「カガリは……いい子だよね……」

そう大きくないキラの声に、アスランはびくっと体を震わせ、現実に引き戻された。

頭の中いっぱいに広がったカガリの様々な表情を打ち消すと、 アスランは取り繕うのに失敗した顔を、ぎこちなくキラに向けた。

「な、何だ、急に」

「……アスランが惹かれたのは、解るよ……」

静かな、淡々とした呟きに、アスランは咄嗟に顔をそむけた。

惹かれているのは事実なのだが、改めて口に出して言われると恥ずかしい。

何とも形容し難い空気が二人の間を漂っているように感じるのは気のせいだろうか。

足元に落としていた視線をちらりと隣に向けると、キラは眼前に広がる暗い海の遥か遠くを、 眺めるように見つめていた。

アスランははっとして、その横顔を凝視した。

せっかくキラが話し始めていたのに、 うろたえてまともに返せなかったせいで会話が終了してしまった。

でも今のキラなら――アスランの話に耳を傾けて、昔のように笑って応えてくれるかもしれない。

何か話題はないだろうかとアスランは必死に考え始めた。

カガリに関する話はこれ以上続けるつもりはなかった。

流れ的にはそれか一番自然だが、 照れくさくてロクに受け答えができない自分の姿が容易に想像できたからだ。

だからそれ以外の話題を――

「……カガリが、アスランに惹かれたのも……解るよ……」

島の子供達、マルキオ導師やカリダの顔を脳裏に浮かべながら、

そこから何か話が掴めないか思案していたアスランの頭を真っ白にしたのは、 独り言のようなキラの呟きだった。

「……え……?」

咄嗟に漏れたため息のような声は、波の音にかき消されてキラの耳には届かなかった。

海を見つめたまま、納得したようにゆっくりと頷くキラを呆然と見つめたまま、

アスランは突如自分の中で急速に膨らんだ疑問に掻き乱されていた。



――カガリは、自分のどこに、惹かれたのだろう――?



全てが消し飛んですぐ、脳裏にぽうっと浮かんできた言葉に、アスランは激しく動揺した。

その答えが全く思い浮かばなかったのだ。

カガリは自分のどこを気に入ってくれているのか、アスランには解らなかった。

しばらく熱心に考えてみたが、やはり答えは出てこなかった。

アスランは無意識に、すぐ隣で静かに佇むキラをじっと凝視した。

考えるのに必死ですっかり存在を忘れていたが、キラが問題となった一言を発したのだ。

カガリがアスランを好きになる理由が解る、と。

どんなに考えても出て来ない答えを、キラは知っている。ならば訊くしかない。

アスランは体ごとキラに向き直り、大きく息を吸い込んで――躊躇した。

何と言葉にすればいいのかためらった。

というよりも、プライドが邪魔して素直に訊けない。

キラが解っている事を、当の本人であるアスランが「解らないから教えてくれ」など、 言える筈がなかった。


















タイトル 「寝ても覚めても」

08.03.30発行予定。A5 FCオフ 24P 300円。