召集されてからしばらく経ったある日、アスランの元に一通の封書が届いた。

それを持って来たのはオーブの代表である、カガリだった。

職務を終えた後なのだろう、急に連絡してきてうちへやって来たのだが、

カガリの表情は初めて首長達の前で結婚を宣言した日と同様、険しかった。

その封書を開封して中身を確認したアスランは、何故カガリが憮然としているのか、 理由が分からなかった。

「了解した。この日に国立病院に行けばいいんだな?」

「行くのか?」

カガリは驚いたように目を見開き、顔を上げた。その様子を不思議に思いながらも、 アスランは頷いた。

「勿論。行かないと君との婚姻は認められないんだろう?」

「こんなの、バカにしている!」

カガリはぷいっと顔をそむけるだけでは飽き足らず、体の動かして背中を向けてしまった。

アスランは苦笑し、カガリの側まで移動し、ふくれっ面を覗き込んだ。

「どうして?一国の代表の伴侶に相応しい相手かどうか、

ちゃんと調べておこうと思うのは当然の事だと思うけど……?」

オーブの首長達は、アスランとカガリに対してメディカルチェックを要求してきたのだ。

アスランとしては、代表の伴侶という理由だけではなく、いずれ子を成すのなら、

こういう検査はやっておいた方がいいと思っていた。だがカガリの考えは少し違うらしい。

「アスランは毎年モルゲンレーテで検診受けてるんだろう?

私だって定期的に診てもらっているし……別にこんなの、今更必要ないんじゃないか?」

不貞腐れたように呟いて、カガリは再び横を向き、顔を隠してしまった。

アスランは小さく笑って、あやす様にカガリの頭をポンポンと撫でた。

「普段の検診よりも、詳しく調べてくれると思うから……何でカガリはそんなに怒っているんだ?」

一向に笑顔を見せてくれないカガリに対して、アスランは首を傾けて尋ねてみた。

するとますます不機嫌な顔で、アスランを睨みつけてきた。

「……お前は何でそんなに嬉しそうなんだよ……」

言われて初めて、アスランは自分がずっと笑顔でいた事に気付いた。

アスランはそんな自分に対して笑った後、再びカガリの顔を覗きこんだ。

「多分……このメディカルチェックをクリアすれば、正式に認めてもらえるんじゃないか?」

カガリは一瞬、ハッとした顔を見せた。アスランはそれを見て微笑んだまま、話を続けた。

「絶対に認める気がないのなら、こんな検査さえ受けさせてもらえないだろう……

カガリはそう思わないか?」

しかしカガリの表情は再び険しいものに変わっていた。

眉根を寄せ視線を落とし、アスランの腕を痛いくらいに掴んできた。

「そうかもしれないが……何か感じ悪い」

まるで子供のような物言いにアスランはふっと笑って、またカガリの頭をぽんと撫でた。

「首長達は君が大切なんだよ……仕方ないさ」

首長達は全員、国の代表であるカガリよりも年上だ。

しかし彼らから、カガリを見下したりするような態度は見受けられなかったし、

カガリをちゃんと一国の代表として認めているように思った。

それはカガリからの話でも感じていたし、実際自分で目にして、そう感じた。

だが父のように兄のように、カガリを優しく、時には厳しく見守っている事も事実だろう。

カガリを大切に思うからこそ、その相手には厳しくなる。

だからこれくらい用心してもらった方が、アスランとしても都合がいいのだ。

疑念も問題もない状態で、正面からカガリとの婚姻を認めてもらいたいから――――

「本当にこれが済んだら……うまく、いくのかな……」

「だと、いいな」

不安そうに呟くカガリを、アスランはふわりと抱きしめた。

勿論アスランにだって不安がないわけじゃない。

しかしようやくここまで辿り着いたのだ。

ちょっとやそっとの事で、もうこの腕をゆるめるつもりはなかった。










タイトル 「愛してる」 R-18

07.5.3発行予定。A5 FCオフ 52P 500円。