たくさんのM1が並ぶ中、一番に見つけたのはアイツの姿だった。

マユラと話しているその表情は真剣そのものだ。だが──あのマユラが萎縮しているように見える。

「もうちょっと愛想よくできないのか、アイツは……」

思わず呟いた自分の声にビックリし、カガリは本来の目的を思い出す。

今度こそキラを見つけようと再び、扉の隙間から覗き込むと、その姿はすぐに見つかった。

こちらは丁度話が終わったのだろう、ジュリににっこり微笑み、手をあげている。

そうそう。これ位やってやんないと、モテないぞ? などとどうでもいい事を考えている自分に気付き、カガリは気を取り直す。

もう少しだけ扉を開き、その隙間から手を差し出してキラに合図を送ってみた。

とりあえず手をパタパタさせてみる。それでキラが気付く筈もなく、

カガリはもう少しだけ隙間を広げて自分の身体をのりだし、 唇をぱくぱくさせて声を出さずにキラを呼んだ。

やはりそれでも気付く筈はなく、キラは手元の小型端末にデータを入力している。



キラッ、キーラーッ!



それでもカガリは声を殺して必死でキラを呼んだ。

ったく、きょうだいなんだから、すぐ気付いてくれてもいいじゃないかっ!

そんな勝手な考えを胸に抱きながらカガリがまた少し身を乗り出したその時──漸くキラがこちらを見た。

キラはにっこり微笑み、手を上げ、口を開きかけ──



ヤバいっ!

カガリは咄嗟に自分の口元に人差し指を当てる。

キラは不思議そうに首を傾げながらも黙ってカガリの元までやって来た。

「どうしたの?こんな所で……中に入って来ればいいじゃない」

そう言いながらも小声で話しかけてくれるキラに感謝しながら、

カガリは手に持っていた封筒を差し出しながら、やはり小声で囁いた。

「これエリカから。それで……今からさ、食堂行かないか?」

カガリから封筒を受け取りながら、その突然の申し出にキラは首を傾げたまま、それでも頷いてくれた。

「いいけど……だったらアスラ」

「ダメだっ!」

後ろを振り返りかけたキラを制してカガリは声を抑えながらもきつい調子で叫んだ。

キラはびっくりしながらゆっくり顔をカガリの方へと戻した。

「なんでさ?カガリ、昨日からちょっとおかしいよ?」

そんな事は自分でも重々承知の上だ。

だが罰ゲームの事は誰にも言わない約束なのだ。

本人には勿論の事、部外者にも。

カガリはえっと……と考えながら、キラの腕を引っ張った。

「とにかくっ!食堂に行こう!」

後はもうずるずる引きずるようにして、不思議がるキラを食堂まで連れ去った。

食堂でキラとそれなりに楽しい時を過ごしたカガリだったが、 いつアイツの事に関して尋ねられるかと、ヒヤヒヤしていたのも事実だ。

実際キラは、不自然なカガリの態度について、何度も尋ねてきた。



「ねぇカガリ、昨日からクサナギにアスラ」

「うわぁっ、キ、キラ!このスープ、美味いな〜!」



「どうしてカガリはあんなコソコソと僕だけ呼び出したの?きっとアスラ」

「あ、あっ、これ!コレキラにやるよっ!私、あまり好きじゃなくて……」



とにかく『アスラン』の事が話題に出そうになると、 カガリは無理矢理話を別の方向へ持っていこうと必死になった。

そのうちキラも諦めたのか、途中からアスランの名前を出す事はしなかった。

別れ際、キラは複雑な表情でカガリを見つめてきたが、結局何も言わず、 二人はにっこり微笑みあってそれぞれの持ち場に戻った。