――――こんな行動にでてみたものの、カガリはこの後、どうすればいいのか分からなかった。
手首とはいえ久々にアスランに触れて、カガリはこのままどこへ行くべきか迷っていた。
「……どこへ連れて行くつもりだ?」
低い、怒りを含んだ声だった。
久々に間近で聞いた声が、これだった。
カガリはぴたりと立ち止まり、振り返らずに口を開いた。
だが声が出ない。
何を話していいのか、何と答えていいのか、全く浮かんでこなかった。
「……仕事中なんだが」
ため息まじりの呟きに、体内の血液が沸騰する。
全身がかあっと熱くなって、カガリはとうとう振り返って大声を上げた。
「何でお前がここにいる!?」
一番聞きたかったのはこれなのだ、と、カガリは口に出してみてやっと解った。
オーブに大して愛着などないくせに、故郷であるプラントが大変な時なのに、
どうして彼はここにいて暢気に端末とにらめっこしているのか。
カガリが大声を上げても、その熱など全く伝わっていない、冷めた緑の瞳。
今までカガリはこんな瞳に見つめられた事はなかった。
ああ――――カガリはひとつだけ、理解した。
やはりアスランはもう自分の事など、何とも思っていないのだ。
ならば――――カガリはずっと溜め込んでいた想いをぶつけた。
「ここにいる事がお前の一番やりたい事か!?何をおいてでもやらなきゃならない事なのか!?
違うだろう!全部こちらで上手くやるから、お前はプラントに――――」
「いやだ」
低い、やはり温度のない、冷たい声だった。
カガリとは正反対の、熱のない声。
「俺が、俺自身が選んでここにいるんだ。誰かに指図されるいわれはない。
たとえこの国の代表首長でも――――口を出す権利はない筈だ」
まるで初めて出会った頃に戻ったようだ、と、こんな状況の中、カガリはぼんやり考えた。
互いの言い分がすれ違い、相手に伝わらず、聞き入れず、平行線のまま――――
いや、あの時の方がましかもしれない。
それでも最後には、少し解り合えた気がしたから――
ぐっと握ったままのアスランの手首はその眼差しと同じで冷たく、 あまりにも自分と違うように感じられた。
ぴくりとも動かずにらみ合ったまま、先に目を逸らしたのはまたしてもカガリの方だった。
こんな風にじっと見られて、それに耐えられなくて、カガリはゆっくりと握ったままだった手首を放した。
ずっと冷たいと感じていた手首を放したのに、カガリの掌は何故か余計に寒さを感じた。
「……勝手にしろ……」
背を向け弱々しく呟いて、カガリはそのまま歩き出した。
あんなに熱かった体から熱が逃げていく。
肌寒ささえ感じて、カガリは歩きながら自分の体をギュッと抱きしめるように腕をまわした。
こんなに自分を小さく感じたのは初めてかもしれない。
いっそのこと、このまま消えてなくなってしまえば、楽になれるだろうか――――
通路の角を曲がって、姿が見えなくなるまで、切なげな瞳が見つめていた事を、 カガリは気付きもしなかった。