モルゲンレーテで忙しい日々を送るアスランの元に、
今は上司でもあるエリカを通してある知らせが来たのは、それから数日が経ってからだった。
「確か……あなたの同僚なのよね」
アスランはエリカと共に食堂の隅で少し遅めの昼食をとりながら、小声で話していた。
アスランのオーブでの生活は、カガリと過ごす時間よりもエリカとの方が断然長い。
元々気安い人という事もあって、アスランは随分と彼女に気を許していた。
「ええ」
頷きながらアスランは頭の中で思考を巡らせていた。
停戦直後宇宙で別れて以来、彼とは会ってもいないし、話してもいない。
だが彼のプラントでの活躍は、アスランの耳にも届いていた。
軍に籍を置きつつ、ラクスと共にプラントの行政に携わっている、と。
その彼が公式にオーブへやって来るのは、恐らく初めてだ。
「折角だからこっそり会わせてもらえば?」
ウィンクをしながら微笑むエリカに、アスランの表情は自然と渋いものになった。
それをエリカが見逃す筈がなかった。
「なあに、会いたくないの?」
この人は解って言っているのだ。
今は一介の民間人であるアスランが、プラントの要人である彼と会うのは容易ではない。
この場合、アスランが彼と会おうとするならば、カガリに頼むしかないだろう。
アスランが公私混同を嫌っているのを知っていて、このひとは意地悪を言っているのだ。
アスランは小さく息を吐いただけでエリカの問いかけには答えなかった。
そしてエリカはアスランの答えを求めていたわけではなく、
ただ反応を面白がって遊んでいるのだという事が、この直後に解った。
「向こうはあなたに会いたいらしいわよ?」
目の前のサラダをフォークで突いていたアスランは勢いよく顔を上げた。
してやったり、といった表情のエリカを見て、アスランはまたため息をついた。
仕事の面でも、他愛のない会話でさえも、まだアスランは彼女には敵わないのだ。
「絶対に時間を作るから、先方の都合に合わせて予定を空けておいてほしいって頼まれたわよ」
そう言ってエリカはたった一行の走り書きがあるメモをアスランに差し出してきた。
恐らくカガリに――――だろう。
他の首長や、政府関係者がエリカにプライベートな言伝をするわけがない。
アスランはさりげなくそれを受け取り、
ちらりと目を向けただけで作業ジャケットのポケットにそれをしまった。
「解りました……この日は空けておきます――――自宅にいればいいんですか?」
エリカは小さく頷いてから、可笑しそうに微笑んだ。
「何も私を通さなくても、そっちでやりとりすればいいのに」
曖昧に微笑んで、アスランは黙って食事を再開した。
会っている時にはお互いの仕事の話はよくするほうだ。
カガリはアスランにアドバイスを求めてくるし、自分も簡単に仕事について話したりはする。
だが最近は会っていなかったし、わざわざ電話やメールを使ってまでそんな話はしない。
エリカの視線に気付かないふりをして、アスランは食事を続行した。