アスランは一人でアスハの屋敷へと戻った。
ここではなく、軍の宿舎の方へ戻ってもよかったのだが、
カガリが帰って来た時、自分がいないと気落ちするかもしれない、そう思った。
マーナの出迎えを受け、挨拶すると、そのまま無言で食堂へと通された。
すでに連絡があったのだろう、カガリの事には全く触れてこなかった。
どこか申し訳なさそうな表情のマーナに改めて礼を言い、アスランは夕食をとった。
一人でとる食事は味気なく、本来ならばここにいた筈の少女を思って度々手が止まった。
無理矢理喉に流し込むように食事を終えた後、アスランは与えられた自室へと早々に引き篭もった。
しかし何もする気になれず、整えられたベッドの上へ倒れこむように横になった。
ぼんやりと白い天井を見ながら、アスランはカガリと別れた時の事を思い起こして胸に手を当てた。
あの状況で、ああいう誘われ方をして、カガリが断れないのは分かっているつもりだ。
だが、やはり気分のいいものではない。
ちくりと痛む胸を押さえながらアスランは首を傾けて真っ白なシーツの波に目をやった。
カガリの部屋で、そしてこのベッドで、幾度か体を重ねた事はある。
最初はお互い初めてで、カガリは小さな身体をかちこちにしていた。
アスランは無我夢中で柔らかな身体を貪った。
優しくしてやる余裕は全然なくて、ろくに労わる事もできなかったように思う。
それでもカガリが懸命に身体を開いてくれた事が嬉しかった。
だが、それも最初だけだった。
互いが互いを想い合っているのは明白なのに、アスランの胸に刺さった小さな棘は、
まっすぐに向かう筈の愛情を歪ませた。
カガリが自分の欲望に応えてくれるのは、罪悪感ゆえではないのだろうか、と。
いや、カガリの愛情を疑った事なんてない。
しかし――――アスランはカガリに対して全てを曝け出せなくなっていた。
そうする事で、拒絶される事が怖いのだ。
確かにユウナの存在は二人の間、少なくともアスランの心に大きく影を落としていた。
どれだけカガリが彼を避けようとしていても、拒絶しても、公的に彼は婚約者で、
大勢の人々に祝福されて、易々とカガリを手に入れられる立場にいる。
自分がユウナより劣っているとは微塵も感じてはいないが、カガリに関しては負けている。
その敗北感はカガリを抱いても拭えずにアスランの心の奥に潜んでいるのだ。
アスランは心の靄を全て吐き出すように大きなため息をついた。
こんな風にぼうっと横たわっていると、余計な事ばかり考えてしまう。
今、カガリはセイラン家で、未来の家族達に囲まれて食事をとっている――――
そんな光景が脳裏に浮かぶ。
そしてユウナはニヤけた顔でカガリに手を伸ばし、べたべたと触れて――――
アスランは全てを振り払うかのように勢いよく体を起こし、ベッドから飛び降りた。
どうしても思考が悪い方へ、悪い方へ向いてしまう。
アスランは気分を変えようと、静かに自室を出た。
タイトル 「SWEET FEBRUARY」 R-18
07.2.11発行予定。A5 FCオフ 28P 300円。