カガリは気持ちのこもっていない礼と挨拶を残し、部屋の中へ消えた。



この部屋の内部に屋上に続く階段がある事は、カガリも承知していた。

しかし、東京の景色が一望出来るとわかっていても、 この寒いのにわざわざ屋上に行く気には到底なれなかった。



全く行く気はない…のだが、まあわざわざプレゼントを用意してくれているのであれば

さっさと上がってちょっと景色を見て戻ってくれば5分で終わる。

後は熱いシャワーでも浴びて、ゆっくり過ごせばいい… そう考えた。

そういえばオーブでもここでも、忙しくて最近いつも深夜まで執務に明け暮れていた。

今日くらいゆっくり過ごしてもいいよな…そう考えると少し気が楽になる。

そうと決まれば用事はとっとと済ませようと椅子にかけてあったベージュのショールを羽織り、

屋上へと続く階段に足をかけた。



屋上の手前にあるドアは、サンルーフのようになっているが、 向こう側は磨りガラスに隠されて見えない。

が、うっすら夕陽が射しているようで、その窓は淡いオレンジに染まっていた。

あったかそうな色だが、きっとここを開けると寒いんだ…と カガリはウンザリした気分になる。

ああ、もう、とっとと済ませて──



ゆっくりドアを開けると、ドアのすぐ横の壁によっかかって──アスランが立っていた。

こんな所にいる筈のない人間の姿を見て、カガリは階段から転げ落ちそうな位びっくりした。

が、グッと踏ん張りそれは免れた。

それより、そんな事より!



「お前──!寒いだろ!大丈夫か!?」

カガリは大慌てで駆け寄り、

自分の肩にかかったショールを そのまま抱きしめるような形でアスランの肩にかけ、

冷たくなっいてるだろう頬や手に触れた──

が、 カガリが思ったほどその肌は冷えてはいなかった。

「大丈夫だよ。さっき来たばかりだし」

そう言いながらアスランは嬉しそうに微笑み、カガリの背に手をまわす。

「でもここ、普通入れない…あ」

「そ。彼に入れてもらった」



あの不愉快な男とカガリがロビーで無意味な会話を繰り広げていた時、

アイツはアスランをここに連れて来てたんだ──じゃあ…

「アスランは私がここに来てるってわかってて…」

「そう。俺も昨日までこの近くで用事があって。今は休暇中なんだけど、 14日はカガリがオーブにいないって知って…カガリがいないのにオーブに行っても仕方ないだろ?」

──いつもいつも。こっちが聞いてて恥ずかしくなるような事を、コイツは平気で言うんだから …ったく。

「それでここに来たってわけか。まるでストーカーだな」

きつい言葉を吐いてはいるが、カガリは嬉しくてたまらない。 アスランの手を握るのに自然と力がこもる。

アスランはカガリの言葉に微苦笑しながらも、それで──と続ける。

「それでこの地域の事を調べてみたら、ちょっと面白い事がわかったんだ」

そう言いながら右手だけをカガリから離して

ポケットから綺麗にラッピングされた 水玉模様の紙袋を取り出し、カガリに手渡した。

「これ、ホワイトデーの」

「お前もか」

カガリは大げさにため息をついてみせた。

アスランは不思議そうに首を傾げる。

「“お前もか”って?」

「いや、こっちの話。それよりこれ…私もこの地域の風習は聞いたが、それって バレンタインデーのお返しだろ?私はアスランに何もあげてないぞ?」



先程と違って今回は受け取る気は満々なのだが、

アスランがどう切り返してくるのか興味があって カガリは意地悪く訊いてみた。

なのにアスランは当然のように答えた。

「もらったよ、カガリから、バレンタインに」



今度はカガリが目を丸くする番だった。

確かに丁度1ヶ月前、私はプラントへ行ったけど…アスランに何か物をあげた覚えはなかった。

だいたいそんな行事がある事さえ今日初めて知ったのだ。

「そんな見え透いた嘘つくなよ…何もあげてないのは私が一番知って…」

「もらったよ」

カガリの言葉を遮ってなおもアスランは言い張る。そうしてふわりとカガリを包み込んだ。

カガリはわけがわからず全くもう…と微苦笑を浮かべながらもアスランを抱きしめ返した。



「あげてない、って言ってるのに…じゃあ、このプレゼントは“出会ってから一周年記念” ってことで、もらっとく」

そんなカガリの言葉にアスランはくすっと可笑しそうに笑って「うん…」と呟いた。



別にカガリとしては理由はどっちでもいいのだが、 どうせならもらう理由がはっきりしている方がいい。

でもそうなると、カガリからは何の記念プレゼントもない事になるのだが…



カガリはアスランの背中から腕を解き、少し離れてそれを伝えた。

しかしそれにもアスランは

「もうもらったよ」

と、ただくすくす笑っている。



「またお前は…!私、何にもアスランにあげてないじゃないか!」

必死で訴えるカガリにアスランは首を傾けて囁いた。



「メッセージ、貰ったし」



あれは“物”じゃないし…と反論しようとするカガリを遮るように、 アスランは申し訳なさそうに言葉を続けた。

「あれを読むまで俺、ちっとも気付いてなかったんだ。実は」

意外な告白にカガリは目を丸くした。

「え…だって、お前…」

「だから。あのメッセージは立派にプレゼントだと思うよ?だってあれがなければ このプレゼントだってなかったかもしれないんだから」

アスランはそう言ってカガリの手にしっかり握られた自分の贈り物を指差す。

カガリはしばらく呆然と言葉を失くしたままだったが、

やがて自分のおでこをアスランの胸にコツンとあてて「ばか…」と呟いた。



西の空が濃いオレンジに照らされる中、2人は肩を寄せ合って東京の風景を眺めていた。

この近辺では一番背の高い建物なので、視界を遮る物もない。 だがやはり風は強い。

一応壁で風を遮る場所を選んでここにいるのだが、緩やかな、でも冷たい風が2人を掠めていく。

しかし2人が触れ合っている箇所はあたたかく、その熱はじんわりと2人の全身を伝っている。



カガリはふと気付き、手に持ったままの包みをひらひらさせた。

「これ、開けてもいいか?」

「どうぞ」

アスランはカガリの肩の上に手を置き、ショールが飛ばないように押えていた。

と、その手の甲に冷たい感触がひとつ、ふたつ…



「あ…雨?」

アスランが空を見上げるのを察知したカガリは、自分もそれに倣う。

いや、違う──雪?

「この辺では滅多に降らないって聞いたのにな…」



次々と空から舞い降りる綿毛のような雪を、2人は鉛色の空を背景にしてしばし見つめていた。

そうしていると、カガリの頭にぽすんと何かが置かれた。

見るとアスランが肩にかけていたショールをカガリの頭に被せてきたのだ。

カガリは礼の意味をこめて、無言のまま微笑む。

そのまま2人して微笑みあっていだが、ふと、カガリは遠くの景色に目をやった。



「なぁ、見て、アスラン」

カガリはずっと遠くの空を指差した。

「ここの真上は真っ暗なのに、あの辺りはまだ夕陽の色だ。でも雪が降ってる…」

「ああ…本当だな。ここは雪だけど、きっと──もっと西の方は降ってないんだな」

「きれいだな…」

2人は飽きる事なく遠くの夕焼けを背景に、ふわふわと舞う白い雪をずっと見つめていた。



「あ、これ…」

カガリはさっき開けようとして結局開けずにいる包みに目をやり、

今度こそカガリはその包みを丁寧に開けていった。

そして中から出てきたものは──



「これも雪、だな」

ふわふわとした白いかたまりが、透明の袋にラッピングされている。

「マシマロだよ…ちょっと貸して」

カガリは素直にその袋をアスランに渡した。それを開けて1つ取り出し、 カガリの口の前まで持ってきて微笑む。

カガリは黙って目を閉じ、マシマロが丁度おさまる位の大きさで口を開けた。

ほいっと放り込まれたマシマロは甘く、口の中でしゅわしゅわ蕩けるような不思議な感触で カガリを包んだ。

ゆっくり噛んでみるととけかけたマシマロの中から甘酸っぱい香りが広がった。

「あ、中に何か…」

カガリはアスランが持っている袋の中からマシマロを取り出すと それをゆっくり2つに割ってみた。

すると中からとろんとしたオレンジ色のジャムが顔を出す。

「ママレード?」

アスランの顔を覗きこむと、微笑みながら小さく頷いてくる。

それと同じものをカガリも返して、もう一度、さっきよりも幾分色濃くなった夕焼けを見た。

「この景色と逆だな」

カガリは半分に割ったマシマロの欠片を、アスランの口に放り込んだ。

そして残りの半分を自分の口に入れると、2人しておどけてクスクス笑いあった。



やがてどちらからともなく笑いをおさめると、アスランはカガリに顔を近づけ、 眩しそうに見つめたまま囁いた。

「カガリは…去年よりずっと、綺麗になった」

瞬間、カガリは夕陽に負けない位真っ赤になったかと思うと、

照れ隠しで思いっきり アスランのおでこに自分のそれをぶつけた。

ゴツッと鈍い音が響き、アスランはあいた方の手で自分のおでこをさすった。

「…痛いな」

抗議を含んだ声がカガリの耳にも届いたがカガリは目をつり上げて、でもまだ真っ赤なままで 唸った。

「…お前だって、去年よりずっと綺麗になった!」

そう指摘されたアスランは、何とも複雑そうな顔で笑っている。

そんなアスランを見て、カガリがニヤリと笑ったのを合図に 再び肩を並べてこのオレンジの景色を見続けた。



オレンジだった西の空も、薄い紫に色を変えつつあった。

雪の量はそう多くはないが、まだ止む気配はない。

このまま2人、雪に埋もれてしまってもよかったが…



「冷えてきただろ?そろそろ部屋に戻るか?」

そう言ってアスランに体ごと向き直ると、アスランの方はまだ西の空を見つめたまま 「そうだな…」と呟く。

それからしばらくして…ようやくカガリの方を見ると、少し目を細めて可笑しそうに微笑んでいる。

何かそんなに可笑しいのかわからず首を傾げるカガリに、

すっとアスランの顔が近寄ってきたかと思うと、くちびるでカガリの鼻のてっぺんに軽く触れる。



「雪がのっかってたよ」

ゆっくり顔を離したアスランはそう言ってまた笑う。

すると照れながら微笑んでいたカガリの方も可笑しそうに笑う。

「今度はお前のくちびるに雪がついたぞ」

そう言ってやると、アスランは少し屈んでカガリと目線を合わせてきた。

そんなアスランが可笑しくて、カガリはくすくす笑いながら とけかかった雪にそっとくちびるでふれた。

静かにくちびるを離すと、ます2人はくすくす笑いあって部屋へ戻る扉に 肩を抱き合いながら歩いていった。



「私たち、真っ白だな」

「ああ、そうだな」

「これじゃ、溶かしあうのが大変だ」

アスランは返事の代わりに、カガリの頭にのっけた白いショールに何度もキスをして

カガリの肩を抱く手に力をこめた。

「ああ、大変だ」



そうして2人は屋上にうっすら積もる雪の上に、幽かな足跡を残してこの場を後にした。



この日、カガリはスウィートルームの豪奢なベッドではなく その半分程の広さのベッドに横になった。

その隣に誰がいたのか、きっちり睡眠が取れたかどうかは… 当人たちだけの秘密。




あとがき
このお話、ホワイトデーイベントに出展していたものとほぼ同じですが、微妙に変えてあります…
理由は現在「倉庫」にある掲示板の小話。それに繋がるようにエピソードを付け加えたからです。
今でも読めるはずなので、是非ご一読下さい。3月の掲示板ですので。

護衛についてですが…一応名前は伏せてみました。 そしてキサカでも大丈夫な口調にしてみましたが…キサカに見えるでしょうか?
戦後、さすがにキサカはカガリの護衛はやってないんじゃないかな?とも思ったのですが…
まあ好きな顔想像して読んでみて下さい!

04.03.14 up