「どうせ私を捕まえた時にお前も濡れてたんだからいいじゃないかっ」
渋るカガリの手を取って、アスランは大股でヘリへと向かっていた。
人をずぶ濡れにしたくせに、カガリは全く悪びれる事なく、
まるでアスランの方が悪いと言わんばかりにぶつぶつ文句を言い続けていた。
「この後は洞窟へ行って、火をおこして、服を乾かす筈だろう!?」
「カガリ」
アスランはぴたりと立ち止まって振り返り、きょとんとしているカガリを睨みつけた。
「あの時はスコールがあった。あれで汚れを洗い流してから服を乾かしたんだ。
当時を再現するのにも限界があるだろう。着替えも食料も用意していないんだろう? だったら戻るしかないじゃないか」
一方的に言い放って、アスランは再びヘリに向かって歩き出した。
だがカガリの抵抗は逆に強くなっていく。
「服はちょっと我慢すればいいし、食料は用意してある! 今日はここで寝泊りするつもりだったんだから……」
「何だって!?」
再びアスランは足を止め、勢いよく振り返った。
カガリはアスランの手を両手で掴み、ぐいぐいと引っ張りはじめた。
「だから今夜はここで……」
――――アスランは咄嗟に二の句が継げなかった。
ここで寝泊りだって!?彼女は何を考えているんだ?
本当に、ここで二人きりで過ごして、一年前と同じ状況でいられると思っているのだろうか。
今現在のカガリの立場、そして自分達の関係を考えれば、そんな事を実行しようとは思いもしない筈だ。
アスランは先程よりも、強い力でカガリを引っぱって歩き始めた。
そのままずるずると引き摺るようにヘリへと向かう。
どんなにカガリが抵抗しようとも、アスランは決めたのだ。絶対、何が何でも今すぐオーブへ戻ると。
「アスランッ!嫌だってば!私はここに残る」
「ダメだっ!帰るぞ」
「いーやーだー!帰りたければ一人で帰れっ!」
「カガリッ!」
聞き分けのない駄々っ子のようなカガリを振り返って、アスランは大声で怒鳴った。
びくっと肩を竦ませてきゅっと目を閉じたのも一瞬で、 カガリはキッとアスランを睨みつけるように見つめて、キッパリと言い放った。
「私は今夜、ここで過ごすっ!ちゃんと許可だって取ってある!それに……」
ふっ、と視線を緩めて、カガリは上空を見上げた。
どうしたのだろうと同じように見上げるよりも早く、カガリの眼差しがアスランに戻って来た。
勝ち誇ったような、女神の顔だった。
「――砂まみれの体は、今から洗い流せばいい。ほら……!」
カガリはアスランから右手だけを放し、真っ直ぐにこちらを見据えたまま、天を指した。
その指先に、細い肩に、大粒の雫が降り注ぐ。それはアスランの髪や、頬や腕、繋いだ手にも。
「――――スコールだ!」
カガリは嬉しそうに微笑んで、天を仰いだ。
いつの間にかアスランから離れ、両手を空にかざして、自然の恵みを歓迎していた。
「アスラン!ほら、お前も洗い流せよ」
こちらを見て笑うカガリを見つめながら、アスランは一年前の光景を思い出していた。
そうだ――自分はこの時、彼女の縄を解き、解放したのだ――