うきうきとした気分で本棚を心ゆくまで眺めていると、 ふと視界の端に赤いランプが割り込んできた。

何だろうと思って視線を移すと、部屋の隅にまるで追いやられるようにぽつんと、 赤い携帯電話が転がっていた。

充電しているからだろう、赤いランプが点いたままになっている。

「なあ、これ、アスランの携帯か?」

振り返ってカガリが指差すと、アスランはちらりと携帯を見て頷いた。

「ああ」

カガリは部屋の隅に移動するとしゃがみこんで、赤い携帯をじっと見つめた。

「……アスランって携帯持ってないんだと思ってた……」

「何でだよ」

少しむっとした声で呟くと、アスランはカガリの隣に腰を落とした。

カガリは携帯の赤いランプを見つめたまま答えた。

「だって持っているところ、一回も見た事がなかったし……」

「キラの家に行くのに携帯なんて必要ないだろう」

カガリはさっと顔を上げ、信じられない思いでアスランの横顔をまじまじと見た。

「そんな事ないだろう?友達や親から急な連絡とか……」

「携帯に連絡してくるような友達はいないし、両親は急用なら自宅か、 出なければキラの家にかけてくる」

咄嗟に言葉が出なくて、カガリは目を見開いてアスランを凝視した。

彼の人付き合いは一体どうなっているのだろう。

キラとは学校が違うのに、他に友達はいないのだろうか。

そういえば――前にアスランはずっと家に閉じこもったままだったカガリに疑問を投げかけてきた。

だがよく考えてみたら、毎日毎日キラとばかり会うアスランの方が問題ではないだろうか。

一度考え始めると、アスランの学校生活がかなり心配になってくる。

仲の良いキラとは別の学校なのに、携帯に連絡してくる友達がいないとなると――

もしかしたらアスランは、学校でいじめられているとか――

「そういえば……」

「なっ、何!?」

とんでもない妄想を頭の中で繰り広げていたカガリは、アスランの声にびくっと体を震わせた。

アスランは不思議そうに首を傾げたが、すぐに真顔に戻って口を開いた。

「カガリは携帯、持っているのか?」

「あ、持っているぞ、もちろん」

カガリはジーンズの後ろポケットにつっこんできた携帯電話を取り出した。

淡いグリーンに模様が入っていて、とてもお気に入りのデザインだった。

「持っていたのか……てっきり持っていないのかと」

「何でだよ」

先程呟いたセリフを返されて、カガリもアスランと同じようにムッとした表情を見せる。

するとアスランは悪戯っぽく笑って、またしても同じセリフを返してきた。

「持っているのを見たことがなかったら……」

咄嗟に大きな声を上げかけたが、 すぐに苦い思い出が蘇ってきてカガリは視線を落とし自分の携帯をじっと見つめた。

「ここに来た時は、電源を入れてなかったからな……」

入れたのはつい最近だった。ほんの二週間ほど前――

「何で……ああ……」

尋ねるように顔を覗きこんできたアスランは、すぐに理由を察したのだろう、 小さく呟いて黙り込んだ。






















タイトル 「夏休み、ふたたび」

08.08.24発行予定。A5 FCオフ 52P 500円。